第19話:勇者の覚醒、黒曜の真なる姿
地平の彼方から舞い戻った龍皇の魔圧は、先ほどよりも禍々しく、黒い瘴気を帯びていた。
アルドがゴルドの捜索に走り、ミラが動けないゼクスとベラドンナに付き添う中、その「嵐」の前に立ったのはカイル一人だった。
「リナ、頼む……!」
カイルの声に応え、シオンの応急処置を終えたリナが、深く、強く両手を組んだ。
「……天にまします、慈悲深き光よ。この地に渦巻く歪な影を、どうか鎮めて……!」
リナの聖女としての祈りが、戦場を清冽な波動で満たしていく。
龍皇の背後に蠢く邪神の影が、その光を嫌うように身悶え、苦しげな咆哮を上げた。
「ぐ、おぉ……っ!? 貴様、何をした……!」
龍皇の動きに、僅かな「澱み」が生まれる。
「今だッ!!」
カイルは恐怖を振り払い、黒鋼の剣『黒曜』を正眼に構えた。
防戦一方。
龍皇の一撃を、剣を盾にして防ぐだけで精一杯だった。
弱体化しているとはいえ、相手は大陸を支配する魔王。
一撃一撃がカイルの腕の骨を軋ませ、視界を火花で埋め尽くす。
(負けるもんか……! お兄さんが戻るまで、俺がみんなを護るんだ!)
だが、勇者としての力が未だ未熟なカイルと、気まぐれに光を放つだけの『黒曜』。
そのリンクは完全ではなかった。
龍皇の漆黒の爪が、カイルの姿勢を崩した瞬間に放たれる。
「死ね、小僧!」
回避は間に合わない。
カイルが死を覚悟した、その瞬間。
「……させぬッ!!」
銀色の閃光が、カイルの前に割り込んだ。
瀕死の重傷から立ち上がったシオンだった。
彼女はリナの治療によって繋ぎ止められたばかりの体で、折れた刀を構え、龍皇の爪をその身で受け止めた。
「先生ぇ!?」
衝撃がシオンの体を貫き、彼女は血を吐きながら地面に崩れ落ちた。
「どうして……どうしてだよ! 自分の体もボロボロなのに、なんで俺なんかのために!!」
カイルが駆け寄り、シオンを抱きかかえる。
シオンは霞む瞳でカイルを見つめ、力なく微笑んだ。
「……某は、主の家族を守る、盾……。お怪我がなくて、よう、ございました……」
ガクン、とシオンの力が抜ける。
「先生!? シオンさぁぁぁん!!」
カイルの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
自分への不甲斐なさ、弱さへの嫌悪。
守ると誓ったはずの「家族」が、自分のせいで再び犠牲になった。
「何が勇者だ……何がみんなを守るだ!! 俺が弱いせいで……俺が、俺が何もできないせいで!!」
カイルの叫びが、国境の荒野に木霊する。
その時、カイルの胸の奥で、何かが爆ぜた。
アルドと共に過ごした日々。
お守りを貰った時の温かさ。
そして、絶対に失いたくないという「守護」の意志。
「うおおおおおおおお!! 黒曜っっ!! 力を貸せ!!! 貸しやがれぇぇぇぇぇー!!!」
叫びと共に、カイルの全身から黄金の魔力が噴出した。
その膨大な光は『黒曜』へと流れ込み、黒鋼の刀身を内側から焼き切るように輝き始める。
バキバキと音を立てて外殻が剥がれ落ち、中から現れたのは、純粋な魔力の結晶体――。
「……なんだ、その光は……!?」
龍皇がたじろぐ。
カイルの手に握られていたのは、もはや黒い剣ではなかった。
溢れ出すオーラが巨大な刃を形成する、伝説の聖剣――『真説・黒曜』。
「……もう、誰にも触れさせない。お兄さんの日常を壊す奴は、俺が、俺が斬るんだ!!」
勇者の覚醒。
その眩い光は、帰還しようとするアルドの目にさえ、遥か遠くから届くほどの輝きを放っていた。
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