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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
2章 北限の聖域

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第19話:勇者の覚醒、黒曜の真なる姿

地平の彼方から舞い戻った龍皇の魔圧は、先ほどよりも禍々しく、黒い瘴気を帯びていた。


 アルドがゴルドの捜索に走り、ミラが動けないゼクスとベラドンナに付き添う中、その「嵐」の前に立ったのはカイル一人だった。


「リナ、頼む……!」


 カイルの声に応え、シオンの応急処置を終えたリナが、深く、強く両手を組んだ。


「……天にまします、慈悲深き光よ。この地に渦巻く歪な影を、どうか鎮めて……!」


 リナの聖女としての祈りが、戦場を清冽な波動で満たしていく。


龍皇の背後に蠢く邪神の影が、その光を嫌うように身悶え、苦しげな咆哮を上げた。


「ぐ、おぉ……っ!? 貴様、何をした……!」


 龍皇の動きに、僅かな「澱み」が生まれる。


「今だッ!!」


 カイルは恐怖を振り払い、黒鋼の剣『黒曜』を正眼に構えた。


 防戦一方。


龍皇の一撃を、剣を盾にして防ぐだけで精一杯だった。


弱体化しているとはいえ、相手は大陸を支配する魔王。


一撃一撃がカイルの腕の骨を軋ませ、視界を火花で埋め尽くす。


(負けるもんか……! お兄さんが戻るまで、俺がみんなを護るんだ!)


 だが、勇者としての力が未だ未熟なカイルと、気まぐれに光を放つだけの『黒曜』。


そのリンクは完全ではなかった。


 龍皇の漆黒の爪が、カイルの姿勢を崩した瞬間に放たれる。


「死ね、小僧!」


 回避は間に合わない。


カイルが死を覚悟した、その瞬間。


「……させぬッ!!」


 銀色の閃光が、カイルの前に割り込んだ。


 瀕死の重傷から立ち上がったシオンだった。


彼女はリナの治療によって繋ぎ止められたばかりの体で、折れた刀を構え、龍皇の爪をその身で受け止めた。


「先生ぇ!?」


 衝撃がシオンの体を貫き、彼女は血を吐きながら地面に崩れ落ちた。


「どうして……どうしてだよ! 自分の体もボロボロなのに、なんで俺なんかのために!!」


 カイルが駆け寄り、シオンを抱きかかえる。


シオンは霞む瞳でカイルを見つめ、力なく微笑んだ。


「……某は、主の家族を守る、盾……。お怪我がなくて、よう、ございました……」


 ガクン、とシオンの力が抜ける。


「先生!? シオンさぁぁぁん!!」


カイルの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。


自分への不甲斐なさ、弱さへの嫌悪。


守ると誓ったはずの「家族」が、自分のせいで再び犠牲になった。


「何が勇者だ……何がみんなを守るだ!! 俺が弱いせいで……俺が、俺が何もできないせいで!!」


 カイルの叫びが、国境の荒野に木霊する。


 その時、カイルの胸の奥で、何かが爆ぜた。


アルドと共に過ごした日々。


お守りを貰った時の温かさ。


そして、絶対に失いたくないという「守護」の意志。


「うおおおおおおおお!! 黒曜っっ!! 力を貸せ!!! 貸しやがれぇぇぇぇぇー!!!」


 叫びと共に、カイルの全身から黄金の魔力が噴出した。


 その膨大な光は『黒曜』へと流れ込み、黒鋼の刀身を内側から焼き切るように輝き始める。


 バキバキと音を立てて外殻が剥がれ落ち、中から現れたのは、純粋な魔力の結晶体――。


「……なんだ、その光は……!?」


 龍皇がたじろぐ。


 カイルの手に握られていたのは、もはや黒い剣ではなかった。


 溢れ出すオーラが巨大な刃を形成する、伝説の聖剣――『真説・黒曜オーラソード』。


「……もう、誰にも触れさせない。お兄さんの日常を壊す奴は、俺が、俺が斬るんだ!!」


 勇者の覚醒。


 その眩い光は、帰還しようとするアルドの目にさえ、遥か遠くから届くほどの輝きを放っていた。



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