第18話:終焉の咆哮、黄金の降臨
国境の空は、龍皇が放つ漆黒の雷鳴によって夜よりも暗く塗り潰されていた。
そこには、もはや「人の姿」を捨て、種族の限界を超えた真の姿を曝け出した四人の魔族がいた。
「『冥府の門、開門』! 演算、解析、全破棄!」
エルダーリッチとしての本性を現したゼクスが、無数の魔法陣を空中に展開する。腐食の魔力が龍皇を包むが、邪神の影はその全てを無効化した。
「ガハハッ! 俺様の角が折れるか、テメェの首が飛ぶか、勝負だぜッ!」
三メートルを超える巨躯となったオーガキング、ゴルドが、山を砕くほどの巨斧を叩きつける。
「ワタクシの接吻は毒よりも甘いわよ……死になさい!」
背中に巨大な翼を生やしたサキュバス、ベラドンナが、空間ごと神経を焼き切る魔力を放つ。
「某が刃は、主君の敵を討つためにのみ在る……『極意・冥河斬』!」
首を繋ぎ止め、常闇を纏ったデュラハンの騎士、シオンが、一瞬で千の斬撃を繰り出す。
魔族としての真の力を解放した、全盛期の四天王による同時攻撃。
それは一つの国家を数秒で地図から消す絶技の奔流だった。
だが。
「……五月蝿い羽虫どもめ。この程度か」
龍皇が低く呟くと、その影から触手が伸び、四天王の猛攻を紙切れのように引き裂いた。
漆黒の拳がゴルドの巨躯を捉える。
「……あ、が……ッ!?」
圧倒的な衝撃。
タンク役として前線を支えていたゴルドの腹部に、巨大な穴が穿たれた。
「ゴルド殿ッ!!」
シオンの叫びも虚しく、ゴルドは地平線の彼方まで吹き飛ばされ、砂塵の中に消えた。
均衡は一瞬で崩壊した。
ゼクスの魔法陣は砕かれ、ベラドンナは翼を折られて地面に叩きつけられる。
シオンもまた、愛刀が中ほどから折れ、膝を突いた。
「……もはや、これまでか」
シオンは折れた剣を杖代わりに、震える体で立ち上がろうとするが、力が入らない。
視界が赤く染まる中、彼女は胸元にある『世界樹のお守り』を強く握りしめた。
「マスター……アルド様……申し訳ございません。某、日常を、お守りすることが……」
龍皇がトドメを刺そうと右手を掲げた。
死の予感がシオンの背筋を抜けた、その瞬間。
――ドォォォォォォォンッ!!
空から降ってきたのは、雷鳴ではない。黄金の光を纏った「人」だった。
「……え?」
シオンの目が点になる。
次の瞬間、龍皇の顔面に、何の構えもない「ただの平手打ち」が叩き込まれた。
凄まじい衝撃波が大地を割り、邪神を宿した龍皇の巨躯が、まるでゴミ屑のように地平の彼方へと吹き飛ばされて消えた。
「シオンさん、大丈夫かい!?」
聞き慣れた、穏やかで温かい声。
そこには、いつもの木こりの服を纏ったアルドが立っていた。
「……あ……アルド、様……?」
「酷い怪我だ……早くリナの手当を受けないと!」
アルドはシオンを優しく抱え上げると、後方に着地したミラの元へ瞬時に移動した。
そこにはすでにリナが待機しており、すぐさま回復魔法の光がシオンを包み込む。
「……アルド、様。某より……ゴルド殿が! 腹に穴が空いております! 早く、早く彼を!!」
いつもの冷静なシオンからは想像もつかない、必死の叫び。
アルドの目が、一瞬だけ鋭くなった。
「わかった。すぐに見つけてくる。ミラさん、ゼクスさんたちをお願い!」
アルドはそう言い残すと、弾丸のような速さでゴルドが飛ばされた方向へと消えた。
ミラはすぐさまゼクスとベラドンナの元へ駆け寄り、治療を開始する。
だが、静寂は続かなかった。
地平線の彼方から、山を割り、空を裂くような殺気が舞い戻ってきたのだ。
吹き飛ばされた龍皇が、屈辱に震え、邪悪な魔力を極限まで膨らませて帰還したのである。
「……来るわ!」
ミラが叫ぶ。
だが、四天王は動けず、アルドはまだ戻っていない。
戻ってきた絶望を前に、一人の少年が震える手で「黒曜」を抜いた。
「……来させない。ここには、怪我をしたみんながいるんだ!」
カイルだった。
足が震え、歯の根が合わないほどの恐怖。
けれど、彼はリナの前に、そして倒れた仲間たちの前に立ち塞がった。
黒鋼の剣が、かつてない強敵を前に、激しく、眩しく、閃光のような光を放ち始める。
「俺が……みんなを守るんだッ!!」
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