第11話:震える玉座、最強の武神
西の大地、龍皇城。
二度の敗報、そして二人の四天王の喪失。
静寂に包まれていた謁見の間は、今や物理的な破壊を伴う魔力の嵐に飲み込まれていた。
「……ガルドスのみならず、ハデスまでもが消されたか。あのような呪術の権化が、跡形もなく」
龍皇の瞳が、怒りで黄金色に燃え上がっている。
彼が指先で叩いた玉座の肘掛けは、粉々に砕け散り、周囲の空間はその魔圧に耐えかねて歪んでいた。
「もはや他者に任せるなどという不合理は不要。余が自ら、その北の地を地獄の業火に変えてくれよう……!!」
龍皇が立ち上がった瞬間、城全体が地震のような衝撃に襲われた。
西の魔王、龍皇。
彼が動くということは、世界の均衡が崩れ、数多の国々が焦土と化すことを意味する。
だが、その暴走する「破壊の意志」を遮るように、一人の影が玉座の前に立ちはだかった。
「……龍皇様。まだ、その時ではございませぬ」
低く、地響きのような、それでいて冷徹な声。
現れたのは、これまでの龍将たちのような派手な装飾も、悍ましい毒気も持たない一人の男だった。纏っているのは、古びた、しかし傷一つない深紅の甲冑。
腰に佩いているのは、銘すら持たぬ一振りの大刀。
「……退け、ヴァルガス。余を止めるつもりか」
「滅相もございませぬ。なれど、一国の王が末端の不純物を相手に自ら手を汚すなど、龍皇軍の威光を汚すも同義。……某が、その汚名を雪いでご覧に入れましょう」
『天龍将』ヴァルガス。
西の魔王軍四天王の筆頭にして、西の大地で並ぶ者がいないと称される、孤独な武神。
口数は極めて少なく、ただ一振りの刀のみで道を切り拓いてきたその存在は、同じ四天王であったガルドスやハデスですら恐れ、道を開けるほどの武を誇る。
龍皇の黄金の瞳と、ヴァルガスの静かな瞳がぶつかり合う。
数秒の沈黙の後、龍皇の周囲を渦巻いていた魔圧が、ふっと霧散した。
「……よかろう。ヴァルガスよ、貴様の『武』は、余すらも認めるもの。北の不純物どもに、真の絶望と、龍皇軍の圧倒的な威光を示してこい」
「……御意。必ずや」
ヴァルガスは深々と一礼し、影に沈むように姿を消した。
その頃。
北のログハウスの庭では、シオン がカイル の剣術修行を付けていた。
「カイル、腰が高い。マスター の薪割りを見よ。無駄な力みは、刃の純粋な力を殺す」
「わ、分かってるってばシオン先生! でも、黒曜が言うことを聞いてくれないんだよ!」
カイル が振り回す黒鋼の剣「黒曜」は、未だその真価を眠らせたまま、鈍い光を放っている。
シオン は青いポニーテール を揺らし、自らの刀を鞘に収めたまま、静かに西の空を睨んだ。
(……先ほどから、大気が震えている。ゴルド殿 やベラドンナ殿 が相手をした者たちとは、格が違う「武」の気配。……マスター の平穏を乱す不心得者。某 が、この首に懸けて断たねばならぬな)
「シオンさん、カイル。休憩にして、お茶にしようか?」
家の軒先から、アルド がお盆を持って声をかける。
その瞬間、シオン の鋭い剣士の瞳が、師を慕う少女の輝きへと変わった。
「は、はい! マスター ! 今すぐ参ります!」
彼女は小走りでアルド の元へと駆け寄り、彼からハーブティーを受け取ると、幸せそうに少し頬を緩めた。
アルド のお守りが胸元で優しく揺れている。
迫りくる西の大地最強の「武神」。
そして、それを迎え撃つことになる、最強の師 の教えを継ぐ少女。
北限の聖域に、静かな、けれど熱い火花が散ろうとしていた。
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