第8話:鋼の巨鬼、黒龍の炎
北の国境、永久凍土が広がる断崖。
吹き荒れる雪嵐の中、北の魔王軍四天王が一人――
『巨鬼将』ゴルドは、愛用の巨大斧を肩に担ぎ、悠然と地平線を眺めていた。
彼の胸元には、アルドから贈られたばかりの世界樹のお守りが揺れている。
「……アルド殿。アンタに『心配だ』なんて言われちまったら、俺様はここで一歩も退くわけにはいかねえんだよ」
その時、天を割るような咆哮と共に、漆黒の流星が地上へと叩きつけられた。
雪煙を上げ姿を現したのは、西の四天王、黒龍将ガルドス。
漆黒の龍鱗を纏ったその姿は、まさに天災そのものだった。
「……不純物め。貴様がこの地の守護者か? 龍皇様の進軍を阻む矮小な命、我が龍炎で灰すら残さず焼き尽くしてくれよう」
ガルドスが片手を掲げると、周囲の雪が瞬時に蒸発した。凝縮された超高熱の龍炎が、彼の手のひらで太陽のように脈動する。
「死ね!!」
解き放たれたのは、山をも容易に貫く極大の火炎放射。
すべてを焼き尽くす龍の息吹が、ゴルドを真っ向から飲み込んだ。
轟音。爆炎。
大地は一瞬で溶岩の沼へと変わり、周囲の空間が熱で歪む。
ガルドスは勝利を確信し、冷笑を浮かべた。だが。
「……おいおい、焚き火か?」
炎のカーテンを強引に引き裂き、無傷のゴルドが飛び出してきた。
龍の炎を、彼はただの「気合い」と、極限まで練り上げた「魔力障壁」のみで撥ね除けたのだ。
「な……!? 我が龍炎を真っ向から受け、生きて……だと!?」
「アルド殿に『怪我をするな』と言われたんだ。だったら、掠り傷一つ負うわけにはいかねえだろうが!!」
ゴルドの瞳に、野生の猛りを超える、守護者としての意志が宿る。
彼は斧を両手で握り、大地を蹴った。雪原がクレーター状に陥没し、その巨躯が弾丸のように加速する。
「行くぜトカゲ野郎! 俺様の全力――喰らいやがれ!!」
ガルドスは慌てて漆黒の爪を繰り出し、龍の膂力で迎え撃とうとした。
だが、振り下ろされた斧に込められた「力」の密度が、龍のそれを遥かに凌駕していた。
「『爆震・焔魔割り』!!」
雷鳴のような衝突音。
ガルドスが誇る最強の龍鱗は、ゴルドの純粋な怪力の前に、ガラスのように脆く砕け散った。
衝撃波が天の雲を吹き飛ばし、断崖の一部が崩落する。
ガルドスは自身の腕がひしゃげる感触に目を見開いた。
「ぐ、あぁぁぁ!? ただのオーガが……龍の力を、力でねじ伏せるだと……!?」
「勘違いするな。俺様は『北の四天王』だ。北の大地の平和を乱す不審者は、俺様がその根性ごと叩き潰す!」
地に叩きつけられ、満身創痍となったガルドスを見下ろし、ゴルドはフンと鼻を鳴らした。
「……さあ、命を拾いたけりゃ今のうちに失せな。」
ガルドスは屈辱と恐怖に震え、折れた腕を抱えて這いずるように空へと逃げ帰った。
ゴルドはそれを見送ると、再び気の良い笑顔に戻り、首から下げたお守りを大切そうに服の中に仕舞い込んだ。
「……ふぅ。腹が減ったな。今日はアルド殿、猪肉のシチューだって言ってたな。冷めねえうちに帰らねえと!」
最強の巨鬼は、家族の待つ聖域へと意気揚々と歩き出した。
その背中には、一切の傷も、煤すらもついていなかった。
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします




