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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
2章 北限の聖域

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第7話:不滅の魂、溢れる涙

アイゼンベルク辺境伯邸の地下


一般の使用人は立ち入りを禁じられた一室。


そこは、北の魔王軍の幹部たちが作戦を練る「戦術統制室」である。  


ミラは、先ほどアルドから預かった四つの木彫りのお守りを、円卓を囲む四天王たちの前に静かに並べた。


「……アルド様から、皆様へですわ」


 ミラの言葉に、場が静まり返る。  


ゼクス、ゴルド、ベラドンナ、シオン。


彼らはそれぞれの手に、素朴で温かみのある木片を取り上げた。


「これは……世界樹、ですな」  


ゼクスが震える指先でその表面をなぞる。  


不死者のエルダーリッチとして数百年を生き、感情の摩耗しきったはずの彼には、その木片に込められた「祈り」の重さが、物理的な質量を持って伝わってきた。


「アルド様は仰っていました。皆様が日替わりで出張(国境派遣)されるのを案じて……。もし危機が迫れば、リビングにある熊の置物が光って知らせてくれる。だから、安心して仕事に行ってほしい、と」


 ミラの言葉が、彼らの胸の奥に深く突き刺さる。  


自分たちは魔族だ。


本来、人間とは相容れず、ましてや慈しまれる対象ではない。


正体を隠し、平穏な日常に紛れ込んでいる不純物。


そう自嘲していた彼らにとって、アルドの無垢な親愛は、何よりも鋭く魂を打った。


「……不死者となってから、心臓が動くことなど二度とないと思っておりました」  


ゼクスが眼鏡を外し、目元を覆った。


「このような……熱い感情を、再び味わえるなど。アルド殿、私は……私は不合理なほどに、救われてしまいました」  


彼の目からは、生者であった頃以来の、透明な雫が零れ落ちた。


「ガ、ガッハッハ……! 縁起でもねえこと言うなよゼクス! アルド殿の想いに答えようぜ……! 俺様たちが、しっかり働けばいいだけの話だろ……ッ!」


 豪快に笑おうとして、声が引き攣っているのはゴルドだ。


岩のような巨躯を震わせ、彼はすでに子供のように号泣していた。


鼻水をすすり、丸太のような腕で涙を拭うが、溢れる想いは止まらない。


「某は……」  


シオンが、お守りを両手で包み込み、胸元に抱きしめた。  


青いポニーテールが微かに揺れる。


デュラハンである彼女にとって、首を繋ぎ、人間として扱ってくれるアルドの存在は、暗闇の中に差した唯一の光だった。


「……某は、良いマスターに出会えた。このお守りに懸けて、二度とマスターを悲しませるような醜態は晒さぬ。……不覚、目に、ゴミが……」  


控えめに、けれど確かに潤んだ瞳を伏せ、彼女は静かに誓いを立てた。


「……ふふ。あんた、どの口が言ってるのかしら」  


涙の筋が頬を伝っているベラドンナが、隣で号泣するゴルドの肩を叩く。


「一番泣いてるのは、あんたでしょ。……ワタシも、人のこと言えないけれど」  


いつもの凛とした空気が、今はどこにもない。


サキュバスとして男を惑わすことしか知らなかった彼女が、初めて「純粋な愛」という毒に、心地よく侵されていた。


 ミラは、その四人の姿を見て、自身も潤む瞳を隠さずに微笑んだ。


「……ええ。私たちが何者であっても、アルド様にとっては大切な『家族』なのですわ。……この光を、あの龍皇の炎に汚させるわけにはいきませんわね」


 かつては恐怖と支配で繋がっていた魔王軍。


 しかし今、この北限の地で彼らを繋いでいるのは、一人の青年が削り出した、小さな木彫りのお守りだった。


 その夜、リビングの棚に置かれた「木彫りの熊」は、まだ一度も光ることはなかった。  


ただ、暖炉の火に照らされて、どこか誇らしげに、家族の平穏を見守っているようだった。



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