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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
2章 北限の聖域

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第5話:龍皇の眼、聖域の灯

西の大地。


空すらも紅蓮の雲に覆われた「龍皇城」の玉座の間。


 一万二千の軍勢が、たった数分で全滅したという報せは、沈黙をもって迎えられた。


「……消えたか。一兵の生還も、一言の魔力通信も残さず」


 玉座に深く腰掛けた男――西の魔王、龍皇が低く呟く。


その瞳は縦に裂け、漏れ出る魔圧だけで周囲の空気は真空へと変わる。


彼にとって、一万の兵など路傍の石に等しい。


だが、その石を一瞬で粉砕してみせた「北の力」には、無視できない興味を抱いていた。


「東の敗残兵どもを追った先に、これほどの伏兵がいたとはな。バロールめ、死に花を咲かせる場所として『北の氷壁』を選んだか」


 龍皇は、傍らに控える巨影へと視線を向けた。


「……ガルドス。貴様が行け。四天王の名に懸けて、その『不純物』の正体を暴き、焼き払ってこい」


 闇の中から、禍々しい漆黒の鱗を纏った大男が歩み出る。


西の四天王が一人、黒龍将ガルドス。


「御意……。北の偽りの平穏、我が炎で灰に帰してご覧に入れましょう」


 龍皇の命を受け、災厄の先触れが北へと羽ばたいた。


 その頃。  


世界を揺るがす軍事衝突の震源地から帰還した四天王たちは、村の入り口で魔力を完全に断ち切っていた。


 先ほどまで一万の命を屠った化け物たちは、アルドのログハウスの扉を控えめに叩く。


扉が開き、エプロン姿のアルドが顔を出す。


「……アルド殿、ただいま戻りました」  


ゼクスが眼鏡を正し、冷徹な仮面を維持しながら告げる。


「マスター…… 某、任務を全ういたしました」  


シオンが青いポニーテールを揺らし、真っ直ぐな瞳でアルドを見上げる。


「お帰りみんな。……遠くの知人の方は大丈夫だったかい?」


「ええ、彼らはお掃除を完璧に終わらせてきましたわ。不浄なものは、何一つ残さず」  


家の奥から出てきたミラが愛おしそうに微笑む。


「それは良かった。さあ、立っていないで入りなさい。今日はカイルとリナも手伝ってくれて、特製の猪肉シチューが煮えてるんだ」


 家の中に入ると、薪ストーブの柔らかな熱気と、芳醇なスパイスの香りが一行を包み込んだ。


「お兄さん、お皿並べ終わったよ!」


「アルドお兄さん、パンも焼けた!」


カイルとリナが、駆け寄ってくる。


 夕食の席。  


シオンはアルドの隣をちゃっかり確保し、彼から「よく頑張ったね」と頭を撫でられると、小柄な体を小さく丸めて「かたじけない……」と小さく笑みを浮かべる。


 ゴルドは「アルド殿のメシは世界一だぜ!」と豪快に肉を頬張り、ベラドンナはリナに裁縫のコツを教えながら、優しく微笑んでいる。


「……アルド殿」


 ゼクスがシチューを一口運び、思わず呟く。


「この……穏やかさは、計算では導き出せませんね。不合理だ。だが、不思議と悪くない」


 アルドはそんな彼らを眺めながら、ふと窓の外、遠い西の空を見つめた。


「……少し、風が焦げ臭いかな。カイル、明日は『黒曜』の手入れを念入りにしなさい。リナも、薬草の準備を少し多めにしておくといい」


 何気ない指示。


だが、その言葉には、龍皇の刺客が放つ殺気を遥か彼方で察知した「最強」の予見が込められていた。


「……はい、お兄さん!」  


二人の元気な返事が響く。  


一万二千を葬った四天王と、伝説の勇者、聖女、そして真祖。


それらを家族として束ねる、無名の剣聖。


 北限の聖域に、最強の家族団欒が続いていく。


西から迫る黒い影が、その平和な灯を消そうと牙を剥いていることも知らずに。


いや――彼らにとって龍皇の来襲など、明日の朝食の献立を決めるよりも些細な問題に過ぎないのだった。



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