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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
2章 北限の聖域

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第4話:蹂躙の美学

東の大地を包むのは、生命の鼓動ではなく、絶望を燃料に燃え盛る黒煙だった。


 かつて緑豊かだった平原は、西の龍皇が解き放った龍人族ドラゴニュートの軍勢によって蹂躙され、今や音を立てて崩れ落ちる灰の荒野と化している。


「……掃討開始まで、あと十秒」


 灰色の空。


重力に背いて静止するゼクスが、無機質な瞳で眼鏡の奥を光らせた。


 彼の背後には、虚空に刻まれた数百の幾何学的な魔方陣。


死者のエルダーリッチとしての魔力が、精密な演算回路を通って収束していく。


 地上では、龍皇の紋章を刻んだ重装歩兵が一万二千、獲物を求めて咆哮を上げていた。


だが、その最前列が爆ぜた。


「ガッハッハ! 掃除の時間だぜ、トカゲ野郎ども!」


 咆哮と共に、岩塊のような巨躯が空から突き刺さった。


巨鬼オーガロードのゴルドだ。


 彼が肩に担いだ巨大斧を無造作に振り抜くと、大気が悲鳴を上げ、真空の刃が地平線までを薙ぎ払う。


「『爆震・焔魔割り』!!」


 一撃。


 龍鱗の鎧も、堅牢な盾も、ゴルドが放つ圧倒的な暴力の前では紙細工に等しい。


巻き起こる火柱が、一瞬にして千の命を「資源」へと還元した。


「……騒がしい。マスターの教えが、これでは台無しだ」


爆炎を割って現れたのは、小柄な少女。


青髪のポニーテールを揺らし、首を魔法で繋いだデュラハンの剣士、シオンだ。


彼女は走らない。


ただ、静かに歩む。


 だが、彼女とすれ違う龍人族たちは、自らが斬られたことすら気づかぬまま、次々と糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。


「『極意・無間一閃』。……案ずるな。痛みすら、某の刃は置き去りにする」


 シオンが親指で鯉口をわずかに鳴らし、抜刀と納刀を同時に完遂する。


刹那、彼女の背後で数百の首が同時に宙を舞った。


「ウフフ、みんな元気ねぇ。でも、あんまり壊しすぎるとワタシの実験体がなくなっちゃうわ」


 後方で指先を遊ばせるのは、紫のロングヘアをなびかせる夢魔、ベラドンナ。


 彼女が唇に指を当て、甘い吐息を漏らすと、戦場を覆う煤煙が毒々しい紫色の霧へと変質した。


「『万毒葬送・紫煙の檻』」


 霧に触れた兵士たちは、武器を落とし、恍惚とした表情のまま泥のように溶けていく。


再生能力を誇る龍の血すら、彼女の極毒には抗えない。


「な、何者だ貴様ら……! 龍皇様に仇なす者が、これほどまでの力を……!」


 生き残った龍将軍が戦慄し、喉の奥から極大の火炎息ファイアブレスを放とうとした。


 だが、その喉が灼熱に染まる前に、天から無数の「理」が降り注いだ。


「――結論は出ました。貴方たちの存在は、この地の静寂にとって『不合理』です」


 ゼクスが指を弾く。


 空に展開されていた魔方陣から、収束された魔力の光条が一斉に放たれた。


「『神理執行・星墜アストラル・フォール』」


 精密に制御された一万の光弾。


それは逃げ惑う龍人族をピンポイントで貫き、戦場から「軍勢」という概念そのものを消し去っていく。


 わずか数分。


 一万二千の脅威は、文字通り塵へと変わった。


 静まり返った焦土の中、四天王たちは息一つ乱さず中央に集まる。


「……さて。これでミラ様から仰せつかった『掃除』は完了ね。さあ、アルド殿が待つ村に帰りましょう? 今日の夕飯は何かしら」


 ベラドンナが、戦場にいたとは思えない家庭的な微笑みを浮かべた。


「某も、少し腹が減ったな。マスターに、今日の剣筋を報告せねば」


「ガッハッハ! 俺様は肉だ! アルド殿の焼くデカい肉が食いてえ!」


「……皆さん、帰還後のカモフラージュを忘れないでくださいね。あくまで『友人邸の近所を少し掃除しに行った』だけなのですから」


 彼らが最強の武力を振るう理由。


それは世界の平和でも、龍皇への復讐でもない。


絶対的忠誠を誓った、赤氷の魔王 ミラ様と、あの穏やかな青年――アルドと過ごす、温かな食卓を守るため。


 その頃、北の村では、アルドが手刀で割った薪を綺麗に積み上げていた。


「お、東の空が少し明るくなったな。ミラさんの家の用事も終わったのかな。……よし、今日は奮発してステーキにしようか」


 龍皇の軍勢を消滅させた四人の化け物たちが、今、一人の青年が待つ聖域へと、いそいそと足を速めていた。



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