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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
第1章 勇者と聖女

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【幕間:晩餐会と、先代魔王】

アイゼンベルク辺境伯爵家(魔王城)の食堂は、もはや一つの神殿のような厳かさに包まれていました。


天井には星空を模した魔導具が輝き、銀の燭台が揺らめいています。


アルドは、人生で一度も見たことがないような白く長いテーブルを前に、完全に固まっていました。


「……アルド様、どうかされました? お口に合いませんこと?」


ミラの優しい声に、アルドは慌てて首を振りました。


「い、いえ! すごく美味しそうです、ミラさん。ただ、こんなに立派なお部屋だと、なんだか背筋が伸びちゃうというか……」


アルドが冷や汗を流しているのは、豪華な内装のせいだけではない。


テーブルの反対側。


上座に座る一人の男の視線が、痛いほど突き刺さっていた。


その男は、現魔王ミラの父であり、先代魔王――アイゼンベルク辺境伯爵家の「大旦那様」。


漆黒の髪を後ろに流し、彫刻のように整った顔立ちには、隠しきれない王者の風格が漂っていた。


「(……信じられん。娘が連れてきたただの人間かと思えば、その腰にあるのは……『黒曜』ではないか)」


先代魔王は、アルドの腰に無造作に下げられた漆黒の剣を見つめ、驚愕を押し殺していた。


自分がかつて手なずけようとして拒絶された、あの呪いの極致が、少年の横でまるで眠る猫のように静まり返っている。


その事実だけで、目の前の青年が「普通」ではないことを物語っていた。


「……む。どうした、食べないのか」


先代魔王が低く、重厚な声で問いかけた。


アルドは「ひえっ」と心の中で叫び、慌ててナイフを手に取る。


「は、はい! いただきます! ……ええと、これはどうやって……」


アルドは、周囲に控えるメイドたちの完璧な作法を盗み見ながら、見よう見まねでフォークを動かす。


(どうしよう、マナーが全然わからない! さっきからお父様がずっとこっちを睨んでるのは、俺の食べ方が汚いからかな!? ああっ、このお肉、すごく柔らかくて美味しそうなのに、緊張で味が全然しない……!)


アルドの勘違いとは裏腹に、先代魔王はアルドの「動き」に釘付けだった。


フォークを持つ所作、ナイフを入れる角度。それらすべてに無駄がなく、流れるような静かな力強さを感じられる。


「……良い腕をしているな、貴殿」


「えっ!? あ、ありがとうございます……?(えっ、ナイフの使い方が上手いってことかな? 獣を倒して鍛えたからかな……)」


食事も終盤に差し掛かった頃、先代魔王はワイングラスを置き、アルドを真っ直ぐに見据えた。


「アルド殿。食後の腹ごなしに、少しばかり手合わせ願えぬだろうか」


「て、手合わせ……ですか?」


アルドは困り果ててミラを見つめた。


自分はただの村人で、トカゲ退治に来ただけなのに、高貴な伯爵様と稽古なんて。


「ミラさん、俺、ちゃんとした剣術なんて習ったことないし、ミラさんのお父様に怪我をさせちゃったら大変だよ……」


アルドの心配はどこまでも「相手を傷つけないか」という優しさでしたが、ミラは密かに目を輝かせていた。


(お父様……。貴方の実力は認めますが、アルド様の『底』がどこにあるのか、ワタクシも見てみたいのですわ)


ミラは優雅に微笑み、アルドの手をそっと握りました。


「アルド様。お父様は昔から、見込みのある方を見るとつい我慢できなくなってしまう、ワガママな方なのですわ。……一度だけで構いません。お父様の我儘に、付き合っていただけませんこと?」


「ミラさんがそう言うなら……。でも、ガモンさんに作ってもらってる剣がまだ届いてないから、この黒い剣を借りたままでもいいかな?」


「ええ、もちろん。……お父様、お手柔らかにお願いしますわね?」


ミラの言葉には「(実力を限界まで引き出して欲しい)」という圧力が含まれていましたが、武人の血が騒ぐ先代魔王には届かない。


「……庭に出よう。アイゼンベルク家の礼儀は、剣で語るものだ」


先代魔王は立ち上がり、アルドを促した。


アルドは豪華な食事の味を思い出す暇もなく、借り物の魔剣『黒曜』を握りしめ、月明かりに照らされた中庭へと向かうのだった。


(どうしよう、失礼のないように戦うって……適当に空振りとかしておけばいいのかな……?)


アルドのそんな悩みなど露知らず、魔王城の庭は、かつてない激突の予感に震えていた。



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