【幕間:黒い魔剣と、出逢った使い手】
「…………これ」
アルドは、埃一つない黒い石の台座の上に置かれた一本の剣の前で、ふと足を止めた。
それは、これまで見てきた豪華な武具とは対照的に、装飾の一切を排した、吸い込まれるような漆黒の長剣だった。
ミラはその光景に、内心で息を呑んだ。
その剣は、初代魔王が愛用したと言われる伝説の魔剣
『黒曜』
持つ者の精神を激しく汚染し、その膨大な魔力を根こそぎ喰らい尽くす、初代魔王以外誰も使いこなす者がなかった、最も強力な「呪いの剣」だったからだ。
「アルド様……。その剣に、惹かれますの?」
「うん。なんだか、すごく落ち着くんだ。派手じゃないし、重さもちょうど良さそうで……。ミラさん、これを手に持ってみてもいいかな?」
「……ええ。お気をつけになってくださいね」
ミラは緊張した。
万が一アルドに何かあれば、自分の手でこの剣を砕く覚悟さえした。
しかし、アルドがその漆黒の柄に触れた瞬間――。
魔剣が放つはずの禍々しい冷気と瘴気は、霧散するどころか、まるで「長い間待ち続けた主」に撫でられた仔犬のように、大人しく、そして嬉しそうに黒い輝きを増した。
「わぁ……。黒い鋼の剣だから凄く重そうだと思ってたけど、見た目よりずっと軽いな。それに、すごく手に吸い付くような……うん、これなら薪割り斧と同じ感覚で振れそうだよ」
アルドが軽く剣を振ると、空気が一切の抵抗をなくし、鋭い風の音さえ立てずに空間を切り裂いた。
魔力を喰らうはずの『黒曜』は、アルドの内に眠る底知れぬ生命エネルギーに触れ、あまりの「美味しさ」と「心地よさ」に完全に牙を抜かれ、ただの「忠実な道具」へと成り下がっていた。
「ミラさん、俺、この剣がいいな。ガモンさんの剣ができるまで、大切に借りておくよ。これなら、村のみんなに約束した分のお肉も、しっかり狩れそうだし」
アルドは満足そうに微笑み、黒い鞘に収まった剣を腰に下げた。
初代魔王の呪いの剣が、村の食糧確保のための道具として選ばれた。
そのあまりにシュールな光景に、ミラはこみ上げる笑いを堪えるのが必死だった。
「……ふふ、ええ。アルド様。その剣も、貴方に選ばれて喜んでいるようですわ。……さあ、武器も決まりましたし、少しお腹が空きませんか? ワタクシの家のコックが、腕によりをかけた料理を準備しておりますの」
「料理? うわぁ、助かるよ。トカゲ退治でお腹がぺこぺこだったんだ。ミラさんの家の料理、楽しみだなぁ」
アルドは、先ほどまでの「呪い」や「魔剣」など露知らず、ミラの後に続いて宝物庫を後にした。
アルドは「アイゼンベルグ家の美味しい晩ごはん」を夢見て、豪華な絨毯の上を軽快な足取りで進んでいくのだった。
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