【幕間:アイゼンベルクの至宝と、黒い魔剣】
「「「お帰りなさいませ、ミラ様。そして、ようこそお越しくださいました、お客様!!」」」
地響きのような、それでいて完璧に揃った唱和が響き渡った。
門から玄関ホールへと続く長いレッドカーペットの両脇に、数百人の近衛兵とメイドたちが整然と並び、一糸乱れぬ動きで深く頭を下げていたのだ。
「うわぁっ!?」
アルドは驚きのあまり飛び上がった。
ミラが事前に『念話』で、「これからワタクシの大事なお客様をお連れする。指先一つ、表情一つでも粗相があれば……分かっていますわね?」と、恐ろしい圧を込めて厳命していた結果である。
近衛兵たちは、本来なら魔界の猛者たちだが、今は必死に「品の良い伯爵家の兵士」を装い、彫像のように動かない。
メイドたちは、アルドが通る瞬間に合わせて、最高級の香草の香りを振りまき、完璧な角度のカーテシーを捧げている。
「あ、あの、皆さん、お仕事中なのにすみません……! 俺、ただの村人ですから、そんなに頭を下げないでください!」
アルドが恐縮してオロオロと一人一人に会釈を返す。
城内は、静寂の裏側で驚愕と緊張の渦に包まれていた。
「ミラさん、本当に凄すぎるよ……。伯爵家って、みんなこんなに厳しい礼儀作法があるの?」
「ええ、少し教育が行き届きすぎているかもしれませんわね。ワタクシが厳しくしすぎたかしら?」
ミラは楽しげに笑いながら、豪華なシャンデリアが輝く廊下を進んでいく。
アルドは、あまりに磨き上げられて鏡のようになっている床を、自分の泥だらけの靴で汚さないようにと、つま先立ちに近い歩き方になっていた。
「これなら、確かにオオトカゲくらい簡単に追い払えそうな兵士さんがいっぱいいるのに……。やっぱり、ミラさんのお家は大変なんだね」
「そうですわね。みんな、国境……いえ、隣領との境界を守るのに手一杯でして。ですから、アルド様のように心優しく腕の立つ方に助けていただけると、ワタクシ、本当に救われますの」
アルドは、ミラの言葉を真っ直ぐに受け止めた。
こんなに立派なお家を守るために、彼女は頑張っている。
そんな彼女を少しでも助けられるなら、やはり協力してあげたい――アルドの純朴な正義感に、また一つ火がついた。
「……うん、任せて。ミラさんからお借りした武器で、しっかりお肉……じゃなくて、トカゲを退治してくるよ。ガモンさんが剣を打ち終わるまで、大切に使うね」
「頼もしいですわ。……さあ、ここが我が家の宝物庫ですわ」
到着したのは、複雑な魔法の錠前がいくつもかけられた重厚な銀の扉だった。
ミラが指先を触れると、カチリと音がして扉がゆっくりと開く。
中から溢れ出してきたのは、見たこともないほど眩い光――かつての魔王たちが世界中から集めた、あるいは勇者たちから奪い取った、伝説の武具の数々だった。
「……うわぁ……」
アルドはその光景に再び唖然とした。
しかし、彼がその中で目を留めたのは、黄金に輝く聖剣でも、宝石が散りばめられた杖でもなかった。
「ミラさん、あれ……。あの、隅っこにある黒い剣、見てもいいかな?」
それは、派手な装飾など一切ない、無骨で黒い鋼の剣だった。
ミラは一瞬、目を見開いた。
それはかつて、初代魔王が愛用したと言われる、持つ者の魔力を際限なく喰らう呪われた魔剣『黒曜』だったからだ。
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