【幕間:美しき令嬢と、空にそびえる黒銀の城】
ミスリル鉱山の奥底で、伝説級の魔獣アースドラゴンを「薪割り斧」で仕留めたアルド。
呆然と立ち尽くす技師長ガモンを伴い、彼は再び地上へと戻ってきた。坑道の入り口では、アルドの活躍を確信して期待に胸を膨らませて待っていたミラの姿があった。
「アルド様! ご無事でしたのね」
ミラが駆け寄り、アルドの手を取る。
アルドはいつもの穏やかな笑みを浮かべ、少しだけ申し訳なさそうに頭を下げた。
「ミラさん、ただいま。……うん、なんとかトカゲは退治できたよ。ガモンさんが案内してくれたおかげだね。でも、ごめんなさい。思っていたより大きな個体で……戦っている間に、村から持ってきた大事な斧が壊れちゃったんだ」
アルドが差し出したのは、粉々に砕けた刃の残骸だった。
それを見たミラは、一瞬だけ瞳を鋭く光らせた。
オオトカゲではなく、数倍強力な個体を切った代償に壊れたのだと、彼女にはすぐに理解できたからだ。
「……そうですか。大切な道具を失わせてしまって、ワタクシこそ申し訳ありませんわ。ガモン、アルド様の新しい武器についてはどう考えておりますの?」
背後で震えていたガモンが、弾かれたように叫んだ。
「当たり前だ! あんな『薪割り斧』でアースドラゴンを割る男を、丸腰で帰せるかってんだ! ミラ様、ワシに時間をくれ。この山で採れる最高のミスリルをすべて注ぎ込み、地殻すら穿ち、あらゆる災厄を凪ぎ払う聖剣を打ってやる。名は――**聖剣『星凪』**だ!」
「星凪……素敵な名前だね。ガモンさん、よろしくお願いします」
アルドは嬉しそうに微笑んだ。だが、すぐに困ったように眉をひそめる。
「でも、困ったな……。剣ができるまでの間、武器がないとオオトカゲを狩れない。村の皆に美味しいお肉を届けるって約束してるんだ。どうしよう……」
純粋に「村の食卓」を心配するアルド。そんな彼に、ミラは「待ってました」と言わんばかりの優雅な微笑を浮かべ、そっと耳元で囁いた。
「それでしたら、アルド様。ワタクシの家の宝物庫に、いくつか古い武器が眠っておりますの。よろしければ、お貸しいたしますわ。……いえ、ぜひ借りていただきたいのです。貴方に万が一のことがあれば、ワタクシ、夜も眠れませんもの」
「ええっ、ミラさんの家の宝物を借りるなんて、そんな……悪いですよ」
「遠慮はいりませんわ。これからも『依頼』を完遂していただくための投資です。……さあ、少しだけ、ワタクシの本当の自宅までお付き合いいただけますか?」
ミラはアルドの手を優しく引き寄せた。
村のみんなとの約束を守りたい。その一心で、アルドはミラの提案を呑むことにした。
「……わかりました。ミラさんがそこまで言ってくれるなら。お借りしてもいいですか?」
「ええ、もちろんですわ! ――では、しっかりワタクシに捕まっていてくださいね」
ミラが指先を鳴らした瞬間、周囲の景色がガラスが割れるように弾けた。
高度な転移魔術。
一瞬の浮遊感の後、アルドの目の前に現れたのは、街で見上げた「別邸」とは比較にならない、圧倒的なスケールの「建造物」だった。
そこは、雲を突き抜けるほど高い峰の上にそびえ立つ、漆黒と銀の城だった。
幾重にも重なる尖塔は天を指し、壁面には禍々しくも美しいルーン文字が刻まれている。
城門の前に広がる中庭には、見たこともない色鮮やかな魔界の花々が咲き乱れ、空には巨大な飛竜たちが、まるで主の帰還を祝うように旋回していた。
「…………な、なんだこれ……」
アルドはあんぐりと口を開けて、その巨大すぎる城を見上げた。
首をどれだけ反らしても、城の頂上が見えない。
「ミラさん、ここ……ここが、ミラさんの……?」
「ええ。ワタクシの『本邸』……アイゼンベルク辺境伯爵家(魔王城)ですわ。……ふふ、思ったより早く、アルド様をご案内することができましたわね」
ミラは涼しい顔で「辺境伯爵家」を名乗った。実際、北の大地の「辺境(魔界)」を統治している王なのだから、嘘はついていない。……多少の語弊はあるにせよ。
「さあ、立ち話もなんですわ。宝物庫へご案内します。中には、かつての英雄たちが残したとされる剣や槍が山ほどありますのよ。……アルド様、貴方の手に馴染むものが、きっと見つかるはずですわ」
「う、うん……。ミラさんって、本当に、本当にすごすぎるお方なんだね……」
アルドは、ミラの豪華なドレスの裾を踏まないように気をつけながら、緊張した足取りで巨大な城門をくぐるのだった。
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