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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
第1章 勇者と聖女

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【幕間:銀の山の災厄と、折れない信念】

本日は、2話あげております。

エピソード24を先にお読みください。

 ミスリル鉱山の奥深くへと足を踏み入れたアルドとガモン。  


坑道は、進むほどにその様相を変えていった。


手前の方は整然と掘り進められていたが、奥へ行くに従い、岩肌は鋭く削り取られ、まるで巨大な獣が荒れ狂ったかのような爪痕が至る所に残されている。


「……おかしいな。オオトカゲ(グランド・リザード)にしちゃ、暴れた跡がデカすぎる」


 ガモンが手に持った魔導ランタンを高く掲げると、その光が闇の奥にある「何か」を照らし出した。  


それは、トカゲという言葉では到底片付けられない代物だった。  


鈍く茶褐色に輝く、岩盤よりも硬そうな鱗。太い丸太のような四肢。そして、洞窟の天井を突き破らんばかりの巨躯。


「――っ! 嘘だろ……。こいつはオオトカゲなんかじゃねぇ……『アースドラゴン』じゃねぇか!」


 ガモンの声が恐怖で震えた。


 アースドラゴン。地脈の魔力を喰らい、数百年の時を経て進化する大地の化身だ。


その防御力はあらゆる魔法を弾き、一振りされる尾は一国の城壁を容易く粉砕する。


「あんちゃん、逃げるぞ! こんなバケモノ、軍隊がなきゃ話にならねぇ! ワシらの手に負える相手じゃねぇ!」


 ガモンがアルドの腕を掴み、必死に引き戻そうとする。だが、アルドの足は一歩も動かなかった。


それどころか、彼は静かに、背中に背負っていた大きな袋から一本の道具を取り出した。  


それは、剣ですらない。


村で使い古された、**「薪割り用の小型の斧」**だった。


「……ガモンさん、危ないから下がっていてください。でも、俺は逃げるわけにはいかないんです」


 アルドの声は、どこまでも穏やかで、優しかった。


「この先を放っておいたら、また街の柵が壊されちゃいますよね。ミラさんも困っていたし、何より、ガモンさんや職人の皆さんが、せっかく一生懸命掘ったこの場所で、安心して働けなくなっちゃうのは……俺、嫌なんです」


「何を言ってやがる! あいつの鱗はミスリルの剣だって折れるんだぞ! そんな薪割り斧で何ができるってんだ!」


 ガモンの絶叫を背に、アルドはゆっくりと歩を進めた。


 アースドラゴンが、侵入者を排除せんと巨体を揺らし、大気を震わせる咆哮を上げた。


それだけで坑道の天井から岩屑が降り注ぐ。


「……大丈夫。いつもと同じです」


 アルドが斧を構えた。  


魔法の予兆も、スキルの発動も、殺気すらもない。  


ただ、生活の一部として何万回、何十万回と繰り返してきた「真っ直ぐに振り下ろす」という日常の動作。


 ――一閃。


 音すらしなかった。  


次の瞬間、アースドラゴンの巨大な頭部から尾の先まで、一直線に「亀裂」が走った。  


自分が斬られたことすら理解していないのか、ドラゴンは数秒間、そのままの姿で静止していた。


やがて、その巨体が左右に分かれ、地響きを立てて崩れ落ちる。


 岩盤よりも硬いと言われた鱗も、太い骨も、アルドの斧の前では乾燥した薪同然だったのだ。


「……嘘だろ……」


 ガモンはその場にへたり込んだ。  


アースドラゴンが真っ二つになっている。


その信じられない光景を理解しようとした矢先、**「パキィィン!」**という乾いた音が静かな坑道に響いた。


 アルドの手元にあった薪割り斧が、粉々に砕け散ったのだ。


 あまりにも理外の膂力を受け止めきれず、道具としての限界を超えてしまったのだろう。


「あぁ……。やっぱりダメか。村からずっと大事に使ってきた斧だったんだけどな……」


 アルドは砕けた刃の破片を拾い集めようとして、困ったように眉をひそめた。


 大切な相棒を失った寂しさと、これからの作業をどうしようかという純粋な悩み。


 そんな彼の前に、ガモンが猛然と詰め寄った。


「あんちゃん……。いや、アルド!」


 ガモンはアルドの両手を、力いっぱい握りしめた。  

ドワーフ特有の、ゴツゴツとしていて、熱を帯びた、分厚い職人の手。


そこには先ほどまでの恐怖など微塵もなく、あるのは震えるほどの興奮と、職人としての底知れぬ情熱だった。


「……ワシに見せてくれたな。本物の『力』ってやつを。あんな薪割り斧でドラゴンを割るなんて、道具に対する冒涜……いや、最高級の礼賛だ。あんな得物でそれなら、ワシが本気で作った得物なら、あんちゃんは一体何を斬れるんだ……!」


「ガモンさん……?」


「アルド! ワシに、ワシにお前専用の武具を作らせてくれ! 材料はここにあるミスリルを全部使ってもいい、ワシの数百年の技術をすべて叩き込んでやる! 頼む、お前のための『最高の道具』を打たせてくれ!」


 ガモンの瞳は、まるで鍛冶炉の炎のように赤々と燃えていた。その大きく力強い手からは、彼が歩んできた職人としての誇りと、アルドへの深い信頼が伝わってきた。


 アルドは少し驚いたように目を瞬かせたが、やがていつもの優しい笑みを浮かべ、ガモンの手を握り返した。


「……はい。ガモンさんがそう言ってくれるなら、ぜひお願いします。俺、道具を大事にする人は大好きなんです。ガモンさんの打ってくれるものなら、きっと一生大切に使えますね」


「――ああ! 任せろ! 世界で一番、あんちゃんに相応しい相棒を打ってやるぜ!」


 坑道の奥で、最強の青年と最高の職人が、固い約束を交わした。  


これが、後に伝説となる「聖剣『星凪ほしなぎ』」が誕生する、第一歩であった。



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