第20話:剣聖の真髄、武の極み
戦場に静寂が訪れる。
数万の軍勢を背景に、東の魔王バロールとアルドが対峙していた。
アルドが手にするのは、いつもの無骨な剣《ミスリルの剣》だ。
アルドが指先で軽く撫でると、刀身はまるで魔法のように清廉な光を放ちだした
「……それが貴様の武器か。中々の業物だが、私の『神穿の魔槍』の前では、ただの銀細工に等しい!」
バロールが地を蹴った。
魔王の全魔力を乗せた突撃。槍先が空気を焼き、空間そのものを削り取りながらアルドの心臓を穿つ――。
だが、アルドの目には、その絶技が「威力は抜群だが隙の大きい技」だと見抜いていた。
「――ふっ!」
アルドが剣を振り下ろした。
それは、なんら飾り気のない、垂直の斬撃。
カィィィィィンッ! と、高く澄んだ音が戦場に響き渡る。
「……何……!? 私の槍が、受け流されただと……!?」
バロールは驚愕した。
全力を込めた一撃が、簡単に逸らされた。
いや、違う。アルドは剣の腹で音速で迫る槍の「芯」を叩き、その威力を無力化させたのだ。
髪の御業のような絶技を目の当たりにしたバロールは身体を震わせ戦慄した。
「バロールさん、あなたの槍、すごく力がこもっていますけど……隙が大きすぎます。もっとこう、すーっと……空気の層を纏わせるように流さないと」
「ふざけるな! あんな一瞬で、私の魔技を見抜いたとでも言いたいのか……っ!」
逆上したバロールが、漆黒の炎を纏い再び襲いかかる。
しかし、アルドの動きは止まらない。
アルドは一歩踏み込むと、ミスリルの剣を最短距離で振り抜いた。
それは、数多の剣士が追い求める「神速」ですらない。ただ、そこに「あるべき場所へ刃を置く」という、究極の自然体だった。
パキィィィィィィンッ!!
魔王が誇る神話級の武具が、まるで乾いた枝のように真っ二つに叩き折られた。
「あ……あ……」
槍を失い、喉元にミスリルの剣を突きつけられたバロール。
アルドが放った一撃の美しさに我を忘れ、魔槍が砕け空中でキラキラと光り消える様子を呆然と見ることしか出来なかった……
そして、ふと視線をアルドの背後に向けて――彼は、真の絶望に直面した。
そこには、冷ややかな笑みを浮かべて自分を見下ろす、北の魔王・ミラと四天王たちの姿があった。
「な……『赤氷の魔王』……!? それに四天王全員だと!? なぜ、北の支配者が、あの男の後ろに……」
バロールは悟った。自分が挑んだのは、ただの青年ではない。
最強の魔王軍が跪き、世界で唯一「師」と仰ぐ、人知を超えた怪物なのだと。
「……フフ、ようやく気づきましたか。貴方の『死』に計算上の価値はありませんでしたが、アルド殿の剣を間近で見られたことだけは、感謝してあげましょう」
ゼクスが眼鏡を光らせ、冷徹な口調で死を宣告する。
「某の主を煩わせた罪、万死に値する。……だが、あの一閃、見事でござった」
シオンはアルドの剣筋の余韻に浸り、恍惚とした表情を見せる。
「ガハハ! 槍が折れた時のいい音、村まで聞こえたんじゃねえか!?」
ゴルドが豪快に笑い、魔王の無様な敗北を嘲る。
「ワタシ、あんなに綺麗に折れる槍は初めて見ましたわ♪」
ベラドンナが妖艶に微笑んだ。
アルドは剣を鞘に納め、いつも通りの穏やかな顔でバロールを見下ろした。
「バロールさん。次は、もっと大事に武器を扱ったほうがいいですよ。……それじゃ、俺たちは帰りますね。」
敗北した東の魔王を置き去りにし、アルド一行は夕焼けの中を歩き出す。
カイルとリナも、アルドの背中に改めて「本当の剣」を見た感動を抱きながら、その後を追うのだった。
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