第19話:侵略の嵐、剣聖の一振り
平和な王都を突如として戦慄が襲った。
隣国・ガルディア王国が、あろうことか東の大陸を統べる魔王・バロールと手を組み、数万の魔物軍団と鉄甲騎士団を以て北の王国へ侵攻を開始したのだ。
「――っ、はあぁぁぁっ!」
カイルの炎が、リナの氷嵐が戦場を駆け抜ける。
二人の実力は既に伝説級に達していたが、敵の物量はそれを嘲笑うかのように無限に湧き出してきた。
「カイル、右から大型種が来るわ!」
「分かってる! ……くそ、斬っても斬ってもキリがねえ……っ!」
精強なはずの白銀騎士団は既に壊滅状態。
カイルとリナも、かつてない疲労に膝を震わせ始めていた。敵の背後には、禍々しい魔気を放つ東の魔王軍が山を埋め尽くしている。
一方、戦場を俯瞰する丘の上。
アルドは、荒い息を吐く子供たちの姿を、ただ静かに腕を組んで見つめていた。
その隣には、ミラと四天王たちが控えている。
「……そろそろ、限界のようですね」
アルドがぽつりと呟いた。その声には悲壮感はなく、ただ「教育の区切り」を悟ったような響きがあった。
「アルド様、よろしいのですか? ワタクシが片付けてもよろしいですけれど」
ミラが扇の隙間から戦場を見やり、不愉快そうに目を細める。
「いいえ、ミラさん。二人は本当によく頑張りました。……ここからは、大人の役目です」
次の瞬間、アルドの姿が丘から消えた。
カイルとリナの前に、音もなく背を向けて立つ一人の青年。
「お兄さん……!?」
「……お疲れ様。あとは俺に任せて、少し休んでいて」
アルドが軽く息を吸い、地面を踏みしめ無骨な剣を一振りした。
ただ、それだけだった。
――ドォォォォォンッ!!
爆発が起きたわけではない。アルドが放った「一閃」が、大地を伝い、数万の敵軍の足元だけをピンポイントで隆起させたのだ。均衡を崩した敵兵たちがドミノ倒しのように崩れ、同時に彼が放った鋭すぎる「気」が、魔物たちの本能に死を予感させ、戦意を完全に喪失させた。
一歩。ただ一歩進んだだけで、戦場の風景が書き換えられた。
「……信じられない。ただの振動で、これほど精密に数万の敵の重心だけを破壊するとは……。私の魔導演算を嘲笑うかのような現象です」
ゼクスは戦慄し、眼鏡の奥の瞳が揺れている
「某が束になっても、今の『一歩』には届かぬ。マスターは、戦場そのものを御している……!」
シオンは畏怖を込め、その光景を魂に刻み込む。
「ガハハ! おい見ろよ、あの数万の雑魚ども、指一本触れられずに全滅やがるぜ!」
ゴルドが歓喜し、アルドの底知れない「剛」を讃える。
「ワタシ、あんなに美しい一掃を初めて見ましたわ。……あら、でも向こうの『王様』は、まだやる気のようですわね」
ベラドンナが戦場の奥を指差す。
砂塵の中から、巨大な漆黒の翼を広げた男が舞い降りた。
東の大陸の魔王・バロール。
彼は自慢の精鋭が一瞬で無力化されたことに激昂し、手に持った魔槍をアルドに突きつけた。
「……貴様、何者だ。私の軍勢をこれほど無様に……! 面白い。その力を免じて、貴様には私自ら相手をしてやろう。一騎打ちだ。死して我が槍の錆となるがいい!」
アルドは困ったように眉を下げ、ゆっくりと構えを取った。
「一騎打ち……ですか。分かりました。……手短に終わらせます。子供たちが待っているからね。」
北の空に、最強の「一般人」と「東の魔王」の激突を告げる雷鳴が響いた。
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