第18話:静寂の一撃、至高の残滓
王宮の練兵場。
王国最強を自負する『白銀騎士団』の長、ガリアス団長と、村の青年アルドが対峙していた。
周囲には、カイルやリナの新たな師匠が決まる瞬間を見届けようと、多くの騎士や貴族たちが集まっている。
「……抜くがいい。貴様がカイル殿たちに教えたのが『薪割り』だというのなら、その剣でも何でも振るってみせろ」
ガリアスが大剣を構え、重圧を放つ。
対するアルドは、武器を持たず、ただいつものように自然体で立っていた。その瞳には敵意も、あるいは侮りもない。ただ、静かな湖面のような平穏があるだけだった。
「いえ、僕は武器はいりません。……団長さん、本気で来てください。怪我をさせたくないので」
「……どこまでも舐めた男だ。後悔させてくれる!」
ガリアスが踏み込んだ。
大地を揺らすほどの突進。放たれた大剣の横薙ぎは、鉄の門すら両断する王国最強の奥義――。
――だが。
観衆の目には、ガリアスの剣がアルドに届く直前、アルドの姿が一瞬だけ「ブレた」ように見えた。
次の瞬間、ガリアスは崩れ落ちた。
何が起きたのか、誰にも分からなかった。
ただ、アルドが倒れゆくガリアスの背中を、汚れがつかないようそっと支えて地面に座らせる姿だけが、そこにあった。
「……怪我はしていません。眠っていただいてるだけです。」
アルドが静かに告げると、場は静まり返った。
観衆は、ガリアスが勝手に力尽きて倒れたのかと錯覚するほど、アルドの動きは「無」に等しかった。
だが、観覧席の最前列でそれを見ていたミラだけは、優雅に扇を閉じ、小さく息を漏らした。
「……見事な一打でしたわ。ワタクシでなければ見逃しているところでしたわ……」
ミラの瞳には見えていた。
ガリアスの剣が届くわずか一瞬前。アルドが最小限の動きで懐に潜り込み、指先を揃えた手刀で、騎士の首筋に「呼吸を整える」かのような繊細な衝撃を打ち込んだのを。
それは力による破壊ではなく、相手の意識の糸を、誰にも気づかせぬほど優しく断ち切る神業だった。
四天王たちもまた、それぞれの場所で畏怖を抱いていた。
「……今の見えたか?」
ゼクスが3人に問いかける。
「残像を追うのが精一杯。」
シオンは自らの剣を握る手に力を込め、師への敬意をより一層深める。
「全く見えねぇな。」
ゴルドはアルドの底知れない余裕に、心地よい敗北感を感じながら笑う。
「ワタシもよ。こんなに差があるなんてね……」
ベラドンナは、その絶対的な強さの残香を楽しむように目を閉じた。
アルドは立ち上がり、困惑する騎士たちに「すみません。しばらくすれば起きると思いますよ。」と、いつもの純朴な笑顔で告げた。
王国最強が、その実力を見せつけることすら許されずに幕を閉じた決闘。
カイルとリナは「やっぱりお兄さんは凄い!」と駆け寄り、アルドは「二人とも、あんまり騒いじゃダメだよ」と彼らを嗜める。
その穏やかな光景の裏で、王都の重鎮たちはようやく気づき始めていた。
勇者と聖女の背後に、世界を揺るがしかねない「静かなる巨峰」が立っていることを。
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