第17話:伝説の魔獣、騎士団の誤解
王都近郊の森に、数百年に一度現れるとされる伝説の魔獣『冥府の猟犬』が出現した。
王都中が恐怖に包まれる中、国王は召喚したばかりの「勇者」と「聖女」、そして王国最強の『白銀騎士団』を討伐へと派遣した。
「お兄さん、本当についてきてもらっていいの?」
カイルが少し申し訳なさそうに聞く。
アルドは「2人なら大丈夫だと思うけど、一応見守っておくよ」と、魔獣討伐に行くとは思えない軽装で同行していた。
現場に到着すると、そこには巨大な黒い影――周囲の木々を腐らせるほどの魔気を放つガルムが鎮座していた。
「ひるむな! 我ら白銀騎士団が時間を稼ぐ! 勇者と聖女は後方から最大火力を――」
団長の指示を待たず、カイルとリナが動いた。
「「――はぁっ!」」
カイルの一撃が地を割り、リナの氷嵐が魔獣の動きを封じる。五年間のアルドとの特訓、そして四天王の英才教育を受けた二人の動きは、もはや王国軍の理解を超えていた。
一方、アルドは激戦の少し後ろで、のんびりと腕を組んで立っていた。
「うん、リナ。足運びが少し浮いてるかな。カイル、そこは力じゃなくて『流れ』で。……まあ、今のままでも大丈夫か」
アルドは戦う気配すら見せず、ただ授業参観の父親のように穏やかな表情で二人を見守っている。その様子を見ていた白銀騎士団の面々は、激しい戦闘の最中、苦々しい表情を浮かべた。
「おい、あの男は何だ? 勇者と聖女の師匠面をしてついてきたと思えば、あんな安全な場所で腕を組んでいるだけではないか」
「怯えて動けないのだろう。子供たちに戦わせ、自分は安全圏で見守るだけ。……情けない男だ」
騎士たちは、アルドが放つ「一糸乱れぬ完璧な魔力制御(無音)」を、ただの「無能」と見誤っていた。
彼らにとって、魔力とは荒々しく誇示するものだったからだ。
……王都にある魔王軍別邸にて
望遠の魔術で一部始終を見ていたミラと四天王は、それぞれの反応を見せる。
「……フフ、計算の及ばぬ愚か者たちですね。アルド殿がただ立っているだけで、森の魔力バランスがどれほど安定しているか、理解すらできないとは」
ゼクスは知的な笑みを浮かべ、内心で王国軍の鑑定眼に「落第点」をつける。
「某、あのような連中にマスターを語られたくはないでござる。……まあ、マスター本人が全く気にしておらぬのが、また底知れぬ所だが」
シオンは不快そうに唇を噛むが、アルドの「静」の構えに見惚れてもいた。
「ガハハ! おい見ろよ、あの騎士団長。アルド殿を睨みつけてやがるぜ! 自分が一番強いと思い込んでやがる、おめでたい奴だ!」
ゴルドは、嵐の前の静けさを楽しむように豪快に笑う。
「ワタシ、あの騎士たちの口に苦い薬を放り込んでやりたいですわ。……でも、リナちゃんの勇姿を見守るのが先決ね。ねえ、ミラ様?」
ベラドンナが扇を揺らし、ミラに同意を求めた。
ミラは、アルドの横顔をじっと見つめていた。
「……ええ。アルド様の凄さは、選ばれた者にしか分かりませんもの。……あの騎士たち、少し身の程を教えて差し上げる必要がありますわね」
激戦は数分で終了した。
カイルとリナが、伝説の魔獣を「害獣」をあしらうように軽々と討伐したのだ。
歓喜に沸く騎士団。
だが、団長だけはアルドの元へ歩み寄り、冷たく言い放った。
「カイル殿、リナ殿。見事であった。……だが、貴殿らのような天才を導く者が、あのような臆病な男であってはならん。……貴様、それでも師匠か?」
アルドは「え? ああ、そうですね。僕はまだまだ教えるのが下手で……」と謙虚に頭を掻いたが、その態度がさらに団長の火に油を注いだ。
「――情けない。貴様には、師匠失格の烙印を押してやろう。明日、王宮の練兵場へ来い。……私が、どちらが二人の師に相応しいか、決闘で分からせてやる!」
アルドは「……決闘ですか?」と困惑するが、王都にてミラと四天王たちの目が、一斉に妖しく光った。
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