第15話:静かなる夜、無粋な乱入者
月明かりの下、アルドとミラが穏やかなデートを終えようとしていたその時、周囲の空気が一変した。
路地の前後から、ガチャガチャと不快な鎧の音が響き、松明を持った一団が二人を包囲する。
「不敬罪で捕らえよ! 王太子殿下への無礼、その命で購ってもらう!」
現れたのは、王宮直属の『金獅子騎士団』。
国内最強を自称し、権力を笠に着る王太子の手駒たちだ。
「……あら。せっかくの素敵な夜に、無粋な羽虫が湧きましたわね」
ミラの瞳に冷たい魔力の光が宿る。
だが、その前にアルドが静かに歩み出た。
「ミラさん、ここは僕が。……彼らも仕事でやっているんでしょうけど、夜道で剣を抜くのは危ないですから」
アルドはミラを優しく背後に下がらせると、詰め寄る騎士たちを静かに見据えた。
「――ふっ!」
アルドが動いた。
それは攻撃というより、ただの「手助け」のような滑らかな動作だった。
一歩、踏み込む。
「なっ――」
先頭の騎士が反応する間もなく、アルドの手刀が鎧の隙間、頸動脈のあたりを軽く撫でた。
衝撃すら与えない、魔力の針でツボを突くような精密な一打。
カクン、と騎士の膝が折れる。
アルドはその体が地面に倒れて汚れないよう、そっと支えて壁に寄りかからせた。
そこからは、まるでダンスだった。
アルドは舞うような足捌きで騎士たちの間を抜け、一人、また一人と手刀を振るっていく。
倒れる前にその体を支え、路地の壁に等間隔で座らせていくのだ。
わずか数秒。
さっきまで殺気を放っていた十数名の騎士たちは、全員が壁に背を預け、まるで居眠りをしているかのように静かに眠りについていた。
「よし。これで誰も怪我をしなくて済みましたね」
アルドは満足げに手を払い、振り返った。
その光景を影から見ていた四天王たちは、それぞれの反応を見せる。
「……信じがたい。一人一人の神経系に、一滴の魔力も無駄にせず干渉して強制休眠させるなど。私の構築した魔導理論が、まだ荒削りに思えてきます。……いや、計算が……計算が合わない! 脳に負荷をかけずに気絶させるための演算を、彼はいつ終えたというのですか!?」
ゼクスは、自身の知性を遥かに超えた「精密さ」に戦慄し、
「某、あのような慈悲深い剣……いや、手刀を見たことがござらぬ。斬ることより、傷つけずに制することの方が、数段上の技量が必要でござるよ」
シオンは自身の未熟を再確認し、ますますアルドに心酔した様子で深く頷く。
「ガハハ! 壁に並べる時、装備の重さを感じさせねえほど軽々と扱いやがって! あのパワーをあんなに静かに使えるのは、アルド殿くらいだぜ!」
ゴルドは、アルドの「静の剛腕」に感心し、豪快に笑う。
「ワタシも見習わなくては。ただ毒で眠らせるだけじゃなく、あんなに優しく寄り添うように眠らせるなんて……ふふ、やっぱりアルド様は素敵ですわね」
ベラドンナは扇を揺らし、アルドの「優しさ」の中に潜む圧倒的な力に、陶酔の溜息をつく。
ミラは、アルドの逞しい背中を誇らしげに見つめていた。
「ええ、本当に手際が良いですわ、アルド様。……さあ、帰りましょう? 邪魔者はいなくなりましたわ」
「そうですね。ミラさん、帰り道も足元に気をつけて」
王太子の刺客たちは、戦いと認識することすらできず、穏やかな眠りの中へ。
後に目覚めた彼らが「何が起きたのか全くわからないが、体がものすごく軽くなっている」と困惑するのは、翌朝のことである。
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします




