第14話:月下の王都、想いよ届け
王宮を後にしたアルドとミラは、賑やかな表通りを避け、石畳が月明かりに濡れる静かな裏通りを歩いていた。
アルドは先ほど王太子に放った鋭さをすっかり消し、いつもの穏やかな青年に戻っている。
だが、その手はまだ、ミラの細い手首を優しく握ったままだった。
「……あ、すみません、ミラさん。つい勢いで連れ出しちゃって」
アルドが慌てて手を離すと、ミラは名残惜しそうに指先を震わせた後、愛おしそうに頬を染めて首を振った。
「いいえ……。嬉しかったですわ、アルド様。ワタクシのためにあんなに怒ってくださるなんて」
「当然ですよ。ミラさんは俺の……その、とても大切な人ですから。あんな無礼な言い方をされて、黙っていられませんでした」
アルドの「大切な人」という言葉に、ミラの心臓は再び激しく脈打つ。
彼にとっては友情や親愛の延長かもしれないが、ミラにとっては世界が黄金色に輝くほどの衝撃だった。
「お口直しと言っちゃなんですけど、あそこの屋台の串焼き、美味しそうですよ。一緒に食べませんか?」
アルドが指差したのは、路地裏で細々と灯る、庶民的な屋台だった。
王宮の最高級料理よりも、彼と一緒に食べる「普通の食事」の方が、ミラには何倍も贅沢に感じられた。
「ええ……。アルド様と一緒に頂くものなら、何でも美味しく感じますわ」
二人は並んで木箱の椅子に腰掛け、焼きたての串焼きを頬張った。
王都の夜風がミラの赤髪を揺らし、アルドの横顔を照らす。
かつて魔王城の玉座で孤独に冷徹な決断を下していた魔王は、今、一人の恋する乙女として、この上ない幸福の中にいた。
「ミラさん、見てください。あそこから見える月、村から見えるのと少し違って、なんだか賑やかそうに見えませんか?」
「……本当ですわね。でも、ワタクシは……アルド様と見上げる村の月の方が、ずっと好きですわ」
《この想い貴方に届きますように……》
ミラがアルドの肩に、そっと頭を預ける。
アルドは少し驚いたように体を強張らせたが、ミラの震える肩を感じると、優しく微笑んで彼女を支えた。
「……そうですね。早く、みんなで村に帰りましょう」
静かな夜の散歩。
離れた場所では、ゼクスたちが
「……ミラ様、なんと破廉恥な……! いいぞもっとやれ!」
「フフ、実に麗しいでござるな」
と影から見守り、カイルとリナも「お兄さん頑張れ!」とこっそり応援していたが、二人はそのことに全く気づいていなかった。
だが、この平穏な夜の裏側で、恥をかかされた王太子の歪んだ執念が、着実に鎌首をもたげていたのである。
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