第13話:王太子の求婚、燃え上がる想い
王宮での測定儀式を終えた後、アルド一行は国王主催の晩餐会へと招待された。
豪華絢爛な広間。
だが、そこには歓迎の意以上に、強欲な視線が渦巻いていた。
特に、カイルとリナという「規格外の兵器」を手に入れたと確信している王族たちの態度は、傲慢そのものだった。
「――ふむ、実に見事な器だ。カイル、リナ。貴様らは今日から我が王軍の直属となり、隣国との国境へ向かってもらう。光栄に思うが良い」
黄金の刺繍が施された服を纏い、ふんぞり返って言い放ったのは、第一王太子・エドワードだった。
カイルとリナは露骨に不快そうな顔をしたが、エドワードの視線は次に、アルドの隣に座るミラへと向けられた。
「……そして、アイゼンベルク辺境伯令嬢、ミラ殿。貴殿のような美貌を辺境に埋もれさせておくのは国の損失だ。どうだ、我が『第三夫人』に迎えてやろう。光栄であろう?」
その瞬間、広場の空気が凍りついた。
四天王たちの殺気が一瞬漏れ出そうになったが、彼らは互いに目配せをして動きを止めた。
((……待て、ここで我らが出る幕ではない。……来るぞ、マスター(アルド)が))
ミラは、扇を握る手に力を込め、氷よりも冷たい視線を王太子に向けていた。
((ワタクシを……第三夫人? この程度の羽虫が、ワタクシを『所有』しようというの……? 今すぐこの王宮ごと凍土に変えて差し上げましょうか……))
ミラが「魔王」としての力を解放しようとした、その時。
「――すみません、王太子殿下」
静かな、だが通る声が場を制した。
アルドがスッと立ち上がり、ミラを庇うように一歩前へ出た。
その瞳は、いつもの穏やかさとは異なり、深い森の奥のように静謐で、どこか冷たい光を宿している。
「ミラさんは、誰かの所有物になるような方ではありません。それに、彼女は俺たちの……俺にとって、とても大切な友人なんです。そんな風に、数合わせのような扱いで彼女を侮辱するのは止めていただけませんか?」
アルドは特に魔力を放ったわけではない。だが、薪を割る時のように「無駄のない意志」が言葉に乗っていた。
王太子は、まるで巨大な捕食者に喉元を突きつけられたような錯覚に陥り、言葉を失って数歩後ずさった。
「な、貴様……たかが一般人の付き添いが、この私に意見するのか……っ!」
「身分は関係ありません。間違っていることは、間違っていると言わなきゃいけない。……ミラさん、行きましょう。ここはあまり、食事が美味しくなさそうだ」
アルドはミラの細い手首をそっと掴むと、そのまま出口へと歩き出した。
その瞬間、ミラの心臓は跳ね上がった。
((……ああ、アルド様が……。ワタクシのために怒り、ワタクシを守ってくださった……! 手を、引いてくださっている……!))
魔王としてのプライドも、怒りも、アルドの逞しい背中を見た瞬間に霧散した。
今の彼女は、ただの「守られた女性」としての幸福感に包まれていた。
「……はい、アルド様。どこへでも参りますわ」
頬を林檎のように赤らめ、アルドに引かれるままに歩くミラ。
カイルとリナも「お兄さん、かっこいいー!」と後に続き、四天王たちは「流石はアルド殿だ」「あの王太子、命拾いしたでござるな」と、ニヤニヤしながら後に続いた。
残された王太子と静まり返る晩餐会。
アルドは気づいていなかった。
自分が「王族への不敬」よりも遥かに重い、「魔王の恋心」という爆弾に火をつけてしまったことに。
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