第12話:神託の器、歴代最高更新
王都、聖教会の総本山。
白亜の神殿には、国王をはじめ、名だたる宮廷魔導師や神官たちが居並び、異様な緊張感に包まれていた。
だが、その場の空気は、一行が足を踏み入れた瞬間に一変した。
ミラが優雅に一歩前へ出ると、その瞳が真紅の輝きを帯びる。
魔王の権能――絶対魅了(広域チャーム)。
((……この国の王も、神官たちも。ワタクシたちを『旧知の、由緒正しき辺境伯家』として迎え入れなさい……))
その場にいた全員の脳裏に、偽りの記憶が定着していく。
先ほどまで「何者なのだ?」と不審げだった国王が、ハッとしたように表情を崩し、玉座から立ち上がった。
「おお……これはアイゼンベルク辺境伯令嬢、ミラ殿ではないか! よくぞ、我が国の宝たる勇者と聖女を連れてきてくれた。久しいな!」
「ええ、陛下。お健やかそうで何よりですわ」
ミラが完璧なカーテシーを見せる横で、アルドは「へぇ、ミラさんはやっぱり王様とも顔見知りなんだな。すごいなぁ」と純粋に感心していた。
さて、儀式は本番を迎える。
中心に据えられているのは、国宝――『至高の測定水晶』だ。
「……では、まずはカイル殿から。その者の器が、世界の命運を決めます」
十五歳になったカイルが、アルドの後ろから歩み出た。
アルドが「ほら、カイル。しっかりね」と優しく声をかけると、カイルはパッと表情を明るくして頷いた。
「うん、お兄さん。……よっと」
カイルが軽く水晶に触れた、その瞬間だった。
水晶の内部で、太陽が生まれたかのような猛烈な紅蓮の炎と、大陸を支える大地の重圧が渦巻いた。
「なっ……魔力の密度が計測上限を突破している!? 属性は『極・火』と『極・土』! 伝説の勇者以上だ……ぎゃあああっ!?」
凄まじい光の奔流に耐えきれず、国宝の水晶が耳を劈く音を立てて粉砕した。
爆風で吹き飛ぶ神官たち。騒然となる王宮。
だが、続いて前に出たリナが追い打ちをかける。
「次は私ね。……えいっ」
隣にあった水晶にリナが触れると、今度は神殿全体を凍りつかせるような絶対零度の波動と、空間を裂く暴風が吹き荒れた。
二つ目の国宝も、粉々に砕け散る。
「……信じられん。二人がかりで、我が国の至宝を二つも……。聖女の資質すら、神話の時代を超えている……!」
震える国王と、腰を抜かす神官たち。
そんな阿鼻叫喚の広場で、アルドだけは「うんうん」と満足そうに深く頷き、腕を組みながら感無量といった様子で目を細めていた。
((いやぁ、やっぱりウチの子たちは凄いなぁ。掃除や薪割りをあんなに頑張った成果が出てる。二人とも、本当に立派に育ってくれた……))
アルドの脳内では、かつて泥まみれで震えていた二人が立派に成長した姿が重なり、感動で胸がいっぱいだ。
周囲の「国宝が壊れた」という絶望など、彼の耳には入っていない。
むしろ「俺も測ってみるか?」と神官に歩み寄ろうとしたが、これ以上の爆発を恐れたゼクスが、音速でそれを制止した。
「神官殿、アルド殿はあくまで一般人の付き添いです。彼は……そう、計測など必要ありません。ただの『勇者と聖女のお兄さん』ですので」
((((……測らせるわけにはいかぬ。王都が、いや大陸が吹き飛ぶわ!!))))
四天王たちは内心でそう叫んでいた。
アルドがこの場にあるものを触れば、水晶どころか神殿の基礎が消滅しかねない。
「お兄さん、測らなくていいの?」
カイルが不思議そうに聞くと、アルドは朗らかに笑って二人の肩を抱いた。
「いいんだよ。お兄さんは二人の凄さがわかればそれで十分だ。……ほら、王様たちが驚きすぎて固まっちゃってるよ。挨拶しなきゃ」
ミラの「捏造された常識」と、アルドの「天然の親馬鹿」。
この二つが組み合わさった結果、王宮は完全に一行のペースに飲み込まれた。
ミラは自慢の家族を誇るアルドを見つめ、優雅に扇で口元を隠して微笑むのだった。
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