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君の血を食べちゃいたい  作者: しぃ〜♪
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王の宣告

 はるか昔、ある日の太陽が沈んだ夜、世界最初のヴァンパイアが生まれた。

 一人の孤独者から始まった血の系譜は、数千年の時を経て、この世界を支配する巨大な生態系へと変貌を遂げた。

 時が重ね、彼らは太陽を克服し、文化を発展させ、独自の社会を形成したが、血は薄まり、原初の血を持つ王はいなくなった。

 王がいなければ、社会は混沌へと落ちる。

 だから、彼らは新たな王を作らなければならなかった…










 全領地の貴族が集い、「永遠」をその名に冠する最高峰の学び舎、エテルニタス貴族学院。

 ここは、若き貴族たちが社交の振る舞いを学ぶ場所であり、

 同時に属領貴族の生徒たちが優れた資質を持つ主君を見つける場でもある。

 上位貴族たちは自分の力を極め示し、支持者を集め、自分の力となる者を臣下にする。

 現在は60の貴族家、12の領がある。


 「へぇ~、ここがヴァンパイアの最高の学び舎、エテルニタス貴族学院ね」

 白亜の石材を基調とした豪奢な建築様式。

 燦々と降り注ぐ朝日を浴びて、学院の白い壁は眩いほどに輝いている。

  圧倒的な規模を誇る学び舎がそびえ立っていた。

 隣にいるエルヴィンは校門を前に、感嘆の声をあげた。

 同じ領にいる同い年の領主候補生として、私もエルヴィンも今年からこの学校の生徒となる。

 エルヴィンは私の友達だ。

 幼いころはよくお互いの家で遊んでいた。

 時間が経って、いつのまにか、遊ばなくなったが…

 「どうかしたのかい、アルリック。僕の顔になんかついてる?」

 エルヴィンは自分の顔を指で指して、笑って聞いてきた。

 肌はいかにも健康そうであり、目の近くにあるホクロは、とても目を惹きつける。

 「いや、君の顔はきれいだ」

 「…僕は今告白されてるのかな?」

 空色の瞳は一瞬大きくなり、そして少し細くなった。

 「君の顔には何もついてない、という意味だ」

 「あはは、アルリックはまじめだねー」


 校門を通ると、広大な庭園と、その中央を貫く白磁の道が目に飛び込んできた。道の先には、まるで巨人が座しているかのような重厚な校舎がそびえ立っている。

 陽光を反射して輝く尖塔の先には、各領地の紋章が刻まれた旗が誇らしげにはためいていた。

 その華やかさに目を奪われていると、いつの間にか周りには大勢の生徒たちがいた。

 近づくと、雑談に興じていた生徒たちは一瞬で静まり返り、それからヒソヒソと話し声が聞こえる。

 「見て、あれが『夜霧の領』の……」「現領主家のアルリック様よ。あんなに近くで拝見できるなんて」「隣のエルヴィン様も凄いわ。あの二人が同じ代にいるなんて、夜霧の領の黄金期ね……」「ぜひ踏んでほしい」といった、期待と崇拝とよくわからない何かが入り混じった声が漏れ聞こえる。

 何人もの女子生徒たちはその端麗な容姿に目を輝かせた。

 道の真ん中を進んでいくと、後ろからざわめき声がした。

 「ねえ、あなたたちが夜霧の領のアルリック・ヴァルドレッドとエルヴィン・クロムウェル?」

 振り返ると、何人かの生徒に囲まれて一人の少女が立っていた。

 若葉色の髪に、透き通る黄色の瞳。

 「誰?あの子」「領主候補生になんて無礼な」「あの髪と瞳はたしか…」「あ、あの極光の領のルシアン様の妹君では」「うそ、あのルシアン様の…?」

 周りの言葉を気にすることなく、彼女はじーっとこちらを見続けた。

 上から下に、左から右へ。

 そして、悩ましそうに眉をひそめた。

 「もっとこう……運命に翻弄されてやつれた、儚げな美青年、とか。重い過去を背負って、夜な夜な一人で絶望に打ちひしがれている耽美な人、とか、想像してたのに。なんだか、すごく健康そうだね。期待して損した~」

 がっかりだよ、と青ざめた周囲を置き去りにして彼女は言った。

 (…健康そう、なのか。最近は学校にむけての準備で色々忙しかったから、ちゃんと寝たのは昨日だけだったな。…よく見えるのなら良いか。)

 考えていると、隣から小さく漏れ出た笑いが聞こえた。

 エルヴィンは口元を抑えながら、愉しそうに笑っていたのだ。

 「……ふっ、ふふ……はは!……運命に翻弄された美青年に、重い過去を背負う耽美な美人…君の好みはすごく独特だね。いやー、悪いね。ご期待に沿えず」

 笑いが静まると、エルヴィンは握手を求めるように手を差し伸べ、静かなトーンで言った。

 「改めまして、エルヴィン・クロムウェルだ。きれいなお嬢さん、お名前をお伺いしても?」

 「ルチア・アイシクル、極光の領の領主候補よ」

 ルチアと呼ばれる少女は握手を返すと、私たちの後ろ奥にある建物を指した。

 「私は今日、一番眺めのいい席に座るって決めてるの。そこ、通り道だから。退いてくれる?」

 その建物は今日の入学式の場所である大講堂だ。

 普段はよく研究の発表などがされている。

 「アルリック」

 エルヴィンは私の意思を伺った。

 「…それなら目的地は一緒だ。一緒に行けば良い」

 彼女は少し考え込むと、妥協した。

 「じゃあ、いい席見つけたら教えて。それなら同行してもかまわないわ」

 「ああ、わかった。眺めのいい席を見つけたら教えればいいんだね」

 「えぇ。はっきりとステージが見える席がいいわ」

 そう話しながら、私とエルヴィン、そしてこのルチアという名の領主候補生は大講堂へと向かった。

 中に入ると、もうすでにある程度の生徒がいた。

 大講堂は劇場のように後ろほど席が高く、どこにいてもステージが問題なく見えるだろう。

 「それで、ルチア嬢は前の席がいいのかな?」

 「そうね、前の眺めが1番いいわ」

 そう言うと、彼女は前の方へ向かった。

 「僕たちはどうする、アルリック?」

 エルヴィンは私の方を見て、問いかける。

 「そうだな…さっきの彼女と一緒にいたら、また色々ありそうだ。後ろの席でいいんじゃないか?」

 「一緒にいたら、それはそれで面白そうだけどね。わかったよ、後ろ行こう」

 後ろの方はまだ人が少なく、空いた席に座り、入学式が始まるのを待った。

 ちなみにさっきの彼女は1番前の席の真ん中にいた。

 「…今この学校にいる領主候補生は、今年入学の私たちに、さっきの彼女、そして2年にいるルシアン・アイシクルに、リオン・ヘリオスか」

 「そうだね。もう1人、朧月の領の領主候補も入学するという噂だけど…」

 1番前の列にいるルチア・アイシクルの周りは、まあまあざわついているみたいだ。

 領主候補にいち早くお目にかけてもらおうとしているのだろう。

 私とエルヴィンの周りは、声をかけてくる者こそはいないものの、ちょくちょく私たちについての話し声が聞こえる。

 それ以外は、特に目立っている者は見当たらない。

 「やっぱりただの噂みたいだね。領主候補がいたら、目立たないわけがない」

 「そうだな」

 それから、エルヴィンとの間で沈黙が流れた。

 こういう事務的な話以外で、エルヴィンと何を話せばいいか、わからなかった。


 「お前の妹、面白いな」

 窓を通して下を見下ろすと、多くの新入生がいた。

 その中でもやはり領主候補の3人が目立つ。

 「あはは、かわええやろ」


 「生徒の皆さん、ご入学おめでとうございます!」

 席いっぱいになると、司会の人は話を始めた。

 よくある祝辞の後、突然ステージの下から人がステージに上がり、急いで司会者に耳打ちした。

 「なんかトラブルか」

 「かもね」

 すぐに、司会者は再びマイクを持ち上がり、

 大きく、厳粛な声で話す。

 「たった今話が入りました。今この時をもって、【王の宣告】がなされました」


 王の宣告ーー現王の退位の宣言であり、新たな王を決める、王位争奪戦の開始をも意味する。


 

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