第9章:再び牙を剥く悪意。それでも私は負けない!
王都の影は、もはや影と呼べるものではなくなった。レオンハルト王子とセレスティナは、エリアーナとルミエール村を潰すため、本格的な妨害工作を開始した。
まず、ルミエール村から王都へ向かう流通ルートが突如として遮断された。商人たちは、王宮からの圧力に屈し、ルミエール村の作物を買い付けるのを躊躇するようになる。
「エリアーナ様、困りました。せっかく採れた野菜が、王都へ運べません!」
「このままでは、せっかく稼いだ金が、無駄になってしまいます……」
村人たちの顔に、再び不安と焦りの色が広がる。
さらに、村の外れの土地が、謎の富裕層によって不法な方法で買い上げられ始めた。まるで、ルミエール村を外から締め出すかのように。
そして、耳を疑うような悪質な風評被害が王都で広められた。「ルミエール村の野菜は、魔物を使って育てたもので危険だ」「『エリアーナの台所』の料理を食べると、体に異変が起きる」といった、根も葉もない噂が流れ始めたのだ。客足は目に見えて減り、注文も激減した。
極めつけは、食材への嫌がらせだった。仕入れルートが阻害された村では、食材の調達が困難になっていたが、何とか手に入れた食材が、意図的に傷つけられたり、品質を落とされた状態で届くようになったのだ。
「こんなもの……とても、お客様に出せません!」
エリアーナの顔から血の気が引く。必死に築き上げてきた全てが、今、彼らの悪意によって崩されようとしていた。
ルミエール村は、最大の窮地に立たされていた。
しかし、エリアーナと村人たちは、決して諦めなかった。
「エリアーナ様! 私たちは、どんなことがあっても、エリアーナ様を信じています!」
リリーが、真っ直ぐな瞳でエリアーナを見上げた。
「そうだ! あの時、死にかけていた村を救ってくれたのはエリアーナ様だ! 今さら、王都の貴族なんぞの指図で、諦めるもんか!」
村人たちの熱い言葉に、エリアーナの心に再び炎が灯る。彼らと共に、この困難を乗り越えてみせる。
エリアーナは、冷静に状況を分析し、反撃のための準備を始めた。
「カイン様、王都で培った知識と、あなたの情報網が必要です」
彼女が目を向けたのは、いつも傍らで支えてくれるカインだった。
カインは頷き、自身の持つ元騎士の情報網を駆使し、レオンハルト王子とセレスティナの動きを探り始めた。彼らの不正を暴くための証拠集めだ。流通を妨害する業者、不法な土地取引に関わっている貴族の名前、そして悪質な風評を流す情報源。
一方エリアーナは、王都の貴族が使う裏金を洗浄する場所や、彼らが結びついている裏社会の人間に関する情報を、前世の記憶からヒントを得て推測する。王都での生活の中で、耳にした貴族たちの不穏な噂や、不正な取引に関する断片的な知識が、今、点と点として繋がり始めたのだ。
「カイン様、おそらく彼らは、〇〇という場所に、不正な裏取引のための拠点を置いているはずです」
エリアーナの言葉に、カインは驚きを隠せなかった。公爵令嬢が知り得るはずのない情報。しかし、その信憑性は高かった。
カインは、エリアーナの情報と、自身の元騎士としての知識、そして何よりもエリアーナを守るという強い決意を胸に、秘密裏に行動を開始した。時には危険な場所へ潜入し、時にはかつての同僚である騎士たちの中に未だエリアーナに同情的な者がいないか探りを入れる。
レオンハルトとセレスティナは、自らが完璧だと思い込んでいた妨害工作によって、徐々に自らの首を絞めつつあることを、まだ知る由もなかった。
エリアーナは、もう受動的に耐えるだけの「悪役令嬢」ではない。彼女は、自ら動き、愛する村と仲間たちのために、積極的に反撃に転じる準備を整えていた。彼女の目は、かつて王都で流した悔し涙とは違う、未来への強い光を宿していた。




