第6章:豊穣の畑、そして広がる繋がり。忍び寄る影と新たな試練
「エリアーナ様! 今日も畑の手伝い、がんばります!」
リリーが元気いっぱいの声で、エリアーナに駆け寄ってきた。その後ろからは、ミリア婆さんや他の村人たちも、鍬や籠を手に、エリアーナの畑へと向かう。
「ありがとう、リリー。今日は新しい苗を植えるから、優しくね」
エリアーナは笑顔で応え、彼らと共に、以前は荒れ果てていた畑に立つ。そこは、もう見違えるほど豊かになっていた。瑞々しい緑の葉が風に揺れ、色とりどりの野菜が実を結び、ルミエール村の風景を一変させていた。
「エリアーナの台所」の評判と共に、エリアーナの農園は急速に拡大していった。彼女の的確な指導の下、村人たちも積極的に農業に協力するようになった。エリアーナは、前世の知識を惜しみなく伝え、栽培品種をさらに増やしていった。従来のこの世界にはなかった、病気に強く、収穫量も多い品種の導入や、輪作、連作障害の回避といった現代的な農法を取り入れた結果、畑はみるみる豊かになっていった。
「婆さんが若い頃は、この辺りは本当に何にも育たなくてねぇ。まさか、こんなに豊かになるなんてねぇ……」
ミリア婆さんは、エリアーナが作った水路や、肥料の山を見ながら、感嘆の声を漏らした。
村人たちは皆、エリアーナを「賢者様」と呼んで尊敬し、時には「エリアーナ先生」と呼んで農業技術を教えてもらっていた。子供たちはエリアーナに懐き、畑仕事の手伝いをすることで、土の恵みや働くことの喜びを学んでいく。
食堂のメニューも、採れる食材が増えるにつれて、デザートや保存食、加工品など、その幅を広げていった。冬には採れたての根菜を使ったポタージュスープ、夏にはひんやり冷たい果物のゼリー。村の特産品として、干し野菜やジャムなども作られ、それがまた村の外の商人たちから人気を博した。
ルミエール村には、日に日に活気が増していった。外からの客が増え、村人たちの暮らしは目に見えて豊かになっていった。
しかし、順調な発展の裏で、異変の兆候が起こり始めていた。
「エリアーナ様、隣村の者が、こちらの農作物の評判をひどく悪く言っていると、商人から耳にしました」
カインが、不穏な顔で告げた。
「え? そんな……」
「向こうも、自分の村に客が来なくなることを恐れているのだろう。そして、この村の豊かさを、快く思っていない者もいる」
カインの言葉通り、村に不審な人物が出入りするようになったという報告が上がった。収穫前の畑が荒らされたり、作物に石が混入しているのを発見したりと、目に見える妨害行為も始まった。
さらに、異世界特有の試練もエリアーナを襲った。
「エリアーナ様! 見てください! この葉っぱ、変な斑点が出てます!」
リリーの声にエリアーナが畑に駆け寄ると、新しく栽培を始めた作物の葉に、見たことのない病害が広がっていた。前世の知識にはない病気だ。さらに、日照りの続く厳しい夏には、村の水源が干上がり始め、畑はカラカラに乾いていく。
「このままだと、作物が枯れてしまいます……!」
村人たちが不安げな表情を浮かべる中、エリアーナは自らの知識だけでは立ち向かえない、異世界の厳しい現実を目の当たりにしていた。
だが、エリアーナは諦めなかった。
「大丈夫、きっと、解決策はあるはずです!」
彼女の瞳には、まだ闘志が宿っていた。
カインは、エリアーナの顔をじっと見つめ、何かを決意したように深く頷いた。元騎士としての土地の調査経験や、危険から村を守る術。彼の力が、今こそ試される時だった。
広がる豊穣の畑。深まる村人たちとの絆。そして、その背後に忍び寄る不穏な影。ルミエール村の快進撃は、新たな試練の局面を迎えていた。




