エピローグ:遠い未来へ続く、エリアーナの物語
それから数十年後。
エリアーナがかつて追放され、降り立ったルミエール村は、王国で最も肥沃な土地、「豊穣の地ルミエール」として名を馳せていた。かつては痩せ細っていた大地は、エリアーナの築き上げた農業技術によって、どこまでも豊かな緑と、実りをもたらす畑へと姿を変えていた。
彼女が作り上げた農業の文化は、村だけでなく、王国中に広く根付き、国中の食料事情を根本から改善し、人々の生活を豊かにした。ルミエール村は、もはや王国を代表する一大観光名所となり、多くの人々がその奇跡を見ようと押し寄せていた。
エリアーナ自身は、もう若くはなかった。白髪が増え、皺が刻まれたその顔には、長年の労苦と、深い満足が刻まれていた。
しかし、その瞳の輝きは、出会った頃と変わらず、いつも穏やかで、そしてどこまでも力強かった。
彼女の隣には、変わらずカインが寄り添っていた。彼は白髪の増えたエリアーナの手を取り、まるで初恋の少女を見るかのように、優しく、そして愛情深く見つめ続けていた。二人の間には、長きにわたる歳月と、幾多の困難を乗り越えてきた夫婦の、確固たる絆と信頼が結ばれていた。
子供たちも立派に成長し、レオンはカインの跡を継いでルミエール村の村長となり、アイリスは「エリアーナの台所」をさらに発展させていた。そして、彼らには可愛らしい孫たちが生まれ、祖母エリアーナの畑仕事や料理を、目を輝かせて手伝っていた。
「ばあば、この新しいお芋、どうやったら一番美味しくなるの?」
孫たちの無邪気な問いかけに、エリアーナは優しく微笑んだ。
「それはね……まず、このお芋を心から大切に思うこと。それから、そのお芋が一番喜ぶ料理方法を見つけることよ」
彼女の言葉は、まるで魔法のように、孫たちの心に響いた。
エリアーナは、この村人たちからの変わらぬ尊敬と愛情に包まれ、そして家族に囲まれて、穏やかで満ち足りた人生を送っていた。
彼女の物語は、もはやただの「悪役令嬢」の顛末として語られることはない。
それは、一人の女性が、不当な逆境から這い上がり、前世の知識と、何よりも自身の情熱とたゆまぬ努力で、世界を大きく変えた「賢者の物語」として。
そして、「食」という、誰もが持つ喜びを通じて、人々の心を繋ぎ、荒れた大地を豊穣の楽園に変えた「女王の物語」として、未来永劫、この王国で語り継がれていく――。
肥沃なルミエール村の地には、今日もまた、豊かな作物が実り、その恵みは、人々の笑顔と、穏やかな幸福を運び続けている。




