魔格の差
エルメスと堕天したメリル、そして天界の追手は、天使軍一部隊と、一度はメリルに勝利したセリカである。傷つき疲れ果てた二人は地上でも狙われる。果たして生き延びる事はできたのか?
「エルメス?もうだいぶ歩いたわ。私も疲れたから少し休ませて・・・」
本当はエルメスを休ませたいのだが、自分から休みを取るような事はしない。少し具合が悪いフリをして歩みを止めさせたのだ。
エルメスは、静かにメリルを木陰に降ろすと切り傷だらけの頬に手を添える。冷たくなった頬をエルメスの暖かで優しい手のひらが覆う。
「ふうぅ・・・エルメスの手、気持ちいい・・・」
「大丈夫、私は絶対に君の側にいる。だから、怖くないよ。」
「ありがとう・・・」幸せそうにし潤んだ眼を閉じる。
そんな安らかな時間は、長くは続かないのであった。追手が周囲を囲んで飛びかかってくる。
あからさまに弱ったメリルだけを狙っている。
一番魔力の消耗が少ない風の刃が中級天使達を薙ぎ払うが、中に頭の良い天使はメリルが庇いに入る事を予測してエルメスに狙いを変えてくる。
メリルもエルメスも長い時間、天使軍の攻撃を受けて逃げ回るうちに、お互いの立ち位置が離れてしまっていた。
当然メリルは、エルメスを護るために魔法防御壁を展開するのだが、エルメスとの距離が離れすぎていて同時に二つの防御魔法を展開し続けなければいけない。
結果的にメリルは、自分を護ることが疎かになってしまっていた。
更に広範囲に魔法を使うとメリルに感染したナノマシンが更に大きな力を得てメリルの華奢な身体を食い荒らして行くのだ。
「あっ・・・あああああぁんっ」苦痛に苛まれ我慢できず悲鳴が漏れる。
ナノマシンは魔力を食べて凶暴化する。故に魔力を使うメリルはその都度耐え難い苦痛を味わう事になるのだ。
メリルは血の涙を流しながら必死にエルメスを護り続ける。
そしてメリルの苦痛の元凶であるセリカまで目の前に現れるのであった。
「いいざまだな、エルメス様を誑かした罪を全て背負って死んでもらおう。」
「絶対絶命?そっかぁ、はじめから全て私に罪を被せて殺して、エルメスを天界に連れ戻せば、セリカは英雄になれるんだ・・・」頭をよぎった。
メリルは圧倒的に不利な状況で、セリカとの再戦を余儀無くされたのだ。
メリルは、普段は抜くことのない予備のダガーでセリカと剣を交える。
一見、セリカと対等に渡り合っているが、徐々にメリルの身体は斬り刻まれ、血塗れになっていった。
もはや、勝負は着いたかの様に見えたが、結果は違った。
何故か最後に立っていたのは、ボロキレの様なメリルであった。大量の血液を流して崩れ落ちたのは、予想に反してヘパイストスの眷族であるセリカだったのだ。
「インペリアル・ミュート・オーダー」
格上の魔格を持つ者が、明らかに格下の魔術師の魔法を封じるための魔法である。
「あぁ、これが通じないくらい実力差の無い相手だったら、私が殺されてたなぁ・・・」
要はセリカの身体強化魔法を全て解除している間に、メリルはダガーでセリカの急所を貫いたのだ。
この魔法は、ある程度格下の魔導士でないと使えない魔法である代わりに、魔力をほとんど消費しない。
故にナノマシン存在している空間でも施行できたのだった。
不利な戦いのなか、強敵を倒し地上に逃げ延びたエルメスとメリル。二人の行く先に、安住の地はあるのだろうか・・・。
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