初めての敗北
「きゃああああっ・・・うっ」左の肩口から右胸にかけて袈裟斬りにされてしまい斬られた傷を両手で抑えてうずくまる。
真っ白な光すら放つメリルの身体が真っ赤に染まる。大量の血液が血飛沫を上げる。
剣術のレベルではメリルに軍配が上がるのだが、ヘパイストスの長剣はその差を埋めて尚お釣りがくるほど優秀だったのだ。
しかも、魔封じの神の権能が宿してありこの剣の周囲では、全ての魔法が無効化されると言う魔女殺しの剣なのだ。
権能の種を明かせば、この長剣は周囲一定の範囲に、魔力を無限に吸収するナノマシンを散布して絶対的な結界を作って攻守に使って居るのだ。
しかも、ナノマシンは、魔力を持つ相手には猛毒として働くため、メリルの胸の傷や呼吸と共に肺からナノマシンが侵入しており、メリルに地獄のような苦痛を味合わせているのだ。
メリルは、このナノマシンが感染している間は、身体中の魔力回路が食い荒らされているため最強と謳われた魔女は、本領を発揮出来る訳がないのだ。
「セイクリッド・シールド!」メリルは座り込んで身体が引き裂かれる様な苦痛に耐えながら、エルメスの安全を確保する。
「何をしている。無理に魔力を使うんじゃない!制御できなくなって魔力爆発を起こしてしまうぞ。」
エルメスは、容姿、人格、芸術に優れるが、自らの強さを誇る神ではない。
結局はエルメスは、目の前にいながらにして愛するメリルがメチャクチャに壊されて行くのを助ける事ができず、見ているしかなかったのだ。
エルメスは勇気を振り絞り身を挺してメリルを庇う。
圧倒しているセリカは、愛する妻を身を挺して守ろうとしたエルメスにはなんの攻撃もせずに、今回襲撃した目的を話し出す。
「私は高位神族を敵に回すつもりはない。我はヘパイストス様の偉大さが誇示出来ればそれで良い。」
それは序列の問題では無く、最強と評された魔女を圧倒して余りある神器の性能を見せつけ、ヘパイストスの評価を上げることが目的だったのだ。
セリカは誇らしく勝ち鬨を上げると満足そうに戻っていった。
メチャクチャに傷付けられたメリルを涙ながらに抱き締めてエルメスは、涙を溢す。
「すまん、メリル・・・また、君をきずつけてしまった。私は戦いが苦手だから結局は守ってあげられない。こんな情け無い私と結婚しても良いのかい。」
どす黒い血液で塗れたメリルが、掠れた声で話し出す。
「そんな・・・事を考えてたんですか?ふふっぅ・・・エルメス様・・・、私は貴方に守って・・・もらうつもりはありません。私が・・・護るんです。エルメス様?は、私を愛してくれれば・・・それで満足です。」メリルは、途切れ途切れながらも、思いの丈を伝える。
「メリル・・・愛している。ずっと・・・だからたのむ。もう私のために危険な真似は辞めてくれ。君が傷付くのを見ると胸が張り裂けそうだ・・・」
メリルは、静かに目を閉じると静かにため息をつく。
「分かっ・・・りました。できるだけ気をつけ・・・ますね。」必死に笑顔を見せる。
エルメスは、メリルをらしくも無く強く抱きしめる。「一緒に地上に帰ろう。君の愛する世界へ・・・。」