エピソード07:メタルシティへ!
午後、俺は仕掛けた餌に夢中になっているモンスターたちをじっと見つめていた。
やつらは「ベア・デビル」だ。
長年、俺たちの村や旅人たちに甚大な被害を与えてきた獣ども。
だが、今日で終わりにする。
俺たちはこの忌まわしき魔獣を一掃するため、大規模な狩りを仕掛けたのだ。
「ヘイ、リーフ…準備しろ。」
「…うん。」
俺は攻撃態勢に入る。仲間たちも全員準備完了だ。
この二年間、こいつらを倒すために動いてきた。失敗は許されない。
これは――彼女のためだ。
「……時は来た。全員、あの呪われた獣どもを仕留めろ!」
「おおおおおお!!」
その掛け声とともに、全員が一斉に突撃する。
「グルアアアアア!!」
俺たちの接近に気づいた獣たちが、こちらに向かって突進してきた。
一体が俺に向かってくる。――よし、来い!
一閃――俺はその「ベア・デビル」の首を切り落とした。
首が宙を舞い、地面に転がるのが見える。
…思い出がよぎったが、今は戦いに集中すべきだ。
次の一体が爪で襲いかかってきた。俺はそれを剣で受け止め、死角から一太刀を喰らわせる。
これで二体目だ。仲間たちも順調に獣を倒している。
まだ誰も倒れていない――いいぞ、次だ。
さらに四体を仕留めた。ひとつずつ確実に。そして次を探す。
「――あいつだ!」
そう、あれが森で最も巨大で凶暴な「ベア・デビル」だ。
俺たちはあいつを「デビル・キング」と呼んでいる。
これまでのどの獣よりも強く、獰猛で、殺しの本能に満ちていた。
だが今日、俺が奴を討つ!
「俺がやる!」
指示も待たずに、俺は奴に向かって突っ込んだ。
死角を狙って接近する――その瞬間、
「グルアアアア!!」
奴の鋭い爪が俺の一撃を弾き返した。
クソッ…思ったより手強い。あの一撃、俺を吹き飛ばすほどの力だった。
奴が突進してきて、俺を引き裂こうとする。だが、ギリギリで回避。
距離を取る。――普通の攻撃じゃ勝てない。
――特別な武器を使うしかない。
奴の血に染まった瞳が俺を捉える。一直線に俺のもとへと迫ってくる。
俺は地面を蹴り、奴に近づいたその瞬間、跳躍してその巨体の頭上へと舞い上がる。
「紅蓮の輪よ、我が剣に宿れ――《エンバーリング》!」
剣を回転させると、炎が刀身を包み、空中に炎の軌跡を描いた。
そのままの勢いで、俺は奴の首に一閃を放つ――!
「グアアアアア!!」
デビル・キングが断末魔の咆哮をあげながら倒れ込む。
俺は空中で身を翻し、地面に着地。倒れた王を見下ろす。
「……」
首から血が噴き出し、その目から光が消えていく。
――デビル・キングは、死んだ。
俺たちは、勝ったのだ。
「……」
俺は近づいて、倒れた巨体を見つめる。
あの時、一体の「ベア・デビル」が俺に妹を救うチャンスをくれた。
だが、俺はそれを無駄にした。
――だが、あれから強くなった。
俺は手を合わせ、祈りを捧げる。
「……」
あれから、八年が経った。
もう、あの頃の泣き虫な俺じゃない。
……もう、いいだろう。
...
――ふう。
長い戦いの末、ついに勝利を収めた。……はあ、キツかったな。
その瞬間、男の一人が俺の肩を叩いてきた。
勝利の喜びが顔に溢れている。
「はっはっはっ! さすがだ! 本当にお前は俺の息子だ!」
――今さら? まあ、喜んでるみたいで何よりだ。
「よし、帰って勝利を祝うぞ!」
「おおおおおっ!!」
父の声に、全員が一斉に応える。
そして俺たちは、村への帰路についた。
数時間の道のりを歩き、ようやく村に戻ると――
そこには、大勢の村人たちが俺たちを出迎えてくれた。
みんな、俺たちの勝利を心から喜んでくれていた。
長く続いた魔獣の脅威は、ようやく終わったのだ。
「よーし、これをお前の母さんの鼻っ柱にでも突きつけてやるか!」
「やめとけよ、怒られるぞ。」
あの人、ただ「一番最初に死ぬバカになるな」って言っただけだろ…。
――そんな調子で、宴は夜遅くまで続いた。
俺も酒を少しだけ嗜んでいた。周りみたいにがぶ飲みはしてないけどな。
「うわぁ、リーフ! 今日のあんた、本当にカッコよかった!」
「一人でデビル・キングを倒したって聞いたよ!」
「まじですごいって!」
「リーフ、結婚して!」
どっと女の子たちが集まってきて、俺に話しかけたり、抱きつこうとしてきたりしてる。
――おい、一人はまだ子どもだぞ!?
「あなたみたいに強くて真面目な人、理想的です。感謝の気持ちを、身体で伝えたいなぁ…」
そう言いながら、俺の腕に胸を押し付けてくる少し年上の女性――セシリーさん。
「セシリーさん…既婚者ですよね?」
「それがどうしたの? ちょっとぐらい、楽しんだっていいでしょ?」
「私たちも~!」
「よく分かんないけど、私もリーフと遊びたい~!」
……ゴクリ。
ダメだ、これは色々とまずい。逃げるしかない!
「すみません、お美しい皆様。
今日はさすがに疲れましたので、休ませていただきます。」
そう言って、丁寧に彼女たちの腕から抜け出した。
「え~……」
「ずるいよ~。ママは夜更かしダメって言うのに~!」
すまんな。
そしてそこのチビ、夜更かしの理由が“大人の遊び”はやめとけ。
――村の英雄になったおかげで、妙にモテてしまった俺。
……正直に言えば、この村の女子の趣味はどうかしてると思う。
まあいい。
今日はもう家に戻って、ゆっくり休もう。
明日になったら、俺は「メタルの街」へ向かう。
シオリとの約束を果たすために――。
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朝になり、俺はクレイン村の入り口に立っていた。 そして当然ながら、見送りに来てくれた人たちが集まっていた。
両親――マセスとルシエスが、俺の目の前に立っている。
……にしても、この村の人たちの名前、どれも変わってるよな。 正直、誤字かと思うレベルだ。
「息子よ、気をつけてな。」
「うん、気をつける。」
「妹さんを無事に連れて帰ってきてね。」
「もちろん!」
それが俺の旅の理由だ。――絶対に失敗なんてしない。
「それから……女性には優しくするのよ。傷つけたりしないように。」
……俺が何するっていうのさ。
「シオリさんとちゃんと結婚するのよ?」
いや、そういう約束じゃなかっただろ、母さん。
「それとね、妹さんを見つけても、変な気起こさないでよ?」
……ちょっと!? 俺を何だと思ってるんだ!? 妹にそんなことするわけないだろうが!
「リーフがアリーシャちゃんとシオリさん、両方を嫁に選ぶなんて展開だったら……母さん、もう耐えられないわ……」
な、なんだと!?
「でもあの子なら、両方連れて帰ってくるって言われても驚かないわ。あの女たらし息子め。」
「違うってば! そんなことしないって!」
何なんだこいつらは……。
「いいか、貧乳の女と結婚するくらいなら、胸の大きい女と帰ってこい。でなきゃ家に入れるつもりはないからな!」
……決めた。 この人たち、道徳という概念をどこかに置き忘れてきたに違いない。 いや、そもそも知らないのか?
まあ、親の期待には応えられないけど―― 妹を無事に連れて帰る。それだけは約束する。
「父さん、母さん……今までありがとう。」
「別に大したことしてないさ。ただ、ちょっと手がかかるガキだっただけだ。」
……その一言はいらなかった。
「お前がいつもムスッとしてた頃を思い出すよ。 でもあの賢者シオリが来てからは変わったな。すっかり男らしくなった。」
最後にまともなこと言ってくれてる。
俺は二人に微笑みを返し、軽く頭を下げて村人たちのもとへ向かった。
それぞれのやり方で、皆が俺を見送ってくれた。
この村のこと、きっと俺は――ずっと忘れない。
――よし、シオリ。今行くよ。
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