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僕が生きる理由


もし、自分の命があと少ししか残っていないと知ったら、君ならどうする?

あと数年で死ぬとしたら?

他の人たちが生きる時間のほんのわずかしか生きられずに、この世界から消えてしまうとしたら?


悲しくなる? 短い人生を悔やんで、愛する人たちともう一緒にいられないことを嘆く?

それとも、運命を受け入れて、静かにそれを受け止める?

あるいは、怒って、世界や神を呪う? 「どうして?」と問いかける?


まあ、人によって違う答えがあるだろうし、そのどれも選ばない人もいるかもしれない。

でも、たぶん多くの人は、世界に怒りを向けるんじゃないかな。

どちらにしても、それは仕方のないことだと思うよ。

だって、誰だって、子どものうちに死ぬなんて準備できてないもの。


私は、その選択をした。

三年後に死ぬと知らされたとき、私はその最後の選択肢を選んだんだ。

神に対して怒りをぶつけて、「どうして?」と叫んだ。


――私、いい子じゃなかったの?

――たくさん嘘をついた?

――両親に怒ってばかりで、それが私のためだったかなんて考えなかった?

――教会にあまり行かなかったから?


そんなことを、頭の中でぐるぐる考えて、神に問いかけた。

もちろん、答えなんて返ってこなかった。


悲しみと、痛みと、恐怖が私を覆った。

まあ、当然だよね。

私は、そんな運命に耐えられるような人間じゃなかった。


両親は、必死に私を慰めようとしてくれた。

でも……その言葉がただのなだめにしか聞こえなくて、私は聞こうとしなかった。

心の中で、両親を責めたこともあった。

「どうしてこんな弱い体に産んだの?」って。

本当に、私はバカだった。


そして、もう諦めかけたとき、ある存在が私の前に現れた。


顔も、名前も、性別さえも覚えていない。

もしかしたら人間ですらなかったかもしれない。

でも、確かに「普通の存在」ではなかった。


その存在は言った。

「こんなに哀れな子に、三つの願いを叶えてやろう」って。

もちろん私は、その言葉を疑ったよ。

でも……どこかで、両親が気を紛らわせようとして作り出した幻かもしれない、なんて思ったりもして。


だから、受け入れたんだ。

そして、三つの願いを言った。


一つ目。

この病気を治してほしい。

それが、私の悲しみと怒りの原因だったから。


二つ目。

不死になりたい。

そうすれば、もう死を恐れることもない。

それが、最高の願いだと思った。


三つ目。

魔法が使えるようになりたい。

だって、魔法ってカッコいいし、子どもなら誰だって憧れるでしょ?


そして、願いは叶えられた。

私は、不死の魔法使いになった。

――なんだかすごいでしょ?


でも、それは「地獄の始まり」だった。


村の人たちは、私を「呪われた存在」と見なした。

私を殺そうとした。

身体を真っ二つに切られたり、焼かれたり、魔物に食べさせられたり、いろいろとひどいことをされた。


両親も、「異端をこの世に産み落とした罪人」として処刑された。


私は、復讐しようとしたけど……

あまりにも弱すぎて、誰にも勝てなかった。

だから、逃げて、遠くに隠れた。


両親を失った。

彼らに何の罪があったっていうの?

あんな目に遭うなんて、絶対におかしい。


それでも、私は生き続けようとした。

でも、それは簡単なことじゃなかった。


不死とはいえ、空腹は感じる。

内臓がきしむような感覚は耐え難かった。

歩き続ければ疲れるし、魔物にまた襲われるんじゃないかという恐怖が、昼も夜も私を蝕んだ。


眠っているときに襲われることもあったし、もし不死じゃなかったら、何度も死んでたと思う。


それでも、優しい人たちに出会えた。


彼らは、私を受け入れてくれた。

不死だとは言わなかったけど、長命のエルフや魔族の一種だと誤魔化した。

それでも、私を大切にしてくれた。


だから、私は彼らと長い間一緒に暮らした。


幸せだった――

戦争が始まるまでは。


子どものころから知っていた人たちが、全員いなくなった。

あの残虐な王の兵士たちが、みんな殺した。

理由なんて、わからない。


私はまた逃げた。

無力な自分を責めながら。

なぜ、あの人たちじゃなくて、私が死ななかったのか。


理解できなかった。


そして、また新しい人たちに出会った。

冒険者たちだった。

私は、彼らの旅に同行することにした。


――あの願いをしてから、すでに187年が経っていた。


彼らは良い人たちで、勇敢だった。

ちょっと無鉄砲なところもあったけど、私は彼らを家族のように大切に思っていた。


特に、一人の魔族の少女。

彼女は、私のことをとても尊敬してくれていて、私も彼女を「親友」だと思っていた。


私たちは、五年間共に旅をした。

楽しいことも、辛いこともあったけど、それらを仲間と共に乗り越えてきた。


――ある任務中、仲間の一人が毒に侵されてしまった。

その毒を治すには、とある危険な場所に咲く「奇跡の花」が必要だった。

私たちは、その花を探しに旅立った。


でも、そこは私たちの手に負える場所ではなかった。

私以外の全員が命を落とした。

私は、なんとかその花を持ち帰った。


仲間をすべて失ったことが信じられなかった。

何をすればいいのかわからなかった。


でも、リーダーが死ぬ前に言った言葉――

「帰って、彼女を救ってくれ」

その言葉があったから、私は正気を保ち、空っぽの手では戻らなかった。


戻ったとき、彼女――花を必要としていた彼女は、泣き崩れた。


「私のせいでみんなが……」と。

私は「違う」と言って、彼女をなだめようとしたけど、彼女は私の言葉を受け入れなかった。


そして、私にこう聞いた。


「どうして、あなただけが生き残ったの?」


私は、真実を話した。

――自分が不死であることを。


彼女は、しばらく沈黙したあと、静かにこう言った。


「そう……もしあなたが最初から不死だって教えてくれてたら、あなた一人で行ってもらえばよかったのよね。そうすれば、誰も死なずに済んだかもしれない」


私は言葉を失った。

何も返せなかった。

でも、きっと彼女の言う通りだった。


私は「ごめんなさい」って言いたかった。

「私のせいだ」って、「罰を受けるべきだ」って。


でも、その前に彼女は言った。


「でもまあ、どうしようもなかったよね。私たち、弱かったし、子どもに一人で行けなんて言えないし。きっと同じ結果だったよ」


そう言って、彼女は立ち上がろうとした。

私は、彼女を支えながら、その言葉を噛み締めた。


彼女をベッドに運んで、私は解毒剤の準備を始めた。


そのとき、彼女はこうつぶやいた。


「長い間、あなたのことを強いと思ってた。でも、あなたも私と同じ。弱いんだね。みんな、弱い」


そして、彼女は眠った。


――その日を境に、彼女は変わった。


冷たくなって、人間の弱さについて語るようになった。


そして、私に向かって「君も含めて、みんな弱い」と、どこか狂気を含んだ笑みを浮かべながら言うようになった。


もう、あのころの彼女じゃなかった。


そしてある日、すべてが終わった。


彼女は言った。

「誰かに願いをした」――でも、誰にだったか覚えていないらしい。


その願いによって、彼女は「力」を手に入れた。


もう、彼女は弱くなかった。

――それどころか、化け物のような存在になっていた。


そして、ある晩、彼女が「一つの都市を滅ぼした」と聞いた。


それは、彼女とその家族が暮らしていた都市だった。


彼女は言った。

「新しい王が魔族を嫌っていて、みんなを殺した」と。


私は耳を疑った。

彼女がそんなことをするはずがない。

そう思いたかった。


でも、彼女は私の目を見て、こう言った。


「人間って、怖いから、自分たちに脅威になるものを先に潰すでしょ。まあ、当然だよね? でもだからって、私たちが黙って死ぬ理由にはならないでしょ?」


その言葉は、どこか狂っていた。

私は、彼女が恐ろしくなった。


「だから、先に動くの。全部、滅ぼすの。そしてあなたは……私を手伝ってくれる?」


そんなこと、できるわけない。

彼女の言うことには、まったく賛同できなかったし、彼女が怖かった。


「無理……私は、そんなことできない……ごめん、でも無理だよ……」


「……」


彼女は、失望したような目で私を見た。


「そう……ごめんね。こんなこと言って。じゃあ、これでお別れだね」


そう言って、彼女は去っていった。

どこへ行ったかは、わからない。


私は、ただ崩れ落ちて、かつて街だった場所の灰を見つめていた。


――それから二十年後。


彼女は、「魔王」と呼ばれる存在になっていた。


数々の破壊と死をもたらし、大きな戦争を引き起こした。


じゃあ、私はその間何をしていたのか?


また逃げて、また隠れていた。

そうやって、永遠に続くような悲しみと絶望から、目を背けていた。


家族を失い、仲間を失い、そして、自分で「怪物」を作ってしまった。

そう思ってた。


全部、私のせいだ。

あの願いは、祝福なんかじゃなかった。

呪いだった。


なぜ、ただ病気を治してもらうだけにしておかなかったんだろう。

なぜ、平和を願わなかった?

飢餓のない世界や、悪のない世界を願えばよかったじゃないか。


そっちのほうが、ずっと良い願いだった。


でも、私はしなかった。

君なら、どうだった?

君なら、もっと利他的な願いをしたと思う?


人って、願いをするとき、自分のことしか考えられない。

少なくとも、私はそうだった。


私の願いは間違っていたのか?

もっと良い願いをすべきだったのか?

わからない。

私は、世界の仕組みなんて知らない、ただの子どもだった。


私は、長い時間その答えを探していた。

そして、最後には「死にたい」と願うようになった。

なんという皮肉だろう。


でももちろん、どんな方法でも私は死ねなかった。


首をはねても、溺れても、焼かれても、食べられても、何をしても。

無駄だった。

私は、死ねなかった。


ただ、「死にたかった」。


そんなある日。

私は、森の中で毒を飲んで倒れていた。

呪いの指輪までつけて、死を願っていた。


そこに、一人の男が現れた。


彼は私を自分の家に連れていき、世話をしてくれた。


私は、無表情で、まるで死んだ人間のようだった。


彼は、ずっと本を読んでいた。


私は何も聞いていないのに、「知識を得るため」だと言った。


私は、理解できなかった。

どうして、そんなに学ぶ必要があるの?


医学を学んでも医者じゃないし、言語を学んでも旅しないし、魔法を学んでも使えない。

なのに、どうして?


私はある日、彼に聞いた。

「なぜ、そんなことをするの?」


彼は答えた。


「野心、知恵、娯楽、鍛錬、仕事、いろんな理由がある。

でも、ただ単に『知りたいから』ってのも理由になるんじゃない?

生きる理由を探すように、何かを学ぶ理由があってもいいでしょ?」


なんとも、納得のいかない答えだった。


でも――


「本当はね、俺自身もなぜ生きてるのか分からない。だから、こうやって生きる理由を作ってる。

ねえ、君はどう? 君は、生きる理由がある?」


私は答えられなかった。

さっきまで「死にたい」って思ってたのに、ずっと前は「生きたい」って思ってた。



「――!」


その瞬間、気づいた。 私が“生きたい”と思った理由に。


私は……まだ何も成し遂げていなかった。 だから、「生きたい」と思ったのだ。


自分が何になりたいのかも分からなかった。 何ができるのかも分からなかった。 でも、それを――見つけたかった。


だから、何度も「やり直したい」と思った。 新しい家、新しい家族――新しい人生。


チャンスが欲しかった。 そして、実際に何度もチャンスを得た。


でも今は――


「……ねえ、私も……生きる理由が欲しい……お願い……」


涙ながらに、そう言った。


それこそが、私がこの世で最も欲していたものだった。


「じゃあ……うーん……『すべてを知る』っていうのはどう?」


「すべてを……知る?」


「うん。なんだか、それっぽい理由になりそうじゃない?」


私は考えた。 それで、何が得られるのか――?


でも、よく考えてみると……悪くないかもしれない。


「どうやって?」


「世界を旅して、いろんな情報を集めるんだ。 百の場所を巡って、あらゆる本を読み、人々と話してさ。 ……あ、そうだ」


そう言って、彼は引き出しから紫色の本を取り出した。


「これに記録するといいよ。魔法の本で、ページがなくならないんだ」


そう言って、彼はそれを私に手渡した。


軽くて、中身はすべて白紙だった。 そして、その色は――


「君の髪と瞳と同じ色だね。偶然かな、はは」


私の髪と瞳は紫色。 両親とは違う色だった。 理由は分からない。


彼の提案について考えながら、私はこう尋ねた。


「お名前、教えていただけますか?」


「マーカス・エドウィン。君は?」


私の名前は、生まれたばかりの頃に村を救ったという謎の旅人が名付けてくれたものらしい。 両親がそう言っていた。


「シオリ・アエテルヌムです。……これを、私の生きる理由にします」


マーカスは穏やかに笑って、どこから始めればいいのかを丁寧に教えてくれた。


一週間後、私は旅の準備を整えた。 彼に感謝の言葉を伝え、その名を忘れないように本の最初のページに記した。


それからの年月――いや、何十年、何百年、そして何千年。 私はあらゆる知識を集め続けた。


魔法、歴史、医学、宗教、薬草学、農業、料理、天文学、錬金術、芸術、文学、建築、文化、種族、言語、霊術、召喚術、地理、自然、心理学…… 数え切れないほどの学問を。


止まることなく、私は探求を続けた。 それはもう、私の“生きる理由”になっていた。 そしてこれからも、永遠に――


たくさんの人々と話をした。 けれど、誰かと深く関わることはなかった。


誰かを大切に思えば、また喪失の痛みを味わうことになる。 私は、そのことをよく知っていたから。


時には面倒ごとに巻き込まれることもあったけれど、 不死である私には恐れることなどなかった。


そうして、私は二千年以上の時を生き続けた。


このままずっと変わらない日々が続くのだろうと思っていた。 それも悪くない、とすら思っていた―― けれど、永遠に続くものなど、どこにもなかった。


ある日、私は一人の人間と出会った。


彼は、私を旅に誘ってくれた。


そして私は、その人との関わりを通して―― もう一つ、自分自身の“本当”を知ることになったのだった。



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