我儘な私と甘々な悪魔の恋愛
草木も眠る丑三つ時。王宮の魔術師リアンは、ある禁術に手を出そうとしていた。
悪魔召喚。それは幾つもの国を滅ぼした禁忌であり、恐れ遠ざけていた。
なぜその禁忌に手を出すのか。金か?違う。名誉か?違う。女か?近い。
男。男である。リアンは、王宮に缶詰で魔術の研究をしていた。出会いは無い。
悪魔は対価を与えればどんな願いも叶えてくれるという。リアンは、優しくて甘やかしてくれるデレデレな彼氏が欲しかった。
正直異常なほど男というものに執着している自信はある。きっと、出会いなく長い間研究に没頭していたから気が狂ったのだ。そうに違いない。
魔法陣を描き終わり、汗をかいた額を拭く。
一息付き、見上げれば、窓から差す月明かりが顔を照らす。
もうすぐ。もうすぐだ、私が素敵な彼氏と出会うのは。
リアンは魔法陣に魔力を込め、禁忌を犯した。
魔法陣が発光し、悪魔が姿を現す。彼は、黒髪赤目の美形だった。スラッとした体、スっと通った鼻筋、長い睫毛。
「召喚に応じたのは何時ぶりでしょうか…私を召喚したのは貴方ですか?さぁ、願いを言ってください」
仰々しくそういう悪魔。願いはただ1つ。
「私に、甘々のイケメン彼氏を作って!!」
「ほう、いいでしょう。悪魔サタナキアこと、私がなって差し上げます。対価は貴方の魂だ」
そう言うと、サタナキアはリアンにそっと抱き着く。そしてそのまま、口付けた。
心が奪われたような感覚がした。今ので魂を与えたことになるのだろうか。
しかし、こんなイケメンに口付けされたら、溜まったものじゃなかった。口元に手をもっていって、リアンこと私は頬を真っ赤に染めた。
「真っ赤なリンゴみたいになってしまって。可愛い貴方。名は何と言うのです?」
「リ、リアン」
「あぁ、リアン。甘美な響きです。素敵な貴方の存在に、祝福を」
歯が浮くような台詞を平気でいう悪魔だ。
「貴方のこと、魔界から見ていましたよ。研究熱心で、感心しました。貴方の研究はどれも興味深い。新しい魔術の可能性を感じます」
見てくれてたのか。私の研究なんて…と思っていた所だ。喜びで胸がいっぱいになる。
「魔界から?だから召喚にも応じてくれたの?」
「えぇ。私を召喚するなら貴方だろうと思っていました。偉いですね、よく頑張りました」
悪魔は頭を撫でてくれた。
「ねぇ、甘やかして?」
リアンは上目遣いでお願いした。
サタナキアの口角が上がる。
「勿論、いいですよ。何をお望みです?」
「マッサージして」
「お易い御用です」
ということで、ベッドに移動してマッサージを始めた。温かい手が肌を滑る。程よく強い指圧感で、足や肩のマッサージをしてくれる。
体が温まって、心地よくて眠くなってきた。
「眠りますか?可愛いお姫様」
「うん…眠る。おやすみ、サタナキア」
ふわりと欠伸をして、そのまま私は微睡みの中に沈んでいった。
◈◈◈
起きた。なんだか甘い匂いがする。
リビングに行くと、エプロンを付けたサタナキアがいた。
「おはようございます、眠り姫。アップルパイを焼きましたよ」
「わぁい…丁度甘いもの食べたいなって思ってたの」
卓に付くと、紅茶と一緒にアップルパイが出された。
「材料はどうしたの?」
「買ってきました。お金なら有り余っているので」
「へぇ、サタナキアってお金持ちなんだ」
「有力な悪魔は大抵お金持ちです」
食べると、外はサクサクで、リンゴはジューシー。カスタードの甘みとリンゴのサッパリした味が丁度良くて、とても美味しい。
「口についてますよ、お姫様」
そう言うと、サタナキアはタオルで口の端を拭いてくれる。
食べながら、魔術の話をした。宙に魔法陣を描きながら、研究の説明をする。
「あの魔術はね、この基本的な術式の構成からヒントを得たのよ」
「へぇ、流石はリアン。賢いですね」
「でしょう?こっちは結構力技で完成させたの。計算が面倒だったんだけど、1からやるのが確実かなって」
「そういう時ってありますよね。私もそういうことあります。部下が───」
とても話しやすくて、話が弾んだ。サタナキアは魔術の専門にも詳くて、造詣が深い。
「夕飯も私が作りますから。貴方はゆっくり休んでいてください」
「いいの?甘えちゃおうかな」
サタナキアは私がお願いしたら何でもしてくれる。
「サタナキアがさ、お願いしたら断ることってあるの?」
「無いと思いますよ。貴方が可愛いので。我儘な可愛いお姫様のお願いは、叶えたいんです」
「じゃあ、キスして」
「えぇ」
サタナキアはバードキスをしてくれた。愛を沢山伝えるように、何度も、何度も軽くキスしてくれる。長年独り身で、乾いていた心が満たされた。
◈◈◈
お風呂では、頭を洗ってくれた。お風呂から出れば、髪を乾かしてくれた。寝る時は腕枕をしてくれて、起きたら朝食を作ってくれる。座る時は椅子を引いてくれて、私の事はお姫様と呼ぶ。
この上ないような尽くし性の王子様が、サタナキアだった。
「大好きです。愛していますよ、リアン」
「私も。大好き、サタナキア」
ラブラブな2人の生活は、まだまだ始まったばかりであった。
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