序章
戦闘機&美少女作品少なくないですかね...
<各機、敵爆撃機編隊のお出ましだ>
白く塗られた優美なレシプロ機の編隊、無駄を削ぎ、空力特性を極めた二重反転プロペラの低翼戦闘機「レイカ」が十数機、四発機の大型爆撃機の編隊に向けて上空より群れた狼のように襲いかかった。一条の曇から突如として現われたレイカの襲撃に大型爆撃機の反応は鈍く、まともに迎え撃つこともせず、銃撃によって次々と火を吹いて落ちていく。
<やったぞ、連中ざまぁみろ>
<これだけ撃墜すりゃ、今日は焼き肉だ>
レイカを駆る彼らは大戦果に歓喜した。忌々しい大型爆撃機を撃墜出来たことに酔いしれた。獲物を駆るように一方的な狩りを続ける彼らは気付けなかった、何故爆撃機に1機の護衛機がいないのか。
そして気付いた時にはもう遅かった。
<おい、上に何か―――>
ダダン、1機のパイロットが小さな陰を見つけたと同時に、大口径弾が降り注ぎ瞬く間に火達磨変えた。レイカを撃墜したのは鋭いサメのような機首をした中翼配置の翼を持つレシプロ戦闘機「スカイシャーク」、レイカを圧倒する速度と火力を持っている。
<畜生、罠だったのか!?―――>
<各機、ブレイク、ブレイク>
爆撃機に群がっていたレイカは、すぐさま散開し、反撃に移った。レイカとスカイシャークは入り乱れるように空戦に入っていった。
乱戦より少し離れた場所で、2機の戦闘機が上に青空、下に曇の境界線を舞うように戦っていた。1機のレイカをスカイシャークが背後から追いかけている。
レイカのパイロットはレバーを後ろに傾け、右のラダーペダルを踏み込んだ。桜のマークを描かれたレイカの片翼が曇の海を切り裂きながら迫る曳光弾を躱し切る
そして一瞬の躊躇なくエンジンスロットルを下げきり、再度レバーを後ろに引き込んだ。
このとき、スカイシャークは旋回時の減速分を回復するため、加速したばかりだった。それ故に突然減速したレイカを追い越してしまう。
これをオーバーシュートと言い、僅かな加速でも相手より優速だった場合、追い越してしまうことで起きてしまう。これはドックファイトにおいて致命的なミスとなる。
そのミスをレイカのパイロットは見逃さない、いや作り出したと言えた。
レバーを大きく右に傾け、レイカの上下がクルッと入れ変わった。そしてレバーを引き込むことで機首が下に向き、スカイシャークの方へと向いた。
レイカのパイロットは機首の先にスカイシャークを捉える、そして引き金を引いた――
ダダダッ!ダダダッ!―――レイカの主翼と機首、四挺の機銃が火を吹いた。
レイカの弾丸はサメのような機首のエンジンからコックピットを直線になるように命中する。
そしてレイカとスカイシャークがすれ違った時、スカイシャークのコクピットには鮮血が広がっていた。中のパイロットを撃ち抜いたのだ。
レイカのパイロットは自分が撃ち抜いた敵機を振り返って確認する。スカイシャークは失速し、錐もみしながら曇の中に消えていった。
それを見送ってレイカのパイロットは小さく息を吐いた。
レイカのパイロットは汗ばんで頬に張り付いた濃紺色の髪をのける。細く繊細なくびれと硬くとも本来の柔らかさを感じさせる手、ふっくらとしたラインに輪郭、桜の優しく落ち着く匂い。
桜のマークが描かれたレイカのパイロット、いまだ幼さの残る美少女だった。
『全機に通達、現空域の勝敗は喫した。戦闘行為は終了、帰還せよ......』
無線が流れる。他のレイカはどうなったのだろうか、少女は先ほどまで味方が戦っていた空域を眺める。そこには悠々と帰途に就く四発の大型爆撃機とスカイシャークの機影しか確認できなかった。
どうやら他のレイカは少女のを除き全機撃墜されたようだった。
ああ、また私だけ生き残ってしまった。少女は眉を顰め下唇を噛む。これで何度目の味方の全滅だろうか、少女が飛ぶ戦場ではいつも味方が死んでいく。そして時には今のように少女を除いて全滅してしまう。対して少女はいつも生き残る。
自身の戦闘機レイカに描かれた桜のマーク、桜のように儚く咲いて舞って散る。整備士達がそうあるように望んで少女の機体に勝手に描いたもの。少女はこれを呪いだと思っている。いつも一人だけ生き残る少女に死んで欲しいと言っているのだと、けれどまた少女は一人生き残ってしまった。
いつまでこの呪いを背負い続ければ良いのだろうか、そしていつ許されるのだろう、全身を雁字搦めにされているような苦しみに耐えながら、少女は帰還の途に着いた。