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HERO・HOPING  作者: 川野シャケ
7/7

第7話「新生活」

「はーいセンセ、あーん」

「ん……」

「恭子さんこっちも食べてください!」

「ん……ふむ……」


 地下にある診察室で病院の先生と向き合っている、というこの状況。地下という点を除けばごく普通の光景だが、なぜかその先生は周りの人にスイーツをフォークで差し出されては食べ、また差し出されては食べ……。


 ショートケーキにカステラに……。そして空いた手では、モニターを見ながらキーボードをカタカタ打っていた。


「あの……エジン病って――」

「みんなありがとう。とても美味だったのでこの調子で励んでほしい」

「はい!ありがとうございました!」


 スイーツ組はきれいにそろった一礼をして、足早に部屋を出て行った。


「……さて、悪いが私の方から質問させてもらおう。改めて聞くが、どんな異能を持っている?」

「異能?……ああ、火とか爆発とか、です」

「ほう。では、異能に苦しめられたことがない、というのは本当か?」

「それも、はい、そうです」

「ああそうだ、君の名前を聞くのを忘れていたな。教えてほしい」

「紅坂蓮です」

「蓮……そうか……」

 

 グイグイと勢いある質問ラッシュをしたかと思えば、蓮の答えを一通り聞いたあとは思いつめるように黙り込んでしまった。


「……」

「……えーっと……」

「ああ、すまない。君の質問がまだだったな」


 なんだか質問の内容と言い勢いと言い、怪しいところ満点な気もするが蓮はそこまで気にしていなかった。


 さっきから気になっている『エジン病』という得体のしれないものについて知りたくてしょうがなかったのだ。


 ……と、いうことでここからは分かりやすいように、蓮の質問内容をQ&A方式でお送りしよう。題して……。



 『おしえて!キョーコせんせいのコーナー!』



 Q.エジン病とは?

 A.現代科学では証明できないような特殊能力が身に付き、それが制御できず苦しめられてしまう病気だ。さっきの少女……フローゼがその一例だな。我々はその力を『異能』と呼んでいる。


 Q.『エジン』の名の由来は?

 A.とある話が元になっている。大昔、それぞれが拮抗していたとある三国の王がより強大な力を求めて三神物というものに手を出し、結果として神の力に溺れ自壊した。取り残された三国の民は彼らを『えじん』と呼び、二度と悲劇を繰り返さないよう三神物を神の元に封印した。……三神物は実在するという噂もあるが、まあオカルト話が膨らんで生まれたものだろう。


 Q.治す方法は?

 A.確実な治療方法は確立されていないが、精神的な問題が異能の制御に深く関与していると考えられている。実際、エジン病を克服できた何名かは自分の異能を『受け入れる』ことで制御に成功している。そのため精神的負担の減少が見受けられる、患者ごとに有効そうな治療方法を1つ1つ試している、というのが現状だ。


 Q.いつからこの病棟で活動を?

 A.大体9年前くらいだ。この病院の建て替えと一緒にこの地下病棟を作り、そこから研究と治療を始めた。


 Q.病院の地下と言えば霊安室では?

 A.霊安室はここより下だ。専用のエレベーターと階段のみで行けるようになっている。

 

 Q.ところでいつまでやるんだ?このなんたらコーナー……。





 「――あ、すいません。もう大丈夫です、お付き合いいただきありがとうございました」


 恭子が呆れたように大きな溜息を吐き、そこでこの流れは終了した。


「……そうだ、1つ提案がある。異能に悩まされたことがないと言っていたな……実に興味深い。君さえよければ新たな治療法開拓のため検査を受けてもらいたいんだ」


 それを聞いた蓮は自分が役に立てるならと、二つ返事で快諾した。


 ◇


 この西空総合病院には隣接して宿泊棟が建てられており、行き来できる屋内通路が設けられている。長期入院中の患者の親族や病院関係者などが住める部屋が用意されており、建物の構造や部屋のレイアウトはマンションに近い。


 定期的に検査をしたいのでしばらくここに泊まってほしい、とのことだ。


「あいにく地下病室は満席でな。まあそもそも健康な人間を患者扱いしたくないというのもあるが……」


 通路をトコトコ歩いて宿泊棟に着くと、道中でイヤホンを耳につけた男が壁にもたれかかっていた。

 

 明るい茶髪やアロハシャツ、サンダルなんかをみるとどうもチャラそうに見える。

 

「お、今来た待ってたやっと来た!恭子さーん、新人くーん!」

「新人……?なぜ異能者と分かった……ああ、『夢』か」

「そのとーり☆」


 突然現れては初対面と思えないほど親しそうに手を振りながら声かけをしてきた男を前に、ただ唖然とする蓮。


「あの……誰ですか、この人?」

「淵屋透〈フチヤ トオル〉。宿泊棟で暮らす、異能者であり私の協力者だ。異能の詳細は――」

「おっと恭子さん!異能をむやみに教えるのはだめだって言ったのは恭子さんだぜ!?」

 

 それを聞いた恭子が何かを言いかけた瞬間、突然『ピピピッ』と小さなアラームが妨害した。音の出所は恭子が着けた腕時計の音である。


「おっとすまない、やらなければいけないことがあるのを忘れていた。透、あとはまかせた」

「りょーかい!ついてこい新人君!」


 恭子と別れ、次は透の後をついていくことにした。が、透は蓮のことなどお構いなしと言わんばかりに、自分のペースでどんどん走って行ってしまう。


「え、ちょ、待ってくださいよ!」


 急いで追っていくと、『205』と書かれたプレートがついているドアを指さしながら通路の真ん中で堂々と立っていた。


「こ、こ、が、新人君の部屋ね。オレ隣だから、わかんないことあったら気軽にどーぞ☆じゃねー」


 そう言って透は『206』の扉の先へ消えていき、蓮は静寂とともに取り残された。


「なんなんだあの人……」


 とりあえず、まずは自分の新しい生活部屋を見てみることにした。事前に渡されたカギで扉を開けると玄関の時点で驚くことがあった。


「もう既に分かる……俺の家の上位互換だここ!」


 蓮が住んでいるところは年季の入った2DKだが、ここは3LDK……さらにあらゆる備え付けの設備が最新もので、しばらくここにただで住めると思うともはや罪悪感が沸きそうだった。


 生活していた痕跡がないのでしばらく人は住んでいないようだが、隅々まできれいにされている。蓮は感動すら覚える。


 あとでゲーム機をもってこよう、部屋はそれぞれどう使おう、などと洋室の扉を見ながら考えていると突然ノック音が玄関から鳴り響いた。


「新人くーん!いまから院内の食堂に行かなーい!?あそこのから揚げがおいしくてさー!」


 から揚げと聞いて食欲が刺激された蓮は、誘われるがまま扉を開け食堂へ向かった。


 ◇


「透さん、ここの飯うまいっすね!ところで一般人が使っていいんですかここ?」

「ああ!気にするな!」


 艶のある白飯もわかめたっぷりの味噌汁も、新鮮な千切りキャベツもカリッカリの揚げたてから揚げも、すべてが美味。箸が進む進む。


「次はマ〇オカートしようぜ!」


 完食して透の部屋へ行くと、テレビの前ではすでに知らない二人がコントローラーを握り締めて待っていた。


「おお、結構うまいな!」

「フッ、ひたすらネットの猛者どもと競り合ってきた甲斐があったってもんですよ!」


 夢中になっているといつの間にか太陽が落ち、月が顔を見せていた。


「今日はこんなところかな、よーし解散!」


 ゲームを遊びつくしたあと、蓮は自室へ戻った。そしてサッとシャワーを浴び、崩れ落ちるようにベッドへ倒れこんだ。


「……あー……ベッドもふかふか一級品……」


 今日はいろいろあったが、みんなとは楽しくやっていけそうだと思いながら目をゆっくり瞑る。












「いやあの二人誰?!!」


 ◇


 草木も眠りにつく夜更け、西空市内は静寂に包まれている。


 主人公の蓮も今は熟睡。抱いた疑問も眠気が来るとどうでもよくなっていた。


 少し耳をすませばどこかで足音。意思をもってというよりかは誰かに命令を受けて『そこ』に来た、という感じの足取り。


 またどこかから『ヒュッ』と音が鳴れば、その足音は途端に消え去ってしまった。


「……第一ミッション、完了。日が昇った後、第二ミッションを開始する」

ベッドは苦手です

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