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HERO・HOPING  作者: 川野シャケ
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第6話「その力、病につき」

 蓮はふと思った。2日連続で能力者に出会っていることは偶然なのか、と。


『〜同士はひかれ合う』という言葉があるように、運命であったり引力があったりするのではないだろうか。


 そして、出会った2人はどちらも悪事を働いており、泥山に関しては『数年前からやっている』と自分ではっきり言っていた。


 おそらく、能力を使っていることで一般人では気づけない、もしくは気づいても理解が及ばず究明にまで至らないのだろう。


「……でも、俺ならそういうやつらをぶっ飛ばせる!悪を裁くのは正義、つまり『ヒーロー』だ!」


 となればこうしてはいられない。悪を懲らしめるため、蓮は外へ駆けだした。

 

「GPO隊員になる必要なんてねぇ!俺は今日から『悪い能力者専門のヒーロー』を目指すぜ!」

 

 ◇


「この前の感じだと、てきとーに歩いてても会えるだろ」


 目的地もなく、ただブラブラと散歩を続けた。


 綺麗な青空と穏やかな風で平和を感じるが、目で見えないところでは何かが起こっているかもしれない。


 しばらく歩くと道の隅っこで白いワンピース姿の少女がうずくまっている。


「……まあ、戦うだけがヒーローじゃないしな」


 蓮は少し不服そうにその少女に駆け寄った。


 近づくことで分かったが、長い髪は触れずとも見てわかるほどサラサラでワンピースはとても上品な生地だった。


「君、大丈夫?具合でも悪いの?」

「……さむい……さむいの……」


 少女は寒気を訴え、微かに震えていた。


「風邪?……ここからだと上木医院が近いかな」

「ダメ……西空のおっきい病院じゃないと……あの先生じゃないと……」


 どうやらただの風邪なんかではなく、もっと重篤なもののようだ。


「こっからなら歩いて行けると思うけど……立てる?」


 そういって蓮は少女の手にそっと触れた。


「――冷たっ!?」

「ああっいけないわ!わたしに触らないで!」

 

 その冷たさは冷え性の次元ではなく、もはや氷レベル。


「手……それ……」

「……わたし、ずっと前からこうなの……体がどこも冷たくなっちゃう『病気』なの。これのせいでみんなに指さされて『雪女』って笑われて、だれも触れてくれなくなって……今日は元気だから大丈夫だと思って退屈な病室を抜け出したのに……わたしもういや……」


 辛さが口からこぼれるたび、目にどんどん涙が浮かんでくる。それを見かねた蓮はぎゅっと少女の手を掴んだ。


「ッだめ!冷たいわ!」

「大丈夫!実は俺も君と同じ……そう、病気を持ってるんだ!火が出る病気!そのせいで体が熱くってさ、こうしてるとちょうどいいくらいだよ!」


 大嘘である。真冬の風をいっぱいに受けたドアノブをずっと握っている感じだ。正直なところ、もう手の感覚が失われてきている。


「……ほんとう?……ふふっ嬉しいわ……こんなに人に触れられたの、久しぶり……」


 しかし少女の表情が少し明るくなったので良しとした。

 

「じゃあ行こっか。西空総合病院、でいいんだよね?」


 少女はコクリとうなずき、蓮は到着までの時間を耐えきるため覚悟を決めて歩き出した。


 

 ――能力者に出会えたことで、引力のようなものがあることを蓮は確信した。しかしそれ以上に、気になることがある。


 この少女は(おそらく)能力のことを『病気』といった。病院の先生にそう教えられたのだろう。


 蓮自身はこの能力を『不思議だけど便利で素晴らしい力』程度に思っていたために違和感があったのだ。


 確かめなければならないだろう。少女が言う先生とやらに会って。


 ◇


「や、やっと着いた……」

 

 相変わらず蓮の手は凍えていたが、歩いているうちに少女の手は少しずつ温かさを取り戻していた。蓮の体温によるものか、それとも……。


「うふふふ、やっぱりお散歩って楽しいわ」

 

 心の平穏を取り戻したが故か。


 病院の自動ドアを通ると、すぐ近くのカウンター前でスーツ姿の老紳士と女医が話をしていた。


 そして老紳士は少女に気づくなり、飛び込むように駆け寄ってきた。


「フローゼお嬢様!」

「じいや!」


 蓮は合点がいった。この子はどこかのお金持ちの娘で、この老人は執事だ。


「あぁ、勝手に病室を抜け出すなど……爺はとても心配しました」

「……ごめんなさい……でも、親切なお兄さんが助けてくれたのよ」


 執事はこちらを向き、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます、なんとお礼を申し上げてよいやら……」

「いえいえ、お気持ちだけで結構ですから!」


 あまりの腰の低さに圧倒されていると、女医も向こうからゆっくり歩いてきた。


 白衣によって引き立つ真紅に染まったロングパーマの美しさと、鋭い目つきから放たれた一瞥のダブルパンチ。蓮はついドキッとしてしまった。


「外にいた間寒くならなかったか?……大丈夫そうだな。外に出たい気持ちはわかるが、病気を治すことが先決だ。病室へ戻ろう」

「……はーい、先生」


 女医が不服な少女の手を取り、歩いていきそうだったので蓮は急いで呼び止めるため口を開いた。聞かなければならないことがある。


「待って――」

 

 言い切る前に、女医は振り向かず手をくいっと動かし『こっちへ』とジェスチャーした。


 蓮が招かれるままついて行くとその先はエレベーターで、乗り込むと女医は最初にドアを閉め、次にめちゃくちゃにボタンを押しはじめた。

 

「君も覚えておくといい。閉じてから1321閉閉1、だ」


『地下1階へまいります』


 自動音声とともにエレベーターが動き出した。しかし『B1』というボタンはないし、階層の案内表にもそれらしきことは描かれていない。


 そもそも病院の地下と言えば『霊安室』ではないだろうか。いったいどこへ向かっているのだろう。


「……この子に数秒でも触れると凍傷になってしまう……普通はな」


 女医が言っていることが本当だとすれば、蓮が嘘のつもりで言っていた『病気(能力)の影響で冷たくない』というのはあながち間違いではなかったのかもしれない。

 

 体温が高い、などの恩恵があると蓮は考えた。


「病気……なんですか?これって……」


 そう言いながら手に火をともすと少女は目をキラキラさせながらそれを見つめていた。対して女医は『ふむ』といった感じで関心があるように見ていた。


「ああ、自分自身を苦しめる病気だ。今は制御できているようにみえるが、君もそんな経験があるだろう?」

「いや、ないですけど……?」

「なに?」


『地下1階です』


 到着すると女医は怪訝そうにしながらエレベーターを降り、蓮もそれについて行った。


「あ、恭子さん!」

「恭子先生!」

「センセやっと戻ってきたー!」

 

 エレベーターの前には複数の若い男女が出待ちのように立っていた。みんな共通点があり、それはエプロンを着ていることと菓子の乗った皿を持っていることだ。


「え、え、え?どういう状況?」


 今まで理解の及ばないことは何回かあったが、今回はまた別だ。能力によるものとかではなく、シンプルによく分からない。


「まあお互い聞きたいことはあるだろうが……とりあえずようこそ、私の『エジン病専門病棟』へ」

今回は本文が短めなので、その代わりに一部の登場人物について簡単な説明をここに置いておきます。そんなん興味ねーよって人はごめんなさい。


蒲田 雄大〈カマタ ユウダイ〉(27) 2話で登場。GPO隊員は上からACE級、FIRST級、SECOND級、THIRD級と4つの階級に分かれており、彼はその中でSECOND級に当たります。蓮に野次を飛ばした三人組は大切な後輩です。大切なら教育はちゃんとしてもらいたいものですね。


霧雨嵓波〈キリサメ クラハ〉(29) 3話で登場。GPOの最高戦力であるACE級隊員の一人。


泥山 房也〈ドロヤマ ボウヤ〉(50) 4話で登場。能力:軟体(体を粘土のように柔らかくし、狭い隙間などを通れる。うまく制御できておらず、勝手に隙間へ入ってしまう)

スーパーに住み着く前は普通に働いていたらしい。床下のネズミとは長い付き合いで仲良し。蓮に物音で二択を迫った時も、もしかしたら協力してあげてたのかも。


清水潤也〈シミズ ジュンヤ〉(22)5話で登場。「ウルカ」という名で配信活動をしている。能力:湿潤軟化(濡れているところ限定で、水を使用して柔らかくすることができる。地続きなら一部分のみを柔らかくすることも可能。ただし体の一部が触れてなければならない)

怪しまれないよう立った状態で地面を柔らかくするため、靴底に穴をあけてかかとの先端が常に地面と接触できるようにしている。雨の日にその靴でずっと外に立っているので足が冷え性。

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