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HERO・HOPING  作者: 川野シャケ
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第5話「ビンボー配信者」

「……はは……ふふっ、あはは……」


 スマホと睨めあいながら笑い続ける蓮。遠目から見るとその光景はどこか不審さを思わせる。


 しかし意味もなく笑っているのワケではなかった。


「やっぱ『ウルカ』面白いなー」


 蓮は配信を見ていたのだ。ウルカという名で活動している男性配信者を。


 ワイプに映る『染めた金髪、派手なピアス、三白眼』のガラ悪三拍子。


 その男の親しみやすい雰囲気とたまに出るくず発言や暴言が蓮のツボを程よく刺激するらしい。


『じゃ、今回はこの辺にしておきたいと思いまっす!お疲れさんした!』


 配信が終わり、満足した蓮は背伸びしながら時計を見た。


「え、もうこんな時間!?動画見てるだけで半日くらい過ぎちゃったよ……」


 時は既に16時。相変わらずスッカラカンの冷蔵庫を埋めるため出かけなければならない。


 朝から降り続いていた雨は既に止んでいたが、地面はどこもびちょびちょ。


 気乗りしないが空腹状態で一晩過ごすよりは何倍もましだ、と気持ちを切り替えてスニーカーの靴ひもを締めた。


 ◇


「――ん?こんなとこに自販機あったっけ?」


 家を出て数分、よく通る道にいつの間にか自動販売機が設置されていた。なんとなくラインナップが気になったので左上からサラーっと見てみることにした。


「フンフン……フン!?『コンポタサイダー』!?すっげぇ気になる!」


 右下に奇妙な缶ジュースが置かれていた。100円で買えるようだがいったいどんな味なのだろうか。


 蓮は財布内の残高を気にすることもなく、いそいそと小銭を取り出した。


 しかしその急ぎが災いし、100円玉をポロっと落としてしまう。


「ありゃ……えっ?」


 地面に落ちた100円玉は『チャリーン』と音を鳴らしてコンクリートに弾かれることなく、静かにズブズブと沈んでいった。


「えっえっえ!?何これナニコレ!?」


 拾い上げようとするも、手を伸ばしたころには完全に沈んでしまっていた。


 さっきまで泥みたいにお金を飲み込んでいた地面だが、今は手で触ってもカッチカチ。何の変哲もないコンクリートだ。


「え~……どうしようかな~っと……」


 右を向いて、左を向いて、人の気配なし。


 お金が沈んだところに人差し指を押し当てて力を集中し、強めの爆発を起こした。


 すると蓮の狙い通り、コンクリートが砕かれ100円玉が顔を見せた。


「なんだったのか知らんがこれでオッケー!」


 100円を拾い、流れでそのまま投入口に手を近づけた。


「ちょっとまて~い!」


 突然レインコート姿の男が現れ、蓮を引き留めた。


 だるんだるんのフードを被っていて顔は口元しか見えない。


「その100円は俺っちのもんだ!返せ!」

「……え?いやいや俺のだけど」

「1回地面に埋まっただろ?だからそれは俺っちの所有物だ!掘り返すなよ!」

「ンだよその自分ルールは!?知らねーよ!」


 その男は理不尽な言い分で絡んできた。


  イラっとした蓮はレインコート男を無視し、投入口から遠ざけてしまった手をまた近づけようとした。


「フンッ」

「あっ」


 上から手を叩かれ、再び100円玉がズブズブ。


 睨みつけるようにレインコート男に振り返ると、煽るようにニヤついた口を見せつけていた。


「あーららw」

「……」


 さらにムカついた蓮は無言かつ予備動作なしで顔に向けて手を素早く近づけ、火を出した。


「あ゛っち゛ゃ~!?」


 フードの内側に燃え移ったようで、男はパタパタ叩きつつフードを勢いよくはずした。


「大袈裟なやつだな……え?」


 出てきた顔はよく見知ったものだった。そのガラの悪そうな顔……。


「……もしかしてウルカ!?」

「あちち……なに俺の事知ってんの?」


 蓮はショックを受けた。気に入ってる配信者がこんなことをしている事実と、『俺っち』とかいう痛い一人称を日常的に使っていることに。


「うわあ失望したわ……もう見るの止めよ」

「配信業だけじゃ食っていけねーんだよ!」


 呆れて大きな溜息を出してから、また同じように100円を取り出すため人差し指を立てたその時だった。


「やりっぱなしで無事に帰れると思うなよっ!」


 突然足元のコンクリートが柔らかくなり、蓮自身も100円のように沈んでしまった。


「な、何ッー!?」


 急いで抜け出そうとするもすぐに硬さを取り戻していき、膝下あたりまで沈んだ状態で足が固定されてしまって身動きが取れない。


「どーよ俺っちの能力の具合は!」

「うすうすそんな気はしてたけど、やっぱりこれお前の能力か!」


 必死に藻掻くがピクリともしない。足が地面と一体化しているかのようだ。


「さーてと、いまのうちに……」


 やらしく手を擦りながらウルカがゆっくり歩いてくる。


「ま、まずい!」


 蓮は急いで抜け出す方法を考えた。


 足の爆発?買ったばかりの靴がダメになる。力ずくで足を抜く?皮がズルズル剥けそうだからなし。


 あれやこれやと考えているうちに、1つ有効策を閃いたようで突然ポケットに手を突っ込んだ。


「あーなんか脱出方法ないかなー、あっ、手が滑って小銭落としちゃったー」


 10数枚の小銭をジャラジャラと、わざと落とした。するとウルカは目の色を変え、地面を柔らかくした。


 それにより小銭は沈んでしまったが蓮は右足、左足と地面から抜き、見事脱出。


「あ、しまった!つい癖でぇ!!」

「へっバカがよぉ!この金の亡者が!」


 ウルカは後悔で頭をかきむしった。


「……くそぅ、ぜってぇ……逃がさねぇ!」


 またまた地面が柔らかくなった。しかしすでに警戒していた蓮は、足の感覚が変わった瞬間にバックステップで回避成功。


「二度も食らうかよ!」


 しかし回避した先の着地点も次第に柔らかくなっていき、再び蓮を飲み込もうとした。


 「ッ範囲が広がっていってるのか!?」


 どんどん地面が柔らかくなるのにつれて蓮も逃げるように遠ざかっていった。


「へへ、俺っちの能力からは逃げられねぇぜ」


 10mほど離れたところで、蓮は180°くるっと方向転換し近くの塀に飛び乗った。


 そして拳を握りしめウルカに向かって猛ダッシュ。


「なにぃ!?」


 拳を振り上げ今にもぶっ飛ばせる、というところでウルカの表情が驚きから笑いに変わっていった。


「うわっ!?」


 塀が地面と同じように柔らかくなり、蓮はバランスを崩してしまった。


「地面だけじゃないのか!?」


 このままでは地面に到達してしまう、と近くの塀の向こうにあった木の枝を掴んだが無情にも枝はどんどんしなっていく。


「このままじゃ……くそ、緊急脱出だ!」


 靴を脱ぎ、地面すれすれのところで足の裏から爆発を起こし何メートルも後方へ吹っ飛んだ。九死に一生を得たがスニーカーは地面に飲まれてしまった。


「お、いい靴ゲット~♪」


 このまま逃げてもいいはずだが、蓮の頭は小銭とスニーカーを取り戻すことでいっぱいいっぱい。


「……そうだ、能力をよく観察するんだ……」


 相手の能力は地面が変化する能力。どこかに影響があるはずだとじっくり見渡した。


「あれだ!あの『境目』!」


 ウルカから蓮までの間で、途中までは水気が完全に切れているところがある。


「……そうか分かったぞ!『水』だ!クッキー生地に水をしみこませるような感じで、地面を柔らかくしてるんだ!それがあいつの能力!」


 蓮は境目まで歩いていき、足を最大火力の炎で包みながら一歩踏み出した。


 少しだけ沈んでしまうが、数㎜沈んだところで乾燥された地面が固まる。


「きた!」


 対処法が分かるとゆっくり歩き出した。


 一方ウルカの方はのんきに沈めた小銭をかき集めていた。


「フンフ~ン、フフ……っておい!普通に歩いてきちまってるじゃねーか!?」


 蓮が向かってきているのを見るや否や、集めた分だけポケットにしまってそそくさと逃げ出そうとした。


「くそっこのままじゃ逃げられる!これ以上速く歩いたら乾燥が間に合わないだろうし……」


 一か八かで地面の中に手を突っ込んみ、中を探った。他にも落とし物を沈めている可能性にかけて。


「……ヒット!て何これ、折り畳み傘!?まあいい!」


 よ~く狙いをつけ、思いっきりぶん投げた。


 傘はきれいな放物線を描いたあと、見事ウルカの頭にクリティカルヒット。後頭部を抑えながらうずくまった。


 それと同時に意識がそれたためか、地面の固さが元通りになった。


 今がチャンスとばかりに走り、蓮はついにレインコートの端を掴んだ。


「や、やめっ……ウグッ」


 まずは一発と軽く腹パン。


「これ以上やられたくなかったら……わかるよな?」


 しっかり握ったこぶし見せつけて、すごくいい笑顔である。


「は、はいぃ……!」

 

 ポケットから小銭を出し、沈んだままの物も高速で拾って蓮に渡した。


「……後始末も」


 ウルカの体がビクッと跳ね、崩れた塀に猛ダッシュ。手でペタペタと塀を、次に足跡のついた地面をペタペタと元通りに直した。


「そ、それじゃこれで!すいませんでしたぁ!」


 そのままウルカはとてつもない速度で逃げていった。


「……あいつ配信やめて石工にでもなった方がいいんじゃねーの」


 ひと悶着あったが、無事に蓮は『コンポタサイダー』を購入することができた。


「ま、失うもんなし、得たいもの得たしで完勝だな」


 腰に手を当て、グイっと一気に飲み物を口に流し込んだ。


「ぶはぁ、ゲロマズゥ!!」

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