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ポケットダンジョン放浪記  作者: 芋窪 Q作
第1章 旅の始まり
5/25

5話

 不思議な果実は味噌に付けるともろきゅうになった。

 味だけでなく食感まで。


 試しに味噌を付けないで食べてみたら、元のポークチョップ味だった。


 ワケわからんが、異世界のことなので考えるだけ無駄だ。そういうものだと思っておこう。

 それに、食のバリエーションが増えるのは素直に嬉しいし。


 もろきゅうとポークチョップを堪能して、夕食を済ませ、その後、もう一度風呂に入ってから、早めの就寝。明日も歩くからな。

 



 ダンジョンを出て、待ち合わせ場所の宿屋の前まで行ったら、婆さんが既に待っていた。

 どうやら寝坊したらしい。


「すまん、寝坊した」


 謝りつつ駆け寄る。


「別ないいさ。昨日は歩きっぱなしだったろうし。それよりも出発前に雑貨屋に付き合っとくれ。買いたいものがある」

 

 言って婆さんがすたすたと歩き出す。

 

「それは別に構わんが、なにがほしいんだ」

 

「お前さん、昨日はどこで寝たんじゃ?」


 オレの疑問に答えず、ニヒヒと笑いながらこんなことを聞いてくる。


「なるほど。婆さん、今晩はログハウスに泊まる気だな?」


「ひぇっひえっ、安く済ませるのが旅のコツってもんさ。あそこは危険も無いし、何より騒がしくない」


 宿屋は煩かったのかな?


「別に構わないが、宿泊料は取るぞ?」


「そら当然さね。でも、専門の施設じゃ無いんだけら、おまけしとくれ」


「ちゃっかりしてんなぁ」


 話ながら歩いてるとすぐ雑貨屋に着いた。

 中には服や寝具、工具や農具、それと干し肉や乾物などの保存食が並んでいる。

 驚いたことに本やボードゲームみたいのまであった。

 本を手に取りパラパラ覗くと、しっかり活字印刷されている。

 服も新品と中古品が半々ぐらいの割合で並んでいた。


 思ったよりも工業化が進んでいるのだろうか?


 等と考えてたら、買い物を済ませた婆さんが荷物を押し付けてきた。

 荷物を受け取り店をでる。


「すぐ中には入れんのじゃろ?」


 村の出口に向かい歩いてる最中、婆さんが聞いてきた。


「ああ。なるべくギフトのことは教えない方が良いらしいからな」


「その割には、わしには簡単に教えたのお?」


「それはオレが楽したかったからだ。婆さん足遅すぎて、ちゃんと着くか不安だったしな」


「ひぇっひえっ、年寄りの護衛なんてそんなもんじゃあ、諦めなせえ」




 村を出て人気が無くなった辺りで婆さんと”ログハウスのダンジョン”に入った。

 婆さんは、雑貨屋で買った毛布を床に敷き、その上に座り込んで、同じく雑貨屋で買った本を読み始める。

 暇潰し対策もバッチリな様だ。

 最初の印象とは違うちゃっかりぶりに苦笑しつつ、オレはダンジョンをでた。


 さて、今日も歩きますかねぇ。




 昨日と似たような風景の中を歩き続ける。

 街道に沿って歩いてるので基本迷うことはないが、たまにある分けれ道では、婆さんに出てきて貰って道を確認してもらう。

 そんなことを繰り返しながら、大陽が中天に届いた頃、どこからか人を呼ぶような声が聞こえてきた。


『おーい、おーい』


 立ち止まって辺りを見回す、

 しかし、だだっ広い草原が広がるばかりで、人影は見あたらない。


『おーい、おーい』


 物凄く遠くから声をかけられてる感じなのに、やたらくっきり聞こえる。


 これはもしかして、と思いダンジョンに入ると婆さんが出入口の前に立っていた。


「良かったよお、ちゃんと声が届いて」


「やっぱり婆さんだったのか。人気の無い街道でいきなり呼び声か聞こえてきたからびっくりしたぞ」


「それは済まんの。飯を作ったんじゃが外への出方がわからんかったんじゃ」


「出方が分からない? このもやもやした所からでられなかったのか? 昨日も一緒にでたろ?」


 と、背後のもやもやを指差す。


「そのもやもやが無かったから困っとったんじゃ」


 もやもやが無い? もしかしたら、オレが居ないと出入り出来ないのか?


「なるほど。そいつは済まなかった。オレもこのもやもやが消えるなんて知らなかったんだ」


「いいさいいさ、ちゃんと聞こえたみたいだし。せっかく作った昼飯も無駄にせずに済んだ。ほらほら冷める前に食べちまおう」


 せかす婆さんに腕を引かれログハウスに入ると、仄かにハーブの香りが漂ってきた。

 テーブルの上には皿とスプーンが並び、真ん中の大皿にはパンが積まれている。

 言われるがままに席に座ると、婆さんはキッチンへと向かい、そこからまだ湯気の昇る鍋を持ってきた。


「乾物ばかりのスープだけどね、味は悪くないから遠慮せず食べな」


 薄い黄金色のスープの中には、薄く切られたキノコの他に、緑や黄色の謎の野菜や細かく切られたブロック状の何かが沈んでいる。


「婆さんが作ったのか? 鍋とか食器とか、雑貨屋では買ってなかったろ?」


「お前さん、ここの中あんまり見てないじゃろ? 食材以外みんな揃ってたよ。そんなことより、ほら、冷める前に食べな」

 

 勧められるがままにスープを一口啜る。見た目より濃い味付けに少し驚いたが、味は決して悪くはない。

 キノコと玉ねぎみたいなもの、ブロック状の細かい塊は干し肉かな? 


「うん、旨い!」


「そうだろう、そうだろう。料理はちょっと自信あるんじゃ」


 そう言って破顔する婆さん。実に楽しげな笑顔である。

 オレは大皿に手を伸ばし、パンを1つ取る。

 掴んだパンの感触はやたらに固い。


「保存が効くように固く焼き締められてるからの。そのままだと食べづらいから、スープで柔らかくしてから食べるといい」


 言われた通り試してみると、味の濃いスープが染み込んでちょうどいい案配になった。

 なるほど、スープの味が濃い目なのはこういう理由か。


 のんびり食事をしながら、オレはこの世界のことを聞いてみた。

 あまりにも知識が無さすぎて、この先、仕事を始めたとき、トラブルを巻き込まれ無いようにするためだ。


 婆さん曰く、今いるこの国はゲーア大陸の西にあるカタテリアという王国で、立憲君主制の国らしい。

 王様は居るが、政治は議員がやるという、日本と似たようなシステムだな。


 国王の名前はヨイドレーヌ三世。

 冗談かと思ったが本当らしい。

 絶対に会わない様にしよう。

 面前で名乗られたら笑いを堪えられそうにない。


 ミランダの言葉から、魔法があるのは知っていたが、修得難易度が高く、また、金もかかるので、使える者はそんなにいないそうだ。

 ギフトの方が手軽で便利ってことかもしれない。

 科学文明は、それなりに発達しており、

魔導蒸気機関を使った大量生産も始まっていて、驚いたごとに魔導蒸気機関を搭載した自動車なんかもあるらしい。

 まぁ、高額過ぎて、買えるのは貴族か豪商くらいらしいのだが。

 元の世界でドライブが好きだったオレ的には、ぜひ試してみたかったが、庶民に買えるような物では無いらしい。残念。

 そうそう、ずっと聞きそびれてたのだが、この婆さんの名前はナコルトと言うらしい。

 コトクサの街で薬屋を営んでいて、半年に一度、ザボンの村──

 オレがこの世界に放り出された村に、薬草採集を兼ねて行商に行くそうだ。

 

 しかし……思ったより文明が進んでるなぁ……


「なんじゃ、残念そうに」


 婆さんが怪訝な表情で聞いてくる。


「や、もっと遅れてたら、オレの世界の知識で商売が出来るかもって思ってたから」


 車まであるなら、オレのギフトの優位性もそこまで高く無いよなぁ……

 オレの場合、移動は基本徒歩だし。

 安全性も、ダンジョンに入ってる連中は問題ないが、外を歩くオレの安全は担保されないし。

 あまり都会に行くより、多少不便な所を拠点にした方が良いかもしれないなぁ。


「ここを改装して宿屋でもやればどうじゃ? 土地に依存しないから、固定資産税もかからんぞ? いつでも移動できるしの」


 確かにそれは一理あるが、未だに一文無しなので、改装費がない。

 オレが移動してる間の客のケアとか考えると、従業員も雇わなきゃならないだろうし。


「まぁ、そうだな。いろいろ考えてみるよ」


 言って席を立ち、ダンジョンの外に出た。

 長めの昼食だったので、少し急ごう。次の宿場町にも日が暮れる前に入りたいし。

お読みくださりありがとうございます。

婆さんはヒロインではありません。


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