11話
ご無沙汰しております。
リハビリ作品終わらせてから再開を目論んでおりましたが、そっちはそっちで長引きそうなので同時進行させることに致しました。
意地でもエタりません。
残ってる読者の皆様、よろしくお願いしましす。
埃っぽい階段を下った先に、飾り気のない金属製の扉があった。
扉は大きく湾曲し外れかけていて、既にその役目を果たしていない。
「ミアータ爺さんの所と一緒か……」
オレは歪んだ扉の脇を抜け、室内へと踏み込んだ。
室内はミアータ爺さんの所で見た物と大差ない、なんだかよく分からない機器が並んでおり、やはり大きな水槽があった。恐らく、この中でベスは造られたのだろう。
空の水槽を通り抜けた先に、その男は居た。
白衣を着た初老の男。恐らくこの男がカルトアだろう。
「あの―――」
それは声をかけた瞬間に起こった。男の全身から黒い闇が噴き出しオレへと迫ってきたのだ。
避ける暇は無い。と言うか、オレの運動神経は人並みなので、そもそも格闘家やアスリートの様な身のこなしは無理。
キャリイの叫び声を最後に、オレは意識を手放したのだった。
◇◇◇
目を開けると、そこには薄暗い天井が見えた。
背中の感触から布団の上に寝かされてるのが分かる。
「……無事だった……のか?」
全身にだるさが残っているものの、昨日、街の住人の霊に襲われたとき程の虚脱感は無かった。
ふと、誰かが視界を塞ぐ。
「具合はどうですか……?」
遮った影は、不安げにのぞき込むキャリイだった。
「んあ……大丈夫。ちょっとだるいくらいで問題は無い。それより、オレはどうなったんだ?」
『(怨霊に襲われたんじゃ)』
不意に頭に響く声。人面樹のダンジョンのオンジだった。
「襲われた……」
ああ、そうだった! 黒い影に襲い掛かられたんだった。いやぁ、怨霊の大本とはナリーンに聞いてはいたが、まさか、問答無用とは―――
「!?っ」
キャリイに手伝って貰いながら身を起こすと、そこにはオレを襲った張本人とその男を威嚇する様に飛びまわるグーちゃん(ドローン)の姿が目に入った。
「ど、どういうこと……?」
『(キャリイ嬢ちゃんを見て我に返ったように見えたの。その後、闇が霧散してそのままじゃ)』
「?」
まじどういうこと? キャリイの知り合い……ってわけじゃ無いよな。そもそも彼女は生まれたばかりだし。
『その人形はミアータの物だな?』
不意に男が口を開いた。低くくたびれたかすれ声。
「あ……ああ……」
『どうやって起動した?』
「それがミアータ爺さんの望みだったからな。爺さんに協力して、そこのグーちゃんが起動した」
『この浮遊ゴーレムが?』
「それはグーちゃんのドローン。本体は外にある多脚戦車だ。あんたがカルトアか?」
『……ミアータの言ってた仕様では、そのドールには人格を持たせないはずだった。なぜ、その様な感情的な表情をする』
こっちの質問には答えず質問重ねる。失礼な爺だ。
しかし、その質問はオレも疑問に思ってミアータ爺さんに確認した物。
「ミアータ爺さんが言うには、誰かに仕えるなら人格は不要。だが、主無しで生きていくなら人格は有った方が良い。って言ってたな」
『主無し……君が主では無いのか?』
「主? そんなんじゃない、オレはこの子の行く末を見守るよう頼まれただけだ」
『行く末を……ミアータはどうした……』
「……逝ったよ。この子の起動を確認してな。未練だったみたいだな。逝くときは、すげぇ満足そうだった。それより、あんたはどうなんだ? 村の連中もあんたの怨念に引っ張られて昇天出来ないみたいだぞ?」
『……君はそのために来たのか? 村人の為に……』
「村人って言うか、ナリーンとその家族の為かな? 知ってるだろ、ナリーン? 3000年も成仏できないのは流石に厳しいだろ」
『ナリーン……そうか、あの子も怨霊に……』
「ナリーンに聞いたよ。あんた、エリーザベトさんの生みの親なんだって?」
ゴッ
突然、男の怨霊から闇が噴き出した。咄嗟に避けようとしたがキャリイに支えられてる為身動き取れず、正面からまともにくらう。
「ちょ……っ」
全身から力が抜け、そのまま後ろの倒れそうになる。
「と、トシノブさん!?」
キャリイが慌てて支え直し、倒れこむことは回避できた。
どうせなら闇の一撃を喰らう前に避けて欲しかったが、そういやキャリイにゴーストは見えないんだった。
「い、いきなり何しやがる……」
『エリーザベト……ナリーンに聞いたのか……』
相変わらず人の話をきかねぇな、このおっさんは、ったく。
「いいや、昨日偶然会って、その時助けて貰っただけだ」
『…………そうか……3000年……あの子は3000年も罪を背負ったまま稼働を続けてるのか……』
カルトアからどろりと闇がにじみ出る。しかし、先ほどとは違い、噴き出す様な感じではない。
『ミアータは正しかったのかもしれない……人格など……持たせるべきでは無かった……』
顔を上げたカルトアの目から一筋の闇が零れる。
それは己を殺した者への恨みと言うより、殺させてしまったことへの悔恨にも見えた。
『ベスを……エリーザベトを開放しては貰えないだろうか……』
◇◇◇
グーちゃんの脚が地面を食む。
アスファルトにも似たそれは、多脚戦車の重量をものともせず受け止めていた。
北の城へと続く道。木々の向こうの丘の上に、その城は見えていた。
カルトアの話では、ベスの所有権は”総裁”にあるという。
3000年前、この村を含む一帯を治めていた企業のトップ。
どうやら、当時の政治形態は基本は民主主義だが、日本のそれとは違い、地方都市はそこに根差す企業が治めていたらしい。
そんなやり方で民主主義が行えるのか甚だ疑問だったのだが、国会議員は選挙で選ばれてたし、国民の移動の自由は国の管轄で守られており、悪徳企業の治める土地はすぐに住人が居なくなる。つまり税収と従業員がいなくなり企業として立ち行かなるので、割りと安定した地方都市運営が出来ていたんだとか。
まぁ、3000年前の惨劇を鑑みると、本当かどうかも怪しいが。
で、肝心のベスの解放だが、解放自体は口頭で開放コードを伝えれば所有権は無くせるらしい。
ただ、問題は開放コードが分からないとのこと。所有権を総裁に渡した時点で、総裁しか知らないものへと書き換えられているだろうし、民生品や軍用ドールとは違い、メンテナンス用のマスターコードなども存在しない。
手詰まりじゃねぇかと突っ込んだが、その総裁、結構高齢で記憶力も怪しくなっていたらしい。それに、ベスはもともと総裁が息子に送るために造られたので、今のコードも仮の物。どこかにメモを残しているはずとのことだった。
「トシノブなに難しい顔してんの? お城に行ってコード見つけて開放するだけでしょ?」
総裁の館へ向かう道すがら、グーちゃんが話しかけてきた。
「いや……まぁ、な」
答え乍ら、グーちゃんのキャノピー越しに見える総裁の館に目を向ける。
「重要書類なら執務室か書斎か寝室の金庫とかにあるでしょ? そんなに難しく考えなくても良いと思うけどなー」
「そっちはあまり気にしてない。じゃなくて、ベスが別れ際に言った言葉がなぁ……」
「城へは来るな、と言っていたことですか?」
コックピットにタンデムで座ってるキャリイが少し乗り出す様に聞いてきた。
「そう。流石に3000年経ってるので、総裁は死んでると思うんだけど……なぁ、キャリイ、小さいとはいえ一つの街をベス一人で壊滅させられると思うか?」
「……エリーザベトさんと私は同じコンペに向けて造られました。なので必要要件的に私とエリーザベトさんのスペックには大差がないと思われます。だから私を基準に考えますが……ドール一体であの街を壊滅させるのは不可能だと思います」
「だよなぁ……」
「つまり、ベス以外に稼働してるドールが居るかも知れないってことー?」
「ドールかどうかはワカラン。ただ、戦闘用の何かが残ってる可能性はあるよなぁ、しかもそれなりに力の強いやつが。キャリイの服を頂いたトラック、あれ、ひっくり返ってただろ?」
「あ~~…あの硬いの!」
「そんなこと出来るのと戦闘になるかもしれないってこと……ぶっちゃけ、オレじゃあベスどころかキャリイとやり合っても勝てる気がしない」
「私はトシノブさんを攻撃したりはしません!」
「あ、うん、ありがと。だが、ベスはワカランだろ?」
泉で話をしたベスが交戦的だとは思えないが、こちらは彼女の警告を無視している身。恐らく十中八九敵対することになる。
「もしその時は私がエリーザベトさんの相手をします」
「まぁ、トシノブは心配し過ぎだねー。ボクが居れば戦闘用の何かがあったとしても余裕ですよー、なんせボクより100年以上遅れた技術の兵器ですからー」
「なるほど。ならまぁ、大丈夫か!」
と考えてた瞬間が自分にもありました。
なんと辿り着いた城の門前には巨大な多脚戦車鎮座していたのであります。
勝てるかってのーーーーーっ!!!




