ピーコちゃん追悼、というか前回の続き
死神上司・神原からの制裁を受けたものの、今日晴れて退院することとなった儂!ああよかったよかった☆
「今日が何日か、ですって?2XXX年(半年)月(半年)日ですよ」
「・・・え?」
「いやだから、(半年)月ですよ」
・・・担当医師から発せられたたった数十文字の言葉は、死神から受けた攻撃を抉り直すには十分すぎるほどの強攻撃じゃった。
いやぁぁぁあああぁああぁあぁああ!!!!
どうされました!?と駆けつけてくるナースたちに構うことなく、儂は苦痛の叫びを上げた。
「そんなっ!!半年もこんなとこに幽閉されとったなんてっ!!ピーコちゃん!」
「セラさん!しっかり!」
「いやぁああ!!ピーコちゃん!今頃はさぞお腹を空かせていることじゃろうに!!!儂は飼い主失格じゃあ〜〜〜!!」
びえぇ〜〜〜ん、と泣き喚く儂。そんな儂に四方から冷ややかな視線が注がれていたことなど、知る由もなく。
「あ、セラさん。どうしたんですか子供みたいに泣き喚いて?」
誰かと思えば沢田じゃった。
「なんでっ。お前なんでこんなところおるんじゃヒグヒグ」
「やだなぁ・・・変なこと言わないでくださいよ」
もう〜冗談がすぎるなぁ〜と頭をかく沢田。顔の至る所にくっきりと縫合跡が見える。
「お前も死神にやられたのか?顔がすごいことになっておるぞ」
「それがですね、あんまり事故の記憶がないんですよ。死神・・・いや神原さんが見舞いに来てくれた時は「あの事故をよく生き延びたな」って労ってくれたんですけど、その事故の負傷ですかね」
記憶が曖昧なようじゃ。儂もそんなことがあったなんて全く知らなんだ。
「沢田!そんなことより、ピーコちゃんじゃ!」
「?ピーコちゃんがどうかしたんですか?」
「あやつ大食いなくせに、半年も家を開けたままじゃからの・・・腹が減りまくって死んでおるやもしれんのじゃ・・・」
「腹が減るって・・・あれ、ロボットでしょ?」
キョトンと首をかしげる沢田。
「“あれ”とか言うな!“あれ”とか!ロボットでも飯を食わんと生きていけんじゃろ?そんな当たり前なことを聞いてどうする?」
いやいやいや、と手を振る沢田。
「入手困難な高性能機ならまだわかりますけど、500円(笑)で買った鳥ロボットでしょ?そんなこと、ありえませんって」
「ふざけたことを抜かす奴じゃな!ピーコちゃんが死んでおったら、お前どうやって責任とってくれるつもりじゃ!え??」
「責任だなんて、そんな・・・でも、ただのロボットですから死ぬなんてことはまずありえません」
ホントじゃな?と念を押し、同じく今日退院の彼を連れて帰宅した。
「ピーコちゃん、儂戻ったぞ〜」
・・・妙に静かじゃな。いつもなら「オカエリ!オカエリ!オカベエリコ!」と可愛く鳴いてくれるのじゃが。
ピーコちゃんの住処は“PS5”とかいう300年ほど前に流行ったゲームの筐体の中。河原でお魚さんごっこをしておったところ、ドンブラコドンブラコと上流から流れてきたものじゃ。緊張の面持ちで側面の蓋を割ってみると、そこには・・・何もいなかった。
すると、洗面所の方から沢田の呻き声のようなものが聞こえてきた。
「ッ!!ピーコちゃんっ!!」
泣きそうになるのを必死で抑えて洗面所へ向かうと、沢田の顔の傷跡をつつきまくるピーコちゃんが、そこにいた。
「ピーコちゃんっ!!!」
儂の声にウン?と反応したピーコちゃんは、すぐさま儂に向かって飛んできた。
ひしっ!!力強くピーコちゃんを抱擁した儂は、うれしさのあまり号泣していた。
「よかったですね、セラさん。これぞ感動の再会!ってやつですねイタタ」
えんえん泣く儂の頭を撫でてよしよししてくる沢田。調子に乗っておるのぉ。じゃが、よしよしされる身としては気持ちいいし、癪に障るが今回は特別に許してやるかの。
「ああ、超言いたくないが感謝してるぞ、沢田」
おい沢田、顔を赤らめるな。
「ハ・・・」
ピーコちゃんが何か言いたげにしておる。
「なんじゃピーコちゃん?」
「ハ、ハ・・・ハラヘッタ!」
「ああ、そうじゃった!すっかり忘れておった。今用意するから、お行儀よく待っとるんじゃぞ」
「え、ピーコちゃんのご飯の用意ですか??」
あまりに素っ頓狂な声で聞いてくる。
「そうじゃが?もしや、まだ疑っとるのか?」
これ以上疑われるのも面倒じゃし、沢田にピーコちゃんの勇ましい食事風景を除いていってもらおうかのぉ。
「ほぉれ、ピーコちゃんや。今日は鳥胸肉のソテーじゃよ☆しっかりお食べ」
「ウ、ウマソ・・・♡」
「・・・セラさん、お手洗いお借りしましたよ・・・え?」
どうじゃ、ピーコちゃんは立派に食べておるじゃろ?とばかりに食事中のピーコちゃんを見せつけてやる。
「ウソだろ、マジでロボットが飯食ってやがる・・・500円が・・500円の鳥ロボットが・・鶏肉食ってやがる・・・!!」
これは重大事件だ!とばかりに動揺する沢田。あまりにパニクった沢田はすっかり腰を抜かしてしまった。
「こんなの、ありえない。ロボットが食事するなんて・・・一大ニュースですよ!!!これ!!!」
あまりに騒がしいと思ったのか、食事を止めたピーコちゃんは沢田の方へすっ飛んでいった。
「オメェウルセェゾ!ブッ_ロスゾ!ブッコ_スゾ!」
「うわぁあああ!!!やめてぇぇええ!!!」
沢田の顔に取り憑いたピーコちゃんは、またしても傷跡を突っつきまくっておる。秒読みで廊下が赤く染まっていく。掃除大変なのわかっとるんじゃろか、この若造。
「まったくもう。ピーコちゃんたら、いつの間にそんな無能沢田を気に入ったんじゃ?名コンビじゃのぉ、ガッハッハ!!」
今日は酒が進んでしまいそうじゃな。
儂は晴れて退院したわけじゃが、沢田はもう半年ほど病院に残るらしい。