とあるオフィスでの日常その1
2XXX年、辺境国アルデバラン。500年前の大災禍をなんとか生き延びた、人口わずか100万人規模の小国である。この地ではかつて、精霊研究が盛んであったが、その研究で培ったノウハウを現在はAI技術開発に惜しみなく投じておる。
精霊とAIってどう繋がるんだ、だって?
それはまあ、ああしてこうしてそうそうするんじゃよ!
華奢で可憐で500年経っても老い一つない絶世の美少女である儂、セラ・スピリファイトはこの国きっての「えーあい」技術者なのじゃ!一つ欠点というかマイノリティな部分をあげるとすれば・・・精霊がおらぬ。人より優れた種族であるゴブリンの生まれなのに!かつては盟友ベクトリウスとともに大精霊と呼ばれた儂なのに!今では儂以外の人間全てに精霊が宿っているのじゃ。肝心のベクトリウスは力を使い果たして以来、一向に姿をみせん・・・こんな儂のそばにいてくれるピーコちゃん(500円)はホントにいいやつじゃのお・・・
「セラさん、また今日もご機嫌斜めですか?立派な上司なんだからしっかりしてくださいよ」
「・・・おぬし、儂の気も知らずによくそんなことが言えるのぉ」
「知りませんよ。500年生きてるそうですが、目の前の仕事はちゃっちゃと済ませちゃってくださいね」
隣に座るこの妙にいけすかない男は沢田という。儂の部下じゃ。つい130年ほど前から定着した“ネクタイ”とかいうやつを毎日つけて出社してくる、所謂若造。儂に焔の能力が残っておったなら、おしゃれだと意気込んでつけてくるネクタイを灰塵に変えて、儂に説教するとかいうふざけた性根を叩き潰してやらんこともないのじゃが。まあよい、儂は心が広いからの。
儂がディスプレイに向き直ったところを確認して、沢田は満足げな顔をしておる。この顔とてもいけすかないのぉ。
儂が勤めておこの会社、実はこの国における“さいおおて”とかいう会社で、隣国と戦争になりかけた際は精霊兵器の開発を主力としていたそうな。儂も一時はこの会社に兵器開発のためのデータを提供しておった。あの頃はもっと畏怖の対象としてみられておったような気もするが、今や一社員として上司や客にへりくだる日々・・・うぅ、なんという皮肉っぷり。
愛しのピーコちゃんをデスク脇にどけつつ、“ぷろじぇくと”を進めているところじゃ。
「ピーコちゃん!今日も可愛いのぉ」
ンガーッ!ンガーッ!と可愛い鳴き声を披露するピーコちゃん(500円)。
あのうるさい鳥ロボットをどうにかしろよ!みたいな話し声がする気がしたが、こんなに可愛いピーコちゃんのことではあるまい。気にせず会話する。
「ピーコちゃんや、今日はまことに天気がよいのぉ」
「エ!・・・ナンデェ」
「なんでって聞かれても・・・才色兼備な儂にもわからんことはあるんじゃぞ☆」
ドガッ!!
突然儂の体が宙に飛ばされた。
「いったぁ〜〜〜いじゃろがい!!!誰じゃ、儂にこんなことをするやつは!!」
振り向くとそこには、禍々しいオーラのようなもの(いやまさしくそれはオーラなのじゃが)を纏う仁王立ちの黒髪ボブ女。
この女・・・いや女神様は、みまごうことなき我が上司、神原夕比・・・様。
「ひぃぃぃぃいいいぃぃぃぃぃいいい!!!!」
読者諸君は、一体なぜ儂がこんなにも恐れ慄いているのか、不思議に思うじゃろう。
現代の人間は皆、かつての儂がそうじゃったように、精霊と契約しておる。
で、彼女の精霊はというと、「死神」なのじゃ。
彼女の背後から溢れ出る禍々しいオーラは、それによるものじゃ。オーラなんぞ普通は見えないのじゃが、彼女と契約した死神の精霊のパワーは、そのオーラが実態として認識、果ては触れることすらできてしまうほどに強力無比なのである。
はい、ここから先は説明不要じゃな☆
「・・・そういや今のお前のプロジェクト、ちょうど3ヶ月前が締め切りだったよな?(確認)」
「はい、その通りでしゅ(肯定)」
「で、次のプロジェクトの予定もあったはずだが、それはどうなってるんだ?(確認)」
「えっと・・・ゆ、儂の優秀で尊敬できる(大嘘)後輩の沢田に・・・任せてます」
そんな話聞いてないですよ?みたいな顔をする沢田。
「ほう・・・では貴様はいったい今、何をしているんだ?(最後通告)」
ああ・・・終わった。
ここで500年続いた儂の人生、いやゴブリン生も終わりを告げるのじゃな。・・・だが断るッ!!
なぜ死ななきゃならんのじゃ。ピーコちゃんと過ごすことの何がいけないのだろうか。ここで死んでしまっては、一人残ってしまうピーコちゃん(500円)が不憫で不憫で仕方ない!生きねば。生きねばなるまい。
ドリャアーーーッ!!!
「こんなところでくたばってられっかぁあああ!!!」
渾身の美少女キックを彼女の頭めがけて放った!・・・と思ったのも束の間、蹴っていたのはなんと、沢田の頭だった。
「フゴヘッッ!!!」
血を噴水のように撒き散らして地面に倒れる沢田。
ハッと気づき後ろを振り返った頃には・・・もう遅かった。
「ほう・・・君の返事、しかと受け取ったぞ」
「はい・・・(涙)」
それから1ヶ月ほど、1ミクロンも体を動かすことはできんかった。