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一歩

ご無沙汰しております。二週間ぶりになりますでしょうか。大変お待たせ致しました。


この話からようやく本編となります。

序章は佐々木優輝という人間について知ってもらう為に書きました。

ここからは、その優輝を中心とした関係について書いていきます。


では、お楽しみください。

 俺の憧れている女の子は天才だ。俺の憧れている女の子はとても強い。そして――俺の憧れている女の子は俺と似ている。


***


 俺は家に戻るとシャワーを浴び、緩い寝巻に着替え、自分の部屋に籠った。両親には勉強すると伝え、一人勉強机の前で思索にふける。


 ここが俺の一番落ち着ける場所。誰にも干渉されず、誰に干渉することもない、この世で一番平和な場所。こんなことを言っているが、別に両親と仲が悪いということはない。むしろ関係は良好である。だが、一人っ子故に少し過保護なところがある為、俺自身一人になれる環境を心地よく感じている。


 そんなユートピアで、俺は改めて何をすべきか考える。


 光星さんはあまりにも世界と乖離した生活を送っていた。だからこそ誰にも邪魔されることなく前に進み続けたし、結果も出してきた。だが、その代償としてもう一つの目標に全く着手できずにいた。


『多くの人に愛される人間になること』


 そもそも、多くの人に愛される人間とは一体どのような人物なのだろうか。そこは光星さんに確認する必要がある。だが一つ確かなことがあるとすれば、今のままではゴールは遠いということだ。


 光星さんの目標を達成する為には多くの段階を踏まなければならない。


 前提として、彼女は他人と上手く会話することができない。だから親しい友人はいない。この時点で「多く」に「愛される」のスタートラインにも立っていないことになる。


 なら、まずは友人を作ることから始めるべきなのだが、簡単ではないことは理解していた。


 そもそも俺と光星さんは友人関係を築けているわけではない。今日この関係を築けたのも、お互いの利害関係が一致したに過ぎないのだ。光星さんにとって親しい存在は光希だけ。そして他は他人に過ぎない。


 他人の定義は難しい。家族は他人でないとも言えるし、自分以外の存在を他人と言うこともできる。だが遺伝子的に繋がっている以上、家族を他人と言うのはあまりにも冷酷だ。少なくとも俺はそこまで無慈悲ではない。


 どちらにしろ、他人に関わることが光星さんに求められているわけで、俺はその手助けをする。それが俺の今できる最善。


「他人に興味のない俺が他人を助けるか……。滅茶苦茶矛盾してるな」


***

 

 翌日の学校から、俺は意識的に光星さんに話しかけるようにした。接点がないなら作ればいい。待ってばかりでは何も得るものがないのは知っていた。


 彼女とは相変わらず話が続かないが、本という共通の趣味があることで話題には困らなかった。


「どういう種類の本が好きなの?」

「特定の好きな本はないよ。面白そうだったら読むようにしてる」

「じゃあミステリーとかも読むの?」

「うん。最近だとレイモンド・チャンドラーの本を読んだよ」

「チャンドラーか……。読んだことなかったから今度読んでみる」

「うん」


 とまあ、こんな感じで何度も話をする。彼女も出来るだけ真剣に答えてくれているのは伝わった。というよりも、厳しいことを言えば変わりたいと思ってるのは彼女だからそうでなければならない。だが、間違いなく上手く事が進んでいるとは言えなかった。なぜなら、俺と彼女がしていたのは会話というよりも、質問とそれに対する答えでしかなかったのだ。


 このような会話を一週間ほど続けた頃、成す術なくお手上げ状態になっていた。毎日同じことの繰り返しで、進歩が全くなかった。


 俺は一人、教室の机に突っ伏して何をすべきか考える。こんなことしても何も進展しないのは分かってはいる。だが本当にどうしたらいいか分からない。


「優輝どうしたんだ……?」


 涼太が心配そうに俺を見つめていた。普段こんなことをしないので、物珍しく感じたのだろうか。


「ん?ああ、涼太か。何事も簡単にはいかないんだなーって考えてたところ」

「珍しくうなだれてたから何事かと思ったけど……また良く分かんないこと考えてるな」

「まー大したことはないよ」

「そうか?なんか困ったことあった時は言えよ」

「もちろん。真っ先にお前に相談するよ」

 

 大したことないとは言ったものの、そんなことは全くない。


 ここまで具体的な案もなしに彼女に話しかけていたが、この行動に意味がないことには気付き始めていた。そもそも、たった一週間で何かが変わるはずと期待していた自分の浅はかさが怖い。

 

 だからと言って、何か具体的な策が浮かばない。彼女に足りないものは何なのか。きっとそれは俺にとって当たり前すぎることで気付けない。だが俺が当然だと思っていることは、彼女にとっての当然ではない。それは彼女にとっての勉強と同じことなのだから。


 彼女になった気で考えてみる。……うん。何も思い浮かばない。他人の気持ちになって考えることは簡単ではない。ましてや、他人を自らとは離れた存在と理解している俺にとって。


 最初からこんなに苦戦するとは聞いてなかったぞ……。


***


 長袖とネクタイが段々と暑くなってきた五月初めの昼休み。俺が光星さんの家に行ってから二週間ほど経った。相変わらず光星さんとの関係に進展はない。


 そんなある日、俺は何故か美和から渡り廊下に呼び出されていた。


 五月のカラッとした日差しが差す渡り廊下に向かう。


 考えてみると五月というのはずいぶんと中途半端な月だと思う。春でもないし、夏でもない。気象学や暦の上では春という位置づけらしいが、立夏と呼ばれるのも事実である。でもなんでだろうか。俺ははっきりと季節に区別されるような月より、五月や十一月のような季節の狭間が好きだ。

 

 本館と別館を結ぶ渡り廊下には、学校一の人気者がいた。雲一つない青々とした空を眺める姿はまるで某乳酸菌飲料のCMのようで、思わず目を奪われる。


「……ん。やっと来た」


 目線を上から平行に戻す。日光で照らされた彼女は眩しすぎて、どこか消えてしまいそうな雰囲気すらあった。


「すまん、待たせたな。告白か?」


 俺はできるだけいつも通りに軽口を叩く。


「何調子乗ってるの?キモイよ?」


 美和はその大きな目で俺を蔑んだ。


「はい。ごめんなさい」


 最近はずっと光星さんと話していたこともあり、この感じは久しぶりな気がした。やっぱりこいつと話す時は話題をいちいち考えてない。やはり「いつも一緒にいる」ことは想像以上に意味の大きいことなのかもしれない。


「で、どうしたんだよ。わざわざ呼び出すってことはなんか用事があるんだろ?」

「その、なんというか……。最近、やけに川勝さんと話してるじゃん」


 まさか美和から光星さんについての話題が出るとは。拓海が以前言っていたように、二人の間には決して交わる点なんてないはずだが。


「ああ。そうだな」


 俺は少し疑うような目で美和を見た。だが美和は表情一つ変えない。


「単刀直入に聞くけど、一体何が狙い?」

「別に大層な狙いなんてない。委員長同士が話してるのがそんなにおかしいか?」

「そんなことは言ってない。ただ、優輝が何の考えもなしに自分から絡みに行くわけがない」

「心外だな。俺だって何も考えずに動くときもある」


 これは光星さんの問題であって、俺の問題ではないので軽く流す。


「嘘ついても無駄。何年一緒にいると思ってるの?あんた隠したいことある時毎回腕組んでるの知ってる?」

「……そうなの?」


 美和は引かなかった。それどころか俺の知らない弱点を提示して優位に立ってきた。それもそうだ。俺が今対面しているのは家族以外で俺を一番知っている人物なのだから。


「うん。だいぶ前から気付いてたよ」

「まじか……」


 美和にはどうやら嘘は通じないようだ。こういう行動も心理学で説明できたりするのだろうな。じゃないと西先生が勉強してなかったはずだ。


「で、どういう風の吹き回し?」


 これ以上ごまかすことは無理なので、例のように真実を制限して伝える。


「うーん、目的があるのは認める。ただ、俺から全部は言えない。教えれることがあるとすれば、とりあえず俺は光星さんと仲良くなる必要があるということ。そんで、光星さんは他の人とも仲良くなって欲しい」

「何の為に?」

「それは……お互いの為にかな」

「ふーん。よくわかんないけど、あんたが適当な気持ちでやってないことは分かった」

「まあ、そうだな」


 美和は少し考える様子をした。こんなことを聞いてくる理由が分からなかったが、ここで引いてくれるなら別に気にすることもない。そう思ったが、美和は何かひらめいた様子で俺に問いかけてきた。


「じゃあ私も手伝っていい?」


 まるで『断ることなんてできないでしょ?』と言っているような表情で俺を見た。その真意やいかに。


「え!?まじで言ってる?」

「うん。大まじ」

「俺ほとんど何も説明してないけど?」

「ま、あんたのやってることに必ず意味があることは知ってるからね。それに、私も川勝さんはずっと気になってた」

「そうか……」


 そう言われると何も反論できない。それに、美和の真っすぐと俺を見つめる目に嘘はないことは分かった。


「てっきり、恋心から動いてるものだと思った」

「それは違う。お前が一番分かってるだろ?」

「それもそっか」

「どちらにしろ手伝ってくれるなら助かるよ。俺一人ではどうにもならないところだった。ありがとう」

「うん!」


 美和は混じりけのない純粋な笑顔を作った。学校一の人気者の眩い笑顔。普通の男子なら間違いなく恋に落ちてるだろう。だが俺だけは違う。逆に恐怖すら感じてる。


「お前、何が目的だ?」

「ただの善意だよ?」

「いやそんなはずない。絶対裏がある」

「そんなことないよ?ただ大きな貸しを作るだけだよ?」


 そういうことね……。俺が考えなしで動かないように、こいつはどこまでも私利私欲の為に動く。まあ、コミュニケーションという分野においてこいつより頼りになるやつはいないし、光星さんの友達になってくれるなら一石二鳥だ。ここはありがたく手を借りることにしよう。


 とりあえず俺は美和に今の停滞している状況を説明した。対策を立てるにも現状が分からないと何もできないからだ。だが、美和からは想像していたよりも辛辣な言葉が返ってきた。


「会話というより、それはただの一方通行でしかないじゃん」


 美和は少しため息をついた。


「そうなのか?」

「だって興味ない人にはわざわざ話振らないでしょ」

「そうですね……」


 問題の本質はまさにそこなのだ。光星さんは恐らく他人に興味がない。だから余分なことは話さないし、それでいいと思っている。だが目標達成の為にはそのままではダメだ。少なくとも、表面上は上手く取り繕う必要がある。


「けど、別に優輝を責めてるわけじゃない。今回に関しては川勝さんにも問題があると思う」

「ほう。そう考える根拠は?」

「彼女には……私たちが見えてない気がする。眼中にないとか悪い意味ではなく、単純にクラスメートという存在でしか認識されていないと思う」

「それは……確かにそうだな」


 美和の外側の世界に対する洞察力は普通じゃない。彼女は的確に周りで起こっていることを分析し、最適な行動を取る。だから、彼女が誰かの期待を裏切ることはない。


「まあ、とにかく川勝さんが他の人と仲良くなる為にはいくつかスキルを身に付ける必要がありそうね」

「だな。それを考えるのが先決か」

「そうね。まあ任せてよ」

「ああ。頼りにしてる」


 こうして俺は美和にも手伝って貰えることになった。そして、俺はそれがいい方向に向かうと信じて疑わなかった。きっとそれは、俺が神崎美和を家族の次に信頼しているからなのだと思う。


もし続きを読んでくださるという方がいらっしゃいましたら、ブックマークをしてお待ちいただけると幸いです。


また、評価、レビュー等頂けますと作者の励みになります。


よろしくお願い致します。

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