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夢(2)

いつもお世話になっております。




もう少しで序章は完結となります。




どうかお付き合い下さい。

 というわけで俺は光希の家に向かうことになった。そして帰り道はもちろん、光希の友達も一緒だった。


 道中、光希の友人から再び美和の話題が上がった。どうやら美和は一年生の中でも大人気らしい。流石有名人だ。今度また教えてあげよう。


***


 電車に揺られること数分、友人二人とは住吉(すみよし)駅で別れた。芦屋まではここから少しばかり距離がある。


 光希と二人きりになるのはあの日以来だった。思い出すだけで頭がパンクしそうになる。


「そういえば優輝君の用事聞いてませんでした!今日は一体どういう用事で?」

「その……進路調査票を渡したかったんだ」

「なるほど~。でも……それ私に渡してくれれば良かったんじゃないですか?」

「それはそうなんだが……」


 西先生との話をここでするわけにはいかないからどうしても曖昧な答えになってしまった。


「やっぱり姉のこと好きなんですかー?だってどう考えてもそんなことでわざわざ来なくてもいいじゃないですか」


 このように勘違いされても無理はない。どう返すべきか考えたが、こういう時は下手な嘘をつくと大体墓穴を掘る。だから一番いいのは、本当の情報を制限して伝えることだ。


「好きというわけではないよ。ただ、少し興味があるだけ」

「興味……ですか?」

「ああ。彼女ほどの天才には出会ったことがないからな」

「なるほど。そういうことですか」

「まあ、天才という意味ではお前も十分天才だけどな」

「いえいえ~それほどでも~」


 光希は軽く謙遜した。この言い慣れてる感じ、きっと彼女にとって天才と言われることは日常茶飯事なのだろう。


「天才ですか……。きっと私も姉も世間から見たらそう見えるんですかね?」

「世間は分からんが、少なくとも俺はそう思うよ」

「なるほど……。天才って、何なんでしょうね」


 光希は電車の外の景色を眺めながら言った。その視線は遠く、遠くへ向けられていた。


「それは……俺が知りたいよ」


 本当に俺が知りたいよ。凡人の俺にはきっと天才を語る資格すらない。


「ごめんなさい!変な話しちゃいました」

「いや、こっちこそすまん」

「でももし私と姉が天才だとするなら、天才度合いが違いますよ」

「お前の方が才能があるってことか?」

「嫌だな~優輝君。逆ですよ。テニスと勉強なんで比べることは難しいですが、ライバルとの距離という意味では姉には勝てません。私は全国だと結構競った試合しますし、負けるときもあります。その点、姉は一位以外取ってるの見たことありませんから」

「なるほどね……」


 光星さんはどうやら俺が想像していた以上に頭がいいらしい。


「それに、いかに才能があっても一番になれるとは限らないです」

「そうなのか?」

「はい。結局はそのことを継続できるかどうかです。だから『好きこそものの上手なれ』はあながち間違ってないですね。好きなら続けることは苦ではないですから」

「そういや光希はこの前テニス好きって言ってたな」

「あはは。そうですね。世間的認知度では野球とかサッカーには負けますけど、私はテニス以上に面白いスポーツはないと思います。ただ、私は逃げたからなんともいえませんけどね……」

「俺は……別に逃げることは悪いことだとは思わない。それに光希は逃げたわけじゃないよ。まだテニスという競技に向き合おうとしてる」

「そうですかね……」

「ああ。それに、例え逃げたとして、そこで待っていた生活はお前が否定するようなものだったか?」

「それは……違います。優輝君にも会えましたし、友達も、部活の先輩も皆いい人です」

「だろ?だから逃げたことに負い目なんか感じる必要はないんだ。未来に起きることなんて俺たちには分からない。だから大事なのは、今を一生懸命生きることだ」


 この言葉は光希に伝えようとしているわけでなく、自分に言い聞かせてるような言葉だった。


「……優輝君は、なんでも答えを知ってますね」

「そんなことないよ。知ってることなんてほとんどない。もしそう見えるなら、俺はただお前より一年長く生きているからだ。だからこんなこと、光希は遅からず分かるはずだよ」

「そうですかね?それでも、優輝君が優しい人だということは変わりません」

「いや――」

「否定してもダメですから!」

「あ、はい」


 光希は俺を買い被り過ぎな気がする。俺はそんな出来た人間ではない。


「光希、一個聞いていいか?」

「はい!どうぞ!」

「お姉さんは、勉強が好きなのか?さっきそんなことを言ってたから」

「それは……難しい質問です。姉の場合は好きという理由だけで動いてるわけじゃないと思います」

「へー。そうなのか?」

「ですね。姉はそんな感情で勉強していないと思います。姉を動かすのはもっと強い何かです」

「その強い何かって何なんだ?」

「それは……姉に聞いて下さい。その方が確実です」

「ですよね……」


 未だ彼女の勉強する理由分からずか……。もう直接聞くしかなさそうだな。


「優輝君なら……」

「ん?」

「いえ、なんでもないです!姉と仲良くしてあげて下さい!」

「ああ。それはもちろん」


 この時光希が言おうとしてることを理解するのは、もう少し先の話だった。


***


 川勝家は駅から十分くらいのところにあるらしい。芦屋ということで想像はしていたが、高級住宅街が立ち並んでいた。ちなみに関西の人にとっては常識だが、芦屋にはお金持ちが多く住んでいる。東京で言う田園調布とか白金台にあたるのだろうか。何が言いたいかと言うと、それだけ川勝家が裕福だと言うことだ。


 立ち並ぶ高級住宅や白い高そうな犬を散歩させているマダムを伏し目に光希について行く。居心地が悪いとは文字通りこういう状況のことを言う。そしておどおど歩くこと十分と少し。光希は立ち止まり、家を指差した。


「ここです!」


 その家は、白を基調とした二階建ての大きな家だった。その設計は少し普通の家とは違っていて、部屋が出っ張ったり凹んだりしていた。なんというか、俺の価値判断基準では測りきれない。


「めちゃくちゃでかい家だな……なんか見たことない形してるし」

「あはは……父が海外で見た家を真似したとか言ってました」

「そりゃ見たことないわけだ」

「でも、基本的に私とお姉ちゃんしか家にいないのでちょっと大きすぎますね……」

「そうなのか?」

「はい……まあ、この話は中でしましょう!とりあえず中入りますよ!」


 そう言うと彼女は玄関のドアを鍵で開けた。俺は彼女の後について家の中へ入った。


「ただいま~」

「お邪魔します」


 家の中は、想像していたよりかは一般的な家と大きく変わらなかった。白を基調とした家具がリビング、ダイニングに置かれており、アイランドキッチンがダイニングの奥にあった。光希と光星さんの部屋はどうやら二階にあるようだ。


 ただ、目を惹いたのは白いリビングの奥にあった仏壇だった。洋風のテイストの家では明らかにそれが浮いており、そこから目を離すことは出来なかった。


 どうやら光希が俺の視線に気付いたようだった。


「仏壇、気になりますか?」

「……いや、すまん。なんでもないんだ」


 俺は取り繕うように言った。よその家庭にあまり首はつっこむべきではない。


「とりあえずダイニングテーブルに座ってて下さい。紅茶でよかったですか?」

「あ、うん。ありがとう。」


 そう言うと彼女は慣れた手つきでティーカップとポットを取り出した。お湯を沸かし、茶葉を入れたポットに注いだ。茶葉が踊り、透明なお湯が茶色に染まっていく。少し時間を置き、二つのカップに紅茶を注ぎ、俺の前に置いた。


 光希は俺の前の椅子に座った。


「お口に合うか分かりませんが、どうぞ!」

「ありがとう。よく紅茶飲むのか?」

「そうですね!姉が好きなので」

「なるほどな。妙に手つきが慣れてるわけだ」


 そう言うと、一口紅茶を口に含んだ。ほのかな苦みと香りが口の中で広がる。美味しい。


「美味しいよ。ありがとう」

「えへへ。ありがとうございます……」


 そう返した彼女の頬は少し赤く染まっていた。それもそのはずだ。後輩の家に異性の先輩がいる構図ができている。それもこの部屋には二人っきりだ。いくら仲がいいとは言っても、この状況で色々意識しない方が難しい。俺も無心で紅茶を飲んでいた。


「その……姉呼んできますので、ちょっと待っててくださいね」


 彼女は階段を素早く駆けあがって行った。ふう。緊張した。


 目の置き場に困り、家の中をゆっくりと見回す。やはり、リビングの奥にあった仏壇だけが内装のコンセプトに合っていない。見えない力によって引き寄せられ、どうしてもそこを見てしまう。


 家に入る前の光希の発言からどこか勘付いてはいた。そして願った。どうか俺の早とちりでありますようにと。だが、どうやら俺の思っていた通りだったらしい。


 仏壇には、目が光星さんにそっくりな女性の写真が置いてあった。


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