夢(1)
いつもお世話になっております。
序章は可能な限りこのペースで投稿できたらと思っております。
では、お楽しみください!
『過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える』—ドイツの哲学者、フリードリッヒ・ニーチェの言葉。
過去が現在に影響を与えるのは皆知っていることだ。だが、未来だって現在に影響を与える。それは、どのような未来を思い、願うかによって現在が変わるからだ。だから現在の自分にとって、過去の自分と同じくらい未来の自分は大切なのだ。
***
光希から衝撃的な事実を告げられた夜、俺は自分のベッドの上で川勝家の姉妹について考えていた。
天真爛漫で明るい性格の光希。冷静沈着で落ち着いている光星さん。兄弟で性格が異なることは別に珍しいことではないが、こうも正反対だと信じ難い。それに俺は元々光希とは知り合いだったので、光星さんにもしかすると会っていた可能性がある。そう考えるとこの世界は案外狭いのかもしれない。
ただ、似ているところがないわけではない。例えば顔とか。高い鼻筋、シャープな顎とかはそっくりだ。目元が少し違うから光希には可愛らしさを、光星さんには美しさを感じる。てか、涼太が言ってた可愛い妹って光希のことだったんだな。学校で噂になるのも無理はない。
そしてもう一つ。何よりも、その天才性が俺をどこか納得させていた。学年一位の学力を誇る光星さん、テニス界のホープとして名高い光希。二人とも才能を持つとするのであれば、やはり血筋は関係あるのだろうか。それとも育った環境なのだろうか。理由を考えたところで到底理解は及ばないが、憧れずにはいられない。
色々思うところもあったが、どちらにしろ光希が光星さんの妹だというのは好都合だ。光星さんと話す際の共通の話題として光希を使うことが出来る。これでついに西先生から頼まれていた問題の解決に近づけるだろう。
混沌と安堵の感情が頭の中を入り乱れる中、俺は眠りについた。
その夜、俺は不思議な夢を見た。一人でお花畑にいて、遠く離れた場所にいる女性をただ眺める夢。だが、その女性はあまりに遠くにいたので、顔を認識することは出来なかった。
***
月曜日、川勝光星さんは学校に来なかった。そしてその翌日も、その次の日も彼女は現れなかった。気になって西先生に聞いてみると、風邪をこじらせたとのことだった。そして、彼女はこんなことを言い出した。
「気になるなら彼女の家に行ってみるといいよ。幸い、君は彼女の妹と知り合いらしいじゃない」
「先生は、なんで俺が光希と知り合いだとご存じで?」
「君は私が女子テニス部の顧問であることを忘れたの?名ばかりとは言え、部員と色々話す機会はあるよ」
「なるほど。そういうことですか。でも用事もないのに流石に家まで押しかけるわけにはいかないですよ。光星さんとは、その、あまり話したことはないですし……」
「用事なら作ればいい。ほら、これ……」
そう言って彼女は俺に進路調査票を渡した。まさかこの人……。
「これの提出期限は来週の月曜なんだ。早く渡してあげた方がいいでしょ?」
ですよね!強引な理由でしかないぞ、これは。
「それは……光希に渡した方がいいのでは?」
「馬鹿か君は。折角作ってあげたチャンスを無駄にするんじゃないよ。君は頭はいいのに、こういうことに気付けないんだね」
「分かりました……。先生が男子を女子の家に送り込むのはどうかと思いますが」
「何言ってるの?そんなの君が君の意思で行ったということにすればいいじゃない。私が何かをさせたという証拠はない。進路調査票だって、光希に渡してくれと言ったと言えば誰も怪しまない」
「うっ……」
「ただ変な気は起こさないでね。彼女たちは確かに可愛いが、そればっかりはどうしようもないから」
「できるわけないでしょ!」
彼女はこうして俺を説得した。教師らしいセリフはほとんどなかったが、こうなってしまった以上行くしかない。あまり話したことがない同級生が来て迷惑がられないことを願うばかりだ。
「あ、あと一つ。君は私が思っていたよりも思考型の人間に見える。すぐ彼女に話しかけようと行動しないあたりがね。だから、その思考を補うものとして直観、感覚のどちらかが機能したときは、それに頼ってみるのもいいかもしれない」
「それはどういうことでしょうか?」
「とにかく時には自分の思考以外の判断に頼るのもいいかもしれないってことだ。今日はあまり時間がないから今度詳しく話すよ」
「はい……分かりました」
そう言い残すと彼女は去って行った。思考以外の判断能力に頼ることも必要か……。一応覚えておこう。
***
放課後、俺は光希に住所を聞くため、例の木の下のベンチで待っていた。今日は女子テニス部も練習がない日のはずだ。
強い風が髪と制服を揺らす。先週よりもまた風が暖かくなった気がする。当然だが、時間という存在は誰も待ってはくれない。何かをしてもしなくても、時の経過は誰に対しても平等だ。
五分後、光希は友達二人と共にやって来た。俺を見つけると、彼女は手を振った。
「優輝君じゃないですか~!何してるんですか?」
「光希にちょっと聞きたいことがあってな。待ってたよ」
するとなぜか友人二人が騒ぎ出した。
「もしかして佐々木先輩ですか!」
友人の一人が俺に詰め寄って聞いてきた。高校入学したての女子がなぜ俺の名前を知ってるのだろうか。単純に疑問に思った。光希が俺の話でもしたのかな。
「そうだけど、なんで俺のこと知ってるの?」
「この学校で佐々木先輩のこと知らない人はいないですよ!学年二位の学力を持ちながら、テニス部のエースで県でも上位の実力。おまけに女子人気高いって聞きました!」
「いや、そんな大したことないしモテないよ。だから彼女もいないし」
「そうなんですか!?なんか噂では神崎先輩と付き合ってるって聞いたんですけど……」
「美和とは昔から知り合いなだけだよ。付き合ってはない」
「そうなんですね……」
彼女は心底残念そうに言った。それにしても、俺が一年からも知られているとは思わなかった。それに関しては別にいい。が、お願いだから変な噂だけは流さないで欲しい。美和にこれ以上迷惑をかけないと、あの時誓ったのだ。
「じゃあやっぱり光希狙いですか!美和さんと張り合えるのはこの可愛い生き物だけですよ!」
もう一人の友人が光希に抱きつき、水を得た魚のように聞いてきた。高校一年の女子はどうやら全てを恋愛に結び付けたいらしい。
「そうじゃないよ。光希とは……テニス仲間みたいなもんだよ」
一瞬言葉に詰まってしまった。こいつのことを友達と呼ぶには、きっと関係が複雑すぎる。
すると少し不満げな顔をした光希が会話に入ってきた。
「そうだよ~!優輝君はまだ私の先輩なだけだから!彼氏になるのはまだ先だから!」
「またお前はそうやって……そういう冗談男子は勘違いするからやめなさい」
「えへへ。覚えときます!」
例のごとく敬礼しながら言った。ちょっと動揺したのがバレてませんように。
「えっと、それで優輝君どうしたんですか??」
そうだ。住所を聞きに来たのだった。
「その、光希の家の住所を聞きに来たんだよ」
「まさか……本当に口説きに来たんですか!?」
「違うよ……ちょっと光星さんの方に用事があるんだ」
「ほほう。姉を口説きに行くんですね?私じゃなくてそっちがタイプだったんですか……」
「なぜそうなる……」
「あははは~」
「まあいいや。とりあえず教えて貰うことって出来るか?」
「いいですよ!というか先輩今日暇でだったら一緒に行きます?」
「今日!?」
心の準備が出来ていなかったので、うろたえてしまった。でもそうか。光希について行ったという口実がある方がいいな。ありがとう、光希。
「もし迷惑じゃなかったら、行かせて欲しい」
「はい!是非~」
彼女は敬礼した。するとなぜか友達二人も敬礼した。いや、俺は別に軍隊のお偉いさんとかじゃないんだが……。
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