努力/才能(1)
プロローグと第一話、読んで頂き誠にありがとうございます。
皆様の応援の甲斐あって、なんと日間ランキング44位になりました。
今回は大体第一話の半分の字数です。本当はこの倍あるのですが、あえて二つに分けさせて頂きました。
では、第二話、お楽しみください。
「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」―トーマス・エジソンの有名な言葉。だが、彼は多くの者が解釈している意図でこの発言をしていない。彼はこの発言で、99%の努力も、1%のひらめきがなければ意味がないものであると言いたかったのだ。俺にはまだその1%はない。ただ、ここからが俺のような凡人が知っておくべきことだ。
問:1%のひらめきが生まれるにはどうすればいいのだろうか?
解:その1%が得られるまで試行すればいい
だから、俺は何も諦めることができない。なぜなら、自分の中の才能を信じているから。そして、それがどれだけ険しい道だとしても。
***
今日は新学期二日目。いつものように七時に朝練に行き、テニスコートで一人、サーブの練習をしていた。籠に入っているボールがなくなるまで打つのが日課だ。
テニス部は俺の所属する数少ないコミュニティの一つであり、この競技とはもう十年近くの付き合いになる。俺は引退まであと一年間、この競技の呪縛からは逃れられない。
この学校は進学校であり、部活にそこまで力を入れていない。練習も週四日、平日の放課後に三時間、そして休日は土日のどちらかに半日あるだけだ。以前は朝練もなかったが、自分が無理を言ってコートを使わせてもらっている。普通は禁止されているが、学校からすると思ってもいない所で成果を得られたので、認めざるを得なかったのだろう。
一人で練習しているのは、別に部員と仲が悪いからではない。ただ、目標が違うだけだ。俺はこの県で一位になる為に練習しているが、彼らはどちらかと言えば楽しく出来ればいいというスタンスだ。それに対してどうこう言うつもりはないし、この意識の相違についてはもう折り合いがついている。幸い、テニスは個人競技だ。だから、俺は今日も黙々とサーブを打ち続けた。
***
朝練が終わり、教室に行くと涼太と拓海がいつも通り話をしていた。
「お、優輝!お疲れい」
「おつー」
「ああ。おはよー」
「今年も朝練続けるんだな」
「涼太も一緒にやるか?」
「朝起きれないしテニス出来ないからパスで」
「うん。知ってた」
特進クラスの生徒の半分は部活に所属していない。だから涼太も、拓海も、美和も、そして川勝さんも帰宅部だ。
川勝さんは不思議な女の子だ。彼女が人と話している姿は滅多に見ないが、存在感がないわけではない。むしろ目立つ。例えるなら、教室の中で彼女がいる空間だけベールで被われているみたいな感じだ。だから、どこか環境に溶け込んでいない彼女の方に自然と目が行ってしまう。それは俺が彼女を意識しているだけかもしれない。ただ、彼女が周りから特別な存在として認められているのは確かなことなのだ。
自分の席で本を読んでいる川勝さんが目に入った。さて、どうするのが正解なのか。いきなり話しかけに行くのはあまりにも不自然すぎる。というよりも、まだ彼女に話しかけに行く勇気がない。そうなると、情報収集ぐらいしかできることはない。そもそも、相手について何も知らないのは色々と都合が悪い。
とりあえず俺は目の前にいる二人から聞いてみることにした。
「なー、聞きたいことがあるんだけどさ」
「どうした!恋愛相談か!」
「もしそうだとしたら、涼太には相談しないかな」
「ひどくね!?俺泣いちゃうよ!?」
「冗談だよ。そもそも恋愛相談じゃない」
「ほんとに冗談なのかは怪しいけどな」
「拓海もひどくね!?」
話が全く進まない。今更だけど男子の会話ってまじで中身ないな。俺らだけかもしれないけど。
軽く咳払いをして気を取り直す。
「川勝さんについてなんだけど、どう思う?」
「やっぱ恋愛相談じゃん!」
あー、これは俺が悪かった。言葉足りなさすぎでしょ。
「そうじゃなくて、どういう人なのか知っておくべきだと思って。何か知ってることがあったら教えて欲しいって思っただけだ」
「委員長だもんな」
「拓海は話が早くて助かるよ……」
「だが知ってることはほとんどないな。そもそもクラス違うかったから話したことないし」
「それもそうだな」
確かに去年俺と同じクラスだったやつに聞いても無駄なのかもしれない。
「……そういや、川勝さんって妹いた気がする!」
涼太が思い出したように言った。こいつはこの明るい性格だけあって、他の人達から色々な噂や情報を聞いている。
「え、そうなの?よく知ってるな」
「去年の文化祭遊びに来てたんだよ!めっちゃ可愛い子がいるって」
「へー、そうなのか。知らなかった……」
「でもそんなこと聞いてどうするんだ?」
「話のタネ位にはなるかと思ってな。助かったよ。二人ともありがと!」
「俺は何もしてないけどな」
「そんなことないぞ。今日はそうだったとしても、俺はいつもお前に助けられてるよ」
「お、おう。ありがと」
拓海は面食らったような反応をした。こいつのこういう反応新鮮だな。何か困った時はとりあえず褒めておこう。
「俺も褒めてー!」
「また今度な」
そんなこんなで予鈴がなったので、素早く席に戻った。やはり頼るべきは友だ。
***
昼休み、美和とその友達の佐藤さんに同じことを聞いてみた。佐藤さんとは去年も同じクラスだったので、話しかけやすくて助かった。
すると、佐藤さんがこんなことを教えてくれた。
「確か昔誰かが、なんでこんなに勉強出来るのって聞いてたかも!」
彼女の学力については俺も気になっていた。
「それでなんて返したの?」
「なりたいものがあるから、だって!」
「なりたいものか。それが何か分かったりする?」
「ごめん、分かんないかなー。なんか教えてくれなかったって言ってた」
「そっかー。でも面白いこと聞けたかも!ありがと!」
笑顔でそう答えると美和が口を挟んできた。
「なんでそんなこと聞いてるの?」
「これから一緒に仕事するのに、何も知らないのもって思ったからだ」
「そんなに気になるなら直接聞けばいいのに?」
「そうしたいのはやまやまなんだが、なんて話しかければいいか分からん」
「そんなの簡単じゃん。あなたのこと知りたいから色々教えてくれない?って聞けばいいだけ」
「いや、それ普通に怖くない?」
「まーね。私ならそう思うかも。けど、実際似たようなこと聞かれる時はあるよ」
「お前も苦労してるな……。ただ、言えるわけないよ」
「だろうね。にしても、あんたが人に興味を持つのは珍しいじゃん」
やっぱりこいつは長い付き合いなだけあって、俺の考えることをよく分かってる。実際、自分で言うのもなんだが他人にあまり興味を持つタイプではない。ここは美和の友達もいることだし、とりあえず上手くごまかすことにした。
「失礼な。俺は誰に対しても興味を持って接してるよ?」
「それはそれでキモイけどね?」
そんな屈託のない笑顔で言うような言葉じゃないんだよな……。
「美和は……優輝君と話してる時は生き生きとしてるね」
「ん?そんなことないよ?ただ付き合いが長いだけ」
「ふーん?ほんとかなー?」
「あんたもなんか言いなさいよ!」
そう言うと美和は軽く俺を睨んだ。
「いや、ここで何かいっても火傷する未来しか見えん」
「つまんないこと言うな!」
発言と同時に俺の背中を結構強く叩いた。この細い身体のどこにそんな力あるんだってぐらい痛かった。だが、その痛みと引き換えに面白いことが聞けた。やはり何かを得る為には対価が必要だな、と感じた。いや、どう考えても今回は対価は必要なかったよね?
***
俺がチキンなこともあり、結局川勝さんと話す機会のないまま一週間が過ぎた。そして桜が殆ど散り去った頃に新入生が入学した。入学式の時に桜が散っているのはこの学校の七不思議の一つだ。
正直、新入生が入学したことで何かが変わるとは思っていない。俺はこれから出会う人を選べるわけでもないし、願ったところでドラマチックな出会いなどそう易々と起こらない。ただ、そういう出会いはいつだって突然訪れるものだ。
***
入学式のあった日の放課後、俺はいつものように部活に向かっていた。更衣室でウェアに着替え、テニスコートに行く。すると、なぜだか人が少なかった。
「なー山崎、なんか人少ないけどどうしたんだ?」
俺が今話しかけたのはテニス部の主将である山崎裕太。この学校では三年になると基本部活を引退するので、こうして二年が部長を務める。彼はこの部活でもテニス歴が長く、割と上手い。
「女子の方で凄い新入生が入ってきたらしい。おまけに可愛いときた。もう皆練習そっちのけで王子コートの方に見に行ったよ」
テニスコートは学校内に二面、そして王子動物園コート、つまり外部のコートの二面を使用している。月初めに、男女でどちらをいつ使うかを定めているが、今日は女子が外部コートを利用する日だ。
「それは災難だな。というかそんなに上手いのか、その新入生?」
「可愛いには反応しない当たりがお前らしいな。なんか全国でも結構名が知れてるプレーヤーらしいぞ?」
「へー……。それは確かにちょっと気になるな」
「もう練習どころじゃないし見に行ってみるか?」
「ああ、そうしようぜ」
こうして俺たちは王子コートへ向かうことにした。テニスコートを離れ学校を出ようとすると、校門近くで新入生が目をキラキラさせ談笑していた。髪型とかちゃんとセットしてる男子が女子と話しているのを見て、ふと思う。青春とはなんと幅広い意味を持つ言葉だろう。部活に勤しむこと、勉強を頑張ること、友と語り合うこと、異性と交流すること。どれも青春と呼べるものであり、大人はそれを眩しいと言う。だがそんなこと、今を生きている俺たちには分からない。数年後、こういう何気ない瞬間を思い出すときが来るのだろうか。もしそうなら、後悔のない青春時代であって欲しいと思う。
***
王子コートに到着すると、男子部員十人程がフェンスに噛り付いていた。その姿はまるで、動物園でライオンを見る子供のようだった。その情熱を練習に向けて欲しい……。
「なーに練習さぼってんだよっ!」
俺は後ろから、フェンスにしがみついていた男子部員の肩を抱いた。
「うおっ!びっくりしたー!……て、なんだ、優輝か」
「そうだよ、お目当ての美少女じゃなくて悪かったな。で、どの子だ?」
「あれだよ、あの青のウェア着たショートカットの子。まじで上手いぞ」
「へー。どれどれ……?」
フェンス越しにコートを眺めると彼女の姿があった。身長は平均的な女子くらい、青のウェアに、青白のフレームをしたラケットを持っていた。そしてその彼女は、なんと俺にもよく見覚えのある人物だった。
「――光希?」
ドラマチックな出会いは往々にして突然訪れるものだ。そしてそのたった一つの出会いが、自分の世界を簡単に変えてしまうこともある。
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