プロローグ
初投稿です!
普通のラブコメではなく、心理学が要素として絡んでくる作品となります。
楽しんでいただけると幸いです!
「恋が芽生えるには、ごく少量の希望があれば十分である」――フランスの小説家、スタンダールの『赤と黒』より。
***
高校一年を締めくくるホームルームが終わると、足早に別館の屋上へ向かった。いつもより賑やかな本館を抜け、別館へ入る。カツカツと自分が歩く音が大きい。静かだ、と思う。この静寂は、これから起きる出来事の緊張感を纏っているかのようで、足取りが重くなる。
屋上の真新しいドアの前に到着すると深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
俺は今から告白される。
ドアを開けると、女の子が立っていた。ショートカットで外はねの、綺麗というより、可愛らしくて愛嬌のある感じの子。彼女は俺と同じ特進クラスの生徒で、友人経由で何度か話したことある。しかし、二人でちゃんと話すのは初めてだった。
「ごめん!待たせた?」
「いや、全然!今来たとこ!」
俺は努めて明るい声で彼女に話しかけ、彼女も微笑んで答えた。しかしその表情にはどこかぎこちなさが残っている。
「もー、ほんま西先生のHR長すぎて嫌になるわー」
沈黙を避け軽口を叩いた。こういう時の関西弁の人懐っこさにいつも助けられている。標準語も悪くないが、関西弁にも良さがある。
「ほんと一組じゃなくて良かった……毎日一時間は得してる」
「一時間は流石に言い過ぎやわ。四十五分ってとこかな」
「いやほぼ変わらんよ!」
彼女は軽くツッコミを入れるとくすくすと笑った。少し表情が和らいだのを確認すると、俺は新しく話題を振ることを止めた。場は整えた。これ以上の雑談はお互いにとって意味がない。
「で、今日はどうしたの?」
告白だということは分かっているが、先ほどよりも神妙な面持ちで彼女に尋ねた。
沈黙が数秒流れ、地上から下校中の生徒の声がはっきりと聞こえた。神経が研ぎ澄まされているからか、今はどんな些細な音も耳に入ってくる。
「……その、……優輝に伝えたいことがあって」
「―うん」
真っすぐ彼女を見つめる。うつむきがちな彼女の顔を見ると、目は潤み、顔は真っ赤になっていた。そして、彼女は意を決したように大きく息を吸い、顔を上げた。
「……好きです!付き合ってください!」
彼女は俺に告白した。
俺は彼女を直視できず、視線を上に向けた。空は彼女の顔のように赤く染まっていた。
再び空白の時間ができる。ただ、今回は俺が意図したものであった。この無意味とも思える時間は、正しく告白を断る為に必要な間だ。
三月の冷たくも暖かくもない、どっちつかずの風が吹く。
罪悪感に苛まれ、心臓がキュッとなる感じがした。俺はこんなにも真剣な思いを伝えてくれている相手に向き合おうともせず、可能な限り波風を立てず断る方法を考えていた。
「その……まずは何よりありがとう。こんな俺でも好きになってくれる人がいるなんて、全く思いもしなかった」
まずは素直に感じたことを彼女に伝えた。だが、告白に対する返答が変わるわけではない。
「ただ……君とは付き合えないんだ。ごめん……」
やはり告白を断るのはいつになっても慣れない。あいつはこういう時どう感じてるんだろうか。そんな関係のないことを考えていると、彼女が震えた声を発した。
「理由を聞いても、いい?」
虚ろから現実に帰る。彼女を見ると、拳はぐっと握られていて、その目からは涙がこぼれ落ちそうだった。いったいどう答えるのが正解なのだろうか。考えてみても結局納得のいく言葉を捻出できず、いつもの定型文を伝えることにした。
「その……言葉にすると恥ずかしいんだけど、俺は一番になりたいんだ。なってみたいの方が正しいのかもだけど。どちらにしろ、今はその為に部活と勉強を頑張りたい。だから、君と付き合うことは出来ない。ごめん……」
何をやっても良くても二番止まりの俺にとって、これ以上に便利な言葉はない。
「そっか……優輝はそうだよね。それはしょうがないや」
彼女は納得したようにため息をつき、荷物を手に取った。
「じゃ……また四月ね!今日のことはもう忘れてくれていいから!」
彼女は早口でそう告げると、ぱたぱたと小走りで去っていった。
忘れていいから、か。きっと彼女はこのことを忘れないだろうし、俺にも罪悪感は残り続ける。少なくとも今まで通りの関係という訳にはいかないだろう。これが彼女の「選択」がもたらした「結果」だ。
何かを得る為には何かを捨てなければならない。そんな当然のことは分かった上で彼女は告白したはずだ。そのリスクを背負ってまで彼女を行動に移させた「恋」という感情が俺にはまだ理解できなかった。俺もいつか誰かと恋に落ち、損得抜きで行動できるのだろうか。少なくとも――未来の俺は分からないが――今の俺にとっては無縁の感情だ。
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