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【完結】アカシックレコード  作者: 白黒羊
第捌章 紅龍顕現篇

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EP62 眠る

「私は先導者などではない。……支配者(ドミナード)だ」

ドミナードの手にはバロティアが握られていた。

「ドミナード…様…」

銃を構えていた警備兵は一瞬にして死んだ。

「ああ…そんな…」

「シアンテ。お前は一体何をした。申してみろ」

「わ…私は、王の命令に従って…この星を破壊しました」

シアンテの声は震えていた。

「使節に私の部下がいたにも関わらずか」

「…はい。申し訳ありません…」

「あれは部下ではなく私自身だったのだ。シアンテ」

「そ…そ…それは…」

「この王の肉体も復元するのに苦労したのだ。コイツの細胞を拾いそこに刻まれたDNAから全身を復元したのだよシアンテ。……お前が死ぬ理由には充分だな」

シアンテは上半身を縦に裂かれ、内臓が飛び出して死んだ。

「私に逆らうからこうなるのだ」

シアンテを乗せていた宇宙船は爆発した。

「さて、まずはドラゴプロクスの力を試そう」

ドミナードはボルケーノに乗り、隣接する銀河へと移動した。

――――――――――――――――――――

一方、王都レグーノ。

「王、プレシス銀河惑星管理局から通達です。惑星オヂハ、ニービ、ションスタルが続けて破壊されました」

「この気配、遂に目覚めおったか、ドラゴギゥイル。艦隊を用意しろ」

「かしこまりました」

「それとシアンテにも連絡を」

「それが…ウルカンへと向かった調査船との通信が途絶えまして。恐らく大破した模様です」

「仕方あるまい。ダーパ管理施設に直接連絡しろ。今から俺の管轄下とする」

「かしこまりました」

すぐさまオディオグループの人間に連絡が行き、そのまま施設内のモナードヴェンとの直接回線が開いた。

「モナードヴェンと言ったな」

『は』

「ダーパは今いくつある」

『現在稼働可能な物は合計で三十六砲です』

「その全てを積んでプレシス銀河を囲むように配置しろ。銀河ごと奴を消す」

――――――――――――――――――――

ダーパを乗せた船はオーバーワールドを抜け、発射位置に固定された。その一つの管制室にリベル・ロブ・ケイサルはいた。

「了解。リベル様、全機発射準備完了です」

「カウント省略。発射」

「了解。全ダーパ発射」

36の黄色い光線がプレシス銀河を貫いた。

その光景を目の当たりにしていたリベルに一本の通信が入った。

『ヘリー銀河にてこれまでと同様の被害を確認。対象は現在も移動中と思われます』

「モナードヴェン、次弾の用意は」

「三十分程で」

「すぐに取り掛かれ」

「ハッ。全機、第二射用意。再充電開始」

「目標はヘリー銀河。準備出来次第発射せよ」

「かしこまりました」

「それと常時通信回線を開いておけ」

「ハッ」

「クレイブス、俺の船を用意しろ」

『かしこまりました』

リベルは管制室を後にした。

――――――――――――――――――――

『ダーパ再充電完了。直ちに発射します。発射しました』

「了解」

ちょうど同時に、リベルの戦闘機を先頭に進む艦隊がオーバーワールドを抜けた。

ダーパに破壊され、超臨界状態となったヘリー銀河は、光があらゆる方向に拡散し、パイロットはホワイトアウトした。視界が眩い光に包まれ、方向感覚を失った。

「全機に告ぐ、俺が道を作る。後に続け」

『『『了解』』』

リベルは船から出るとドラゴゲネシスの力を解放した。

分解され辺りを漂っている粒子を集め、艦隊を覆う円柱形のトンネルを創造した。

「奴はどこだ…!」

「リベル様、三十四時の方向に超高エネルギー反応!」

「三十四時か」

リベルは左斜め前にトンネルを伸ばした。

「俺のことはいい。撃ち方始めッ!」

艦隊は搭載する全砲口を一方に向け、攻撃した。リベルは背中に盾を創ることで被弾を避けた。リベルはなおも進み続けた。そして、会敵した。

「ドラゴギゥイル!」

「ようやく来たか。ドラゴゲネシス。待ちくたびれたぞ」

「黙れ。闇を葬るのが王の定め。ここで貴様を討つ」

「いや違う。お前を喰らうのはこの私だ」


ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン


トンネル内に轟音が響き渡った。

リベルが振り返ると、艦隊は火を上げてトンネルの底へ沈んでいった。

「ギャアアアアアッッッ!!」

炎の渦の中から、ボルケーノが咆哮した。

炎はボルケーノの左右に広がった。

「万事休すか?ドラゴゲネシス」

「なんの」

リベルはドミナードの眼前に迫った。森羅光封剣を握っている右腕を掴み、捻じ曲げる。

バキッという音がした。ドミナードの右腕の骨は砕けた。

「どういうことだ。痛みが無いのか?」

「痛覚の接続を切っているだけだ」

「接続だと?」

ドミナードはリベルの首を掴んだ。

「私は寄生しているに過ぎないからな」

ドラゴギゥイルはドラゴゲネシスへの侵入を図った。しかし、ドミナードの左手は破裂した。

「やはり魂がある上での同調は無理か」

ドミナードの両手は再生した。すかさず拳がリベルの腹に入る。

「グフッ」

次の瞬間、リベルはトンネルに背中を強打していた。

「ガハッ」

ボルケーノはリベルに炎を吐いた。

リベルに近づき打ち込んだはずの拳は、トンネルの壁に貫通していた。

「まずはドラゴプロクスをどうにかせねば」

リベルは無数の槍を創造した。そしてそれを一気にボルケーノに投げつける。

やがて一本の槍がボルケーノを突き、先端がトンネルの壁に突き刺さった。それと同時に、ボルケーノは数百の槍によって壁に固定された。

リベルは最後の一本を、自らの手でボルケーノの首に突き刺した。ボルケーノは槍の先端付近を貫かれていた右手を基部にまでずらした。槍には赤い血の道ができた。そしてボルケーノの手はリベルの体を覆った。

しまった、リベルはそう思った。だが手がリベルに触れた瞬間、リベルはある記憶を見た。

『よろしくな、ボルケーノ』

そう声をかけた男はドラゴギゥイルと瓜二つであった。

『イスカ…ドコダ…イスカ…』

次の記憶では、宇宙空間を漂う岩石―――ウルカンの欠片―――の狭間でイスカという男を探すドラゴプロクスの姿があった。

「そういうことか」

リベルの意識は現実へと引き戻された。

「待っていろボルケーノ。イスカは必ず救い出してみせる」

リベルがボルケーノに手を重ねると、ボルケーノの手は開いた。


「クソ。ドラゴプロクスを先に吸収するべきだったか?」

刹那、ドミナードを光の矢が貫いた。

「なんだ…」

「目を覚ませ!イスカ・ケイサル!」

ドミナードの前には、覚醒した、巨大な翼を広げたリベルがいた。

「ボルケーノが待っているぞ」

リベルはドミナードに向かって、ドミナードに憑依されたイスカに向かって叫んだ。

「共に平和を乱す者を討ち倒そうぞ」

ドミナードは頭を抱えた。

「何だこれは…何かが流れ込んで…記憶…?この青年のか…!」

ドミナードはさらに悶絶した。

「グァァァ!やメろ!オレに…従エ…!」

ドミナードはトンネルの壁を破壊し、そのまま遠くへと飛んでいった。

「待てッ!」

リベルはドミナードの後を追った。


その頃モナードヴェンは、ダーパにより次々と銀河を破壊していた。壊された銀河は、物質の臨界後、銀河中央の楕円形ブラックホールに全て飲み込まれていった。ブラックホールはその中心から上下にエスタルダストのジェットを放出していた。

やがてそのエスタルダストは、エスタルダストを放出し切ったブラックホールに吸収され、新たな銀河形成の礎となるのだが、それには莫大な時間を要する必要があった。


ドミナードはブラックホールの間を抜け、惑星間を抜け、小惑星帯の間を抜け、道を塞ぐ惑星を、恒星を、破壊して進んだ。

ドミナードは自らの腹を殴り、頭を左右に振った。

「ハァッ!ハァッ!落ち着け。落ち着け」

再び光の矢がドミナードを貫いた。

「ガッ!」

「ドラゴギゥイル!」

リベルはもう一度矢を放った。矢はドミナードの右手を貫いた。リベルの手から放たれた縄は森羅光封剣をリベルの手元に引き寄せた。

「ボルケーノ…助けて…」

ドミナードは微かな声で呟いた。


「ウォォォォォォォォォォォォォォ」

遠くの銀河で、龍の遠吠えが響いた。槍の刺さっている傷口から血が吹き出した。その勢いのまま槍が抜けた。炎をまとったボルケーノは呼び声のもとへ向かった。


「覚悟しろ、ドラゴギゥイル」

リベルはドミナードに斬りかかった。ドミナードは逃げた。

逃げつつ星を砕き、欠片をリベルに投げつけた。リベルはそれを森羅光封剣で切断した。

リベルは翼で強く空間を押した。

「ダアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

リベルは森羅光封剣をドミナードの胸に突き刺し、そのまま太陽に叩きつけた。

剣を抜き、すぐさま太陽から離れる。一瞬の間だったが、リベルの皮膚は溶け始めていた。

「倒した…ドラゴギゥイル…」


バーーーーーーーーーーーーーーーーン


リベルの背後で超新星爆発が起きた。

「なんだ!?」

「ハハハッハハハッ!」

「…ドラゴギゥイルッ!」

リベルは森羅光封剣を握りしめた。

「全テ…壊ス…」

ドラゴギゥイルが全方位に放った衝撃波は星を容易く粉々にした。リベルは厚い壁を創るも、いとも簡単に破られてしまう。

衝撃波がドラゴゲネシスに達する瞬間、リベルは炎に包まれた。その炎は波の媒介物質を消滅させ、止めた。

「ドラゴプロクス…」

『ドラゴギゥイルハオレガ止メル。オ前ハソノ間ニ銀河ヲ封ジロ』

「まさか…お前…」

『出来ルダロウ?』

「ああ。任せろ」

『……アリガトウ』

一瞬の間にそれだけの会話をすると、炎を纏ったドラゴプロクスはドラゴギゥイル目掛け飛んでいった。

ドラゴギゥイルの身体を掴むと一気に炎を放出した。

「ヤメロ、ヤメロォォォォォ!」

『サヨウナラ…イスカ…』

ボルケーノの声を聞いたイスカ・ケイサルの顔は笑っていた。

ドラゴプロクスは自らの炎の全てを放った。炎は銀河中に広がった。

崩壊は再生を上回り、ドラゴギゥイルの肉体は消滅した。

力尽きたドラゴプロクスはゆっくりと目を閉じた。


ドラゴゲネシスは銀河の外に出た。

そして天の川銀河の周りにあるブラックホールを集め、銀河を囲むようにブラックホールを繋ぎ合わせた。

銀河から吹き出した炎がリベルの前に一瞬だけ広がった。

「ありがとう、ドラゴプロクス」

リベルはブラックホールを完全に閉めると、森羅光封剣を手に、レグーノへと戻っていった。

――――――――――――――――――――

力尽き、長い眠りについたドラゴプロクスは、銀河の中のとある星に流れ着いた。ドラゴプロクスの意志が介することはなくして、その星に赤い血を引く生命体が生まれた。


リベルはモナードヴェンの一連の行動を称え、モナードヴェンに、天の川銀河にある一つの星を与えた。それは天の川銀河内の監視という目的もあった。そしてリベルはモナードヴェンの移住後、ブラックホール一帯を立ち入り禁止区域に指定した。

さらにリベルはレコーダーに、二度と闇が蔓延ることのないよう光の歴史を書に記させた。その書は後に、プラヴィーロレコードと呼ばれるようになった。



森羅光封剣に突き刺された際に付着していた、ドラゴギゥイルに冒された細胞の断片には、誰も気づくはずもなかった。

――――――――――――――――――――

「以上がこれまでに起こった、我が父シアンテ・ラ・オディオと現王リベル・ロブ・ケイサルの癒着事件の概要であります」

「なるほど。よく分かった。下がりたまえ、ミルマ君」

シアンテの息子、ミルマ・ユ・オディオは十一の貴族への報告を終えると、指示通り退席した。

「先導者は死んだ。これで宇宙は我々のものだ」

「しかしオディオはでしゃばりすぎた。しかるべき処置が必要だ」

「左様」

「まずはあの兵器、ダーパとやらを使用禁止にすべきだ」

「しかし今の王はもはや我々の手に負えぬ。代わりが必要だ」

「でしたら私の孫などどうでしょう。彼なら間違いなく従順でしょう」

「他の子はどうする。四男だろう」

「殺すほかあるまい」

「決まりですな」

「全ては我らの手の上で」

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

黒い霧が空を覆う時代、イギリス。

切り立った崖に造られた住宅地。そこに敷かれた長い階段の中腹にある集合住宅の一室に、男と女が暮らしていた。


コンコン


女は扉を二度ノックした。

「あなた?開けますよ?」

部屋の中で、男は窓辺の机に突っ伏したまま眠っていた。

女はトレイを机の空いたスペースに置いた。

「あなた、あなた、起きてください。朝食をお持ちしましたよ」

女は男の体を揺らした。

「んん…。ああ、君か。おはよう」

「また執筆中にお眠りになったのですか。体を痛めるとあれ程申しているでしょう」

女は部屋のカーテンを開けた。その日は珍しく、太陽が顔を見せていた。朝日が机の上にある真っ白な原稿用紙に降り注いだ。

「怒らないでくれよ。君はいい笑顔をするんだから」

「呆れているのですよ。馬鹿なこと言ってないで、冷めないうちに朝食を召し上がってください」

「ああ、今はやめておくよ。素晴らしいアイデアが浮かんだんだ」

「起きて早速執筆ですか。全く仕事熱心なのかそうじゃないのか」

「夢を見たんだ。紅い龍と青年の」


その後、男の知り合いが営む国中で唯一の店舗でのみ発売された男の小説、『紅龍顕現録』は、ほとんどの在庫が店に残り、その店も家事で焼失してしまった。残された『紅龍顕現録』は、男の持つ一冊だけになってしまった。その本は、子供達に代々読みつがれていったのであった。

第捌章 紅龍顕現篇 完


この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。

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