EP59 裏切り者
翌日、逮捕者の事情聴取と特定人物への面会が始まった。
サピスは地下の冷たい部屋の椅子に一人縛られていた。
「まさかあなたまでいたとは。サピス先生」
ボルザーノが静かに扉を閉めた。
「やはり駄目でしたか。僕の政治は」
「……」
サピスは項垂れたまま黙っている。
「何とか言ってくださいよ。あなたを疑いたくはない」
「やはり貴方は、期待通りの人間です。王」
ようやくサピスが口を開いた。
「え?」
「革命の日は、三ヶ月後、だそうです」
「三ヶ月後…?先生、ご存知ですか。メフェチオンはセルシアと繋がっているのではないかという噂を」
サピスは顔を上げ、ボルザーノの目を見た。ボルザーノは頷いた。
「最後の戦いが始まります」
「三ヶ月後か…」
今度はボルザーノが口をつぐんだ。
「どうなされました、王」
「それまでに…不安の芽はつまないといけないのです」
サピスは目を見開いた。
「誰かに騙されたのでしょう?なら教えて下さいよ。誰にやられたんですか」
ボルザーノは声を荒げた。
「それとも…生徒は裏切れないですか」
サピスは再び項垂れた。
「メフェチオンの中には、僕と共に学んだ者もたくさんいた。先生、僕を優先してはくれないですか」
「弟子は皆…平等だ…」
サピスは震える声で、その一言だけを呟いた。
「そうですか。なら、裏切り者もまた平等です」
ボルザーノは王の剣バロティアを抜いた。
「あなたを、そちら側には行かせない。あなたが裏切るくらいなら、僕が殺します。…サピス先生、あなたを尊敬しています。感謝もしています。それから…」
「イスカ君、まだ斬らないのかい?」
ボルザーノは勢いよくバロティアを振り下ろした。
「メフェチオンのリーダーは君か。ニルマニ・パース」
ボルザーノはニルマニの前にいた。ニルマニは全てを諦めた風だった。
「どうだろうな。確かに扇動はしたが。俺の組織じゃないしな」
「そうか」
「俺もここまでか、イスカ」
「ああ。僕が直々に刑を下すよ」
「そりゃ、光栄な事だな」
ニルマニは薄汚れた天井を見つめていた。
「なぁ、イスカ。俺達、どうして変わっちまったんだろうな」
「僕は変わってない。お前が父の後を追っただけだ」
「お前なんて言葉は使わなかったよ。俺のよく知るイスカ・ケイサルは」
「どうして僕のもとを離れた。父親の背中なんか追いかけるから、同じ剣で死ぬことになるんだ」
「……待てよ。お前が父上を…殺したのか?」
「そういえば、死因は濁したんだっけか」
「知らねぇよ。そんな事は。俺は聞いてねぇ」
「なら、死ぬ前に知れてよかったな」
「ふざけんじゃねぇ。俺は死なねぇ。お前を殺すまではなァ!」
突如ニルマニが飛んだ。体を捻って、縛られている椅子ごとボルザーノにぶつかった。ボルザーノは倒れた。
ニルマニは壁に体当たりをした。四度目で椅子が壊れた。破片をボルザーノに投げつけた。
「あああああああああああああああああああああ」
ボルザーノは叫び、床に拳を叩きつけた。
「クロリア・パースが、僕の父上を殺したからだろッッ!」
「うるせぇ!そんなことは関係ないッ」
ニルマニはまた破片を投げつけた。ボルザーノはそれを片手で払い除けた。
そして立ち上がり、バロティアを抜いた。
「とっとと死んでくれ。ニルマニ」
ボルザーノは小走りで近づき、バロティアを振り下ろした。ニルマニは刃を左腕で止めた。
「…ッ、着ていたのか」
言い終わる寸前にニルマニの右拳がボルザーノの顔面に入った。すかさずボルザーノの右腕を握りしめ、自らの左腕から剣を抜いた。同時に腹に足を入れ、蹴り飛ばす。バロティアはニルマニの手にあった。
「イスカ!お前はいつも二言目には処刑だ。人を殺すことしか脳にない」
ニルマニがボルザーノの前に立ちはだかる。そして足を上げ、踏みつけた。
「ちが…。そんなことは…」
「ヴァゴダスの時もそうだ。何故全住民を殺した!」
「…平和の…為だ…ガッ!」
再び踏みつける。
「人を殺すことが、お前の平和かッ!」
ニルマニには聞こえない声でボルザーノが呟く。
「なんとか言えよ!」
今度はボルザーノの体に蹴りを入れた。
「どうしろってんだよ!他に方法があるとでも言うのか!?全ての人間を従えるのに最善な方法が!仕方ないだろ!?他国の民は権威を見せつけて、恐怖で支配するしかないんだ。教えてくれよニルマニ。未熟な僕に。下手に動けば殺される状況下で、どこの馬の骨とも分からない奴にボルカニアの王位が奪われる危険性だってあったあの状況下で!僕はどうすればよかったんだ…?」
「お前が父上を殺していなければ、そんなことで悩む必要もなかった」
ボルザーノはまた蹴られた。
「なんだよそれ…。結局、仕方ないことじゃないか。……そうだよ、仕方ないんだよ。クロリアを殺したことも、ヴァゴダスの住民を殺したことも、ボルカニアの兵士を失わせたことも。…お前を殺すことも」
ボルザーノは飛び跳ね、ニルマニを下敷きにして倒れた。馬乗りになり、何度も顔面を殴る。
「イス…カ…やめ…」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!うるさい!うるさい!くたばれ!とっととくたばれよ!」
ニルマニの手が弱々しくボルザーノを引っ張った。ボルザーノは構わずニルマニを殴り続けた。そして親指と中指でニルマニのこめかみを掴み、石でできた床に頭を何度も叩きつけた。
やがてニルマニは動かなくなった。ボルザーノは泣きながら、それでも手を止めなかった。
広がる血溜まりの上に雫がこぼれ落ちた。
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その日、イーロピアの住民達は城前に集められた。そしてボルザーノが登壇した。
「今日は最後のお願いの為に集まってもらった。三ヶ月後、セルシアが我が国に侵攻を開始することが判明した。これが最後の決戦となる。皆、力を貸して欲しい。ついては、訓練既終者の全男子を徴兵する。徴兵非対象者には食糧の確保と非常時の戦闘準備を要請する。全てはボルカニアの恒久の平和のために」
後日、ボルカニア兵に向けての大号令が行われた。
「決戦は二ヶ月後。予定より早く、こちらから仕掛ける。この情報はセルシアに繋がっていた反政府組織から漏らした情報が元になっている。もう二度とやられぬ様に、我々がやる他あるまい」
それから兵士個人の強化や、隊列の訓練、新型兵器の訓練などがボルカニア中で始まった。
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数週間前、ボルカニアに、王に謁見したいという商人のがやってきた。ボルザーノはそれを許した。
彼らは星々を転々とする武器商人だと名乗った。商人はボルザーノに銃を見せた。これこそが勝敗を決する切り札だと確信したボルザーノは、その銃を大量に購入した。
商人の代表はドラゴンを見たいと言い出した。ドラゴンは珍しい生き物で、宇宙を飛びまわる彼も二度しか見たことがないとも言った。
ボルザーノは友好の印として特別に許可した。檻の中で、ボルケーノは眠っていた。
「素晴らしい。本物だ」
代表は思わず声を漏らした。
「末永く宜しくお願いします。ボルザーノ様」
そう言って握手を交わした。
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あっという間に時は流れ、ボルカニアの作戦行動が始まった。セルシア南西部にある諸島に、どちらの国にも属さない者達の小国家が点在していた。
ある日、その近海を通行していたボルカニアの商船が襲われる事件が起きた。それを受けたボルカニアは小国家連合に軍事侵攻。すぐさま占領し、島々に軍事拠点を建設した。
足元に爆弾を仕掛けられたセルシアは、ボルカニアの新設した軍事拠点に偵察隊を向かわせた。拠点に上陸した一行は、ボルカニアに対して立ち行きを要求した。
ボルカニア側は理由が不当として要求を却下。偵察隊一行を送り返した。
するとセルシアは、先の戦闘にてセルシアの商人がボルカニア軍により殺されたとしてニマ大陸に上陸。侵攻を開始した。
ボルカニアは侵犯を理由にセルシアに侵攻。ここにボルカニア・セルシア戦争が始まった。
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「うっ…」
セルシア王妃アミタは頭をおさえた。
「どうした、アミタ」
「いえ、少し頭痛が。ですが大丈夫です」
「そうか。酷ければ医者に診てもらえ」
「かしこまりました。少し、自室で休ませて頂きます」
「ああ。そうしたまえ」
「ありがとうございます」
アミタは部屋に入り鍵をかけ、カーテンを全て閉め布団の中に篭った。
「ついにいらっしゃるのですね。プロクス様。ああ、なんてこと……」
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相変わらずボルザーノ・ケイサルは先陣を切ってセルシアの大地を馬で駆けていた。
ニマ大陸に侵攻したセルシア軍を無視して、手薄になったセルシア本国を一気に攻めるという大胆な作戦をボルザーノは立てたのであった。
「止まれ」
隊列は丘の上で止まった。
「あの街が第一目標地点、ニルコフ村だ。予定通り今夜はあそこに宿を取ろう。総員突撃用意だ。まだ銃は使うな。剣、槍、弓のみ使用を認める」
「「「ハッ」」」
突然、ニルコフ村から火の手が上がった。
「なんだ、許可なく攻撃した者はどこのどいつだ!?」
一同は辺りを見回した。
「やはりな」
ボルザーノはそう呟いた。
「となると…奴ら、自らの村を犠牲にしやがった」
「どういうことですか?」
作戦隊長のカピテナが問うた。
「我々は本来泊まるはずの宿を失った。余計に進まざるを得なくなった。近場の街を大急ぎで調べろ。邪魔が入る前に占領するぞ」
「進行予定ルートからは外れますが、西に進んだところに小さな村が」
僅かな相談の上でカピテナは進言した。
「やむを得ん。第一班と二班は私に続け。残りはニルコフ村を完全に破壊した後に合流だ。指揮はカピテナに任せる。タブラ、道を示せ」
「「「ハッ」」」
「「かしこまりました」」
ボルザーノと最優秀の2つの班は目的地であるダンバ村目掛け馬を走らせた。
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一方、ニマ大陸。セルシア軍上陸地点。そこでセルシア軍は足止めを食らっていた。その上乗ってきた船も破壊され、状況は最悪に近かった。
「なんてことだ。銃も効かないなんて!」
「カタパルトは!?」
「見ろ!あそこだ!」
歩兵は岩陰から指をさした。
「投擲開始!」
巨大なカップの中から石の塊が投げつけられる。
「命中率、およそ二割四分三厘!」
「ダメージは?」
「ありません!」
カタパルト群はあっという間に焼き尽くされてしまった。
「おのれドラゴン。まさに悪魔か」
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




