EP58 ニマ大陸平定
宇宙の中心地であり王都、惑星レグーノ。
時の王リベルは十三人評議会メンバーであり、バジュラ銀河を統括するオディオ家当主、シアンテ・ラ・オディオを呼びつけ、バジュラ銀河団に起きた異変―――ドラゴプロクスの復活―――の調査を命じた。
初代十二神将バジュラから、ドラゴプロクスの話は代々オディオ家に語り継がれていた。
ある日、王の作った剣によって封じられた、宇宙を葬る炎を操る紅の龍の封印が解かれた。バジュラは龍と戦い、再び龍を封印した。龍は銀河の外れにある惑星へと落ちた。
シアンテはドラゴプロクスの話を先導者に相談した。
『私の部下を一人派遣しよう。彼と共にまずはその星へ調査に向かえ』
先導者はそう言った。後日、先導者の部下を名乗るアポロスという男が現れた。
シアンテは惑星ウルカンへと調査隊を派遣した。
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「奴の館を打ち壊し、港を確保しろ」
クランクルム王デヘランを殺し、クランクルムの王位までを継承したボルザーノ・ケイサルは、旧首都である
ヴァゴダスに到着した。
その頃にはボルザーノの指示通り、ヴァゴダスの全住民が捕虜として広場に拘束されていた。
ボルザーノはクランクルム人を見下ろしてこう言った。
「我が名はボルザーノ。ボルカニアの統治者なり。我はパリゴの丘にて前王デヘランを殺し、クランクルム王の称号を得た。して、貴様らには我を崇め付き従う義務がある。案ずるな。全ては平和の為である。我が夢は、統一国家ボルカニアのもと平和な世界を造ることである」
ボルザーノの背後で、ボルカニア旗が掲揚された。
「我はこれから全てのクランクルムの都市を制圧する。我に協力する者はおるか」
ヴァゴダスの住民達は誰一人として手を上げなかった。
「そうか。分かった。王と共にクランクルムの誇りを持って死ぬのもまた一興。総員抜剣。王に反する者を殺せ」
住民の周りを取り囲むボルカニア兵が剣を抜いた。
「何をしている。早く殺せ」
ボルザーノは吐き捨てた。
「おおおおおおおおおお」
一人が住民を突き刺した。
「「「おおおおおおおおおお」」」
それを皮切りに一人また一人と剣と鎧を赤い血で染めていった。
ボルザーノはその様子を満足げに眺めていた。
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三日後、ボルザーノは宣言通り旧クランクルム諸都市へと攻撃を開始。いづれも一日足らずで攻め落とし占領した。
ヴァゴダスの悲劇と呼ばれる大量殺人を知っていた諸都市の住民達は、王に従う他なかった。
クランクルムの完全征服後、ボルザーノは各都市でパレードを行いながらボルカニアのイーロピアへ凱旋した。およそ二ヶ月ぶりの母国の土であった。
ボルザーノは帰国後、戦勝パーティーもそこそこに、すぐさま政務に取り掛かった。ボルザーノはサピスや各国の哲学者、政治家などと協議し、統治体制の概要を固めた。
まずボルカニア、ギラルド、クランクルムの各都市に知事を配置した。知事にはその土地の有力者が選抜された。そして半年に一度、イーロピアにて王を交えた定例報告会を開催することとした。報告会への旅費は税金が使われた。
そしてボルカニアに金銭という概念が生まれた。これはセルシアと貿易をするクランクルムから取り入れた物であった。セルシアには古来から金銭が使われていたという。
これにより物の価値基準が明確に定まった。税の徴収も格段にや行われやすくなった。
各地域から腕利の大工が高給で集められ、破壊された街の再建が行われた。
始めこそボルカニア統一に不満を持っていた者たちも、実は以前と同等かそれ以上の生活が保障されていることに気付き始めた。
ボルカニアという国全体で見ると、ボルザーノの望む平和が築かれつつあった。
そう、国全体ではである。ボルザーノの残虐性を取り上げ不満を持つ者は少なからず存在した。そして彼らはボルザーノに征服された側の人間とは限らなかった。ボルザーノの命により多くの人命を奪ってきた者達。中でも最も不満を持つ男、ニルマニ・パース。
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その頃のニルマニは恩師サピスのもとを訪ねる回数が増えていた。そしてその都度、ボルザーノの政治体制、ましてやボルザーノ自身を批判した。
「王の支配の根底にあるものは恐怖だ。一時的にはそれで抑えられるかもしれないが、恐怖が元となって不満に変わり、暴動が起これば元も子もない。やはり彼は王になり得る人間ではないですよ」
「またそれか。ニルマニ、理想を語るのもいいが現実を見ろ。元ギラルド、クランクルムの土地からも毎月定額の税が納められているんだ。ある程度認められているということだろう。私もイスカ…ボルザーノ様の体制は悪くないと思っているよ。おかげで仕事漬けで忙しいがね。はははっ」
サピスは笑った。
「何笑っているんですか。人が死んでいるんですよ!」
「お互いにな。そして先に仕掛けたのは向こうだ」
「それだって、父上が殺されなければ…」
「ニルマニ、父の肩を持ちたい気持ちは分かるがクロリア・パースを持ち上げるのはやめろ。彼は裏切り者だ。少なくとも世間の風潮ではな」
兵士に対してはクランクルム侵攻前に、民衆に対しては全てが解決した後に、ボルザーノは前王ピュリスを殺しクランクルムと繋がっていた内通者をクロリア・パースと発表した。そして彼はクランクルムがボルカニアに侵攻した当時の騒動の中で何者かに殺されたとも発表した。
「ニルマニ、理想を語れるのは平和な時だけだよ」
「…また来ます」
ニルマニはサピスの部屋を後にした。扉が強く閉まった。
「ふむ」
サピスは息を吐いた。
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ニマ大陸の海の向こう、セルシア。シアンテの調査隊はその首都リーガビラサトラスに降り立った。
そしてセルシア王クロチオスに謁見した。
「お主らか。星の彼方から来た使者とは。確かに見ないなりだな」
「は、王よ。しかし口の聞き方には気をつけた方がよろしいですよ。我々の最新鋭の兵器にかかればこの惑星を木っ端微塵に破壊することもできるのですよ」
「ははは、面白い。是非お目にかかりたいものだ」
バンッ
アポロスは発砲した。王の背後の壁に銃弾が痕を作った。
「なんだ今のは。弓矢ではあるまいな」
「これは拳銃という代物でしてね、この小さな弾丸を勢いよく弾いて飛ばすんですよ」
「人に当たれば…?」
「撃ちどころにもよりますけど、頭は胸は即死でしょうね」
一斉に警備の騎士達が王の前に壁を作る。
「いやいや、別にあなたを狙おうなんてそんな野蛮な事はしませんよ。少しばかり立場をわきまえて頂こうと思いましてね」
「先ほどの愚行を詫びよう。して、あなた方は何故このような星に?」
「よくぞ聞いてくださった。あなたは龍を見ましたか?」
「龍?ドラゴンか。遠くの地で目覚めたという話は聞いた」
「ほう。それはいつ頃?」
「ドラゴンに用がお有りなのですか」
「はい。それと、ドラゴンを封印する剣にね」
「なるほど。確か一年程前だったかと。ちょうどボルテノン山の噴火の時期ですな」
「その山というのはどちらに?」
「海の向こうの国、ボルカニアです」
「訪問して我々に譲渡してくれるでしょうか」
「どうでしょう。何せボルカニアの王こそが、ドラゴンを操る者ですからね」
調査隊の面々は互いの顔を見合った。
「親愛なる友クロチオスよ、我々に一つ提案が」
「聞きましょう。いかがいたしましたかな?」
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ニマ大陸平定から七年。破壊された街も活気を取り戻した。イーロピア郊外の街、アジレデグ。そこに反国家組織図メフェチオンの本部がある。そして夜な夜な集会が開かれていた。
「今日は強力な助っ人をお連れした。お入り下さい」
そこに姿を見せたのは賢人サピスであった。
「サピス様だ」
「初めて見たぞ」
「本物だ…」
メフェチオンのメンバーはそれぞれ口を開いた。
「ニルマニ…これは…?」
そんな中、固まっていたサピスが話し始めた。
「現体制に異を唱える152人の勇敢な者達の集まりですよ」
「違う…私は…」
サピスが唯一の扉に目を向けた瞬間、その視界をニルマニが遮った。
「ニルマニ、嵌めたな」
「さて、何のことでしょう。私はただあなたに協力して頂きたいだけですよ」
「国務大臣と外務大臣が味方につけば百人力だ」
誰かがボソリと呟いた。サピスは声の方を向いた。悲しげな顔がそこにあった。
「…分かった。話だけは聞こう」
「革命の日は、三ヶ月後」
ニルマニは話し始めた。
「イーロピアで無人の聖堂を燃やします。鎮火に手を回している間に、城に乗り込みます。後は我々で王を抑えるのみ」
「聖堂を燃やすだ?馬鹿言え、聖堂は石造り…まさか、改修工事?」
「ええ。クランクルム襲撃時に破壊された聖堂は木造で再建されました。最初期メフェチオンメンバーの指示でね」
「君が創った組織ではないのか、ニルマニ」
「ええ先生。私も招待された側です。つまり…」
「既に王に不満を持つ勢力があった。ということか」
「御名答」
誰かが口笛を吹いた。
「待ってくれ。君達、本当にそんな事が成功するとでも?」
「何が言いたいのです、先生」
「誰には向かおうとしているのかということだ。ボルザーノ・ケイサルは今までの王とは違う。彼には天性の才能がある。彼は齢十九にして、このニマ大陸を平定したんだぞ。有史以来の出来事だ。誰にも成し得なかった事だ。何故彼にそんな事ができたと思う、守護者だ。彼は伝説上の存在だった守護者を従えた。それが彼の才能だ。守護者がいる限り、ボルザーノは倒れない。君達、いい加減目を覚ますんだ。暴動なんか起こして、被害者が出たらどうする」
「それはあり得ない。我々の計画は完璧だ」
ニルマニは声を荒げて遮った。
「そんな保証は無いのだよ。未来は誰にも分からない。いつどこで、何が起きるかなんてね。君達は計画に十分な自信を持っているようだが、真に成功する計画とは、実行直前まで練り込まれた物だよ。ボルザーノも、自身の計画におごることなど無かった。ボルカニア・ギラルド戦争の時だって、馬の上でまで確認を怠らなかった。そう、第三騎馬隊として荒野を駆けたあの時もだ。ここにも居るのではないか?共に彼と駆けた者が」
事実その通りであった。だからこそ、誰も何も言わなかった。
「王には私が話をつけよう。まだ間に合う。馬鹿な事はよして、平和に暮らそうではないか」
「耳を貸すな、人殺しの作る平和など偽りだ」
「君達も、王を殺すのだろう?」
「な…」
「平和には犠牲が付き物だ。彼は王になった瞬間から、全てを背負う覚悟があった。何故その男を、信じてやらんのだ」
再び部屋に静寂が訪れた。
「突入ーッ!」
が、その一言により静寂はすぐさま掻き乱されてしまった。
扉が蹴破られ、外から兵士が入ってくる。
「保安部だ。全員手を上げろ。拘束する。…サピス政務大臣…」
「致し方あるまい。話は牢で、という事だろう?」
サピスは両手を上げた。
「ええ。拘束しろ」
王城にて。
「メフェチオン一同計百五十二名、加えて一名を捕らえました。これがそのリストです」
「ご苦労」
ボルザーノはカピテナから用紙を受け取った。
「愚か者共が」
ボルザーノは罵倒した。そして誰にも聞こえぬ声で呟いた。
「どうして…」
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




