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【完結】アカシックレコード  作者: 白黒羊
第捌章 紅龍顕現篇

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EP57 ボルザーノとボルケーノ

ボルカニア王子イスカ・サンドラの処刑後、クランクルム軍は突如としてボルカニアの街に攻撃を開始した。

男は暴行を受け、逆らえば殺された。女子供の中には強姦、暴行の末に死ぬ者もいた。

ノトスガルブスで、シャルクで、建物は破壊されて跡地に火が放たれた。

その後、クランクルム軍は首都イーロピアに侵攻。その地で未曾有の大虐殺が起こった。

月のない夜空に人々の力無い悲鳴が響いていた。


バーーーーーーーーーーーーーーン


その音はボルカニア中に轟いた。そして全ての街で、噴き上がる灼熱の溶岩が見られた。

溶岩流がシャルクの街を襲った。流れ込むドロドロの溶岩に

街が飲まれていった。クランクルムの放った火など、溶岩流の前ではとるに足らないものであった。建物も、畑も、ボルカニア人もクランクルム人も、全てが飲み込まれた。

噴石はイーロピアまで届いた。大小様々な冷却された溶岩の塊が雨の如く降り注いだ。噴石が頭に直撃した者は即死だった。例え兜を被った兵士であっても、頭が潰されて死んだ。さらに建物の屋根も破壊された。石畳の街は粉々に粉砕された。

そして火山灰は、ボルカニア全域に積もった。南西の端にあるノトスガルブスでさえも、真っ黒に染まった。そしてそこを占領するクランクルム兵の呼吸器を害した。

――――――――――――――――――――

噴火の勢いで空の彼方まで飛ばされているイスカは、そこで下界の様子を目にした。クランクルム兵が街に侵攻し、ボルカニアの秩序を破壊する様子を。

「許さねぇ…。許さねぇぞ…。僕がこの手で…一人残らず…」

イスカは伸ばした左腕の黒焦げた皮膚を見た。イスカの前にに何かが再び姿を現した。

「ドラゴン…」

『主ヨ。私ノ背ニオ乗リ下サイ』

イスカの脳内に声が響いた。ドラゴンの手がイスカの胴体を掴んだ。そしてイスカを翼の付け根に乗せた。

『主ヨ。私ノ血ヲオ舐メ下サイ』

ドラゴンは自らの腹を爪で切りつけ、血をイスカの両手の椀の上に垂らした。

イスカはその血を舐めた。黒焦げた皮膚はみるみる修復し、内側から力が漲ってくるのを感じた。

「主って?」

『私ノ眠リヲ覚マシテクダサッタ。貴方ガ主ダ』

ドラゴンは翼だけを動かしその場で止まった。

「僕はこの国の、ボルカニアの王だ」

『ハッ。ヤルベキ事ハ分カッテオリマス。貴方ノ怒リモ』

「まずは、裏切り者を処刑する」

『直チニ』

イスカを乗せたドラゴンは目下のシャルクへ急降下した。



一方、ボルカニア軍事大臣のパースはクランクルム軍将軍のギネルに詰め寄っていた。

「どういう事ですか!?何故我が国に攻撃を?」

「この国の民は君のような理解ある者だけではないからね。王を殺した今、この国の指揮権は我々にある。国民をどうしようが国の勝手ではないか」

「話が違う!民の血は流さないと約束した筈だ!」

ギネルの両肩を掴んだパースはクランクルムの兵士に引き剥がされてしまう。

「我が軍にも莫大な被害が出ているのだ。お前らのボルテノン山の噴火のせいでな」

「そんな…自然災害じゃないか…」

「いいか!火山の噴火にも予兆くらいはある筈だ。それが分かっていたなら日程を変更していたさ。お前のせいで、クランクルムの兵が死んでいるんだぞ!」

「無血譲国を始めに破ったのは…」

そう言いかけたパースはギネルに蹴り飛ばされた。

「敗者にとやかく言う権利は無いんだよ」

「貴様…」

ギネルは声を張り上げた。

「全クランクルム兵よ。撤退だ。馬に乗れ。なければ奪え。祖国に帰りたい者は私に続くのだ」

迫り来る溶岩流、降り注ぐ噴石。シャルクの壊滅も目前であった。


「私は…」

崩壊していくシャルクの街で、一人パースは土を掴んだ。

「クロリア・パースッッ」

呼び声がして、パースは顔を上げる。イスカが剣を振り上げ、落下してくる姿が見えた。

「イスカ様…ボルカニアを頼みます。ピュリス様…誠に…申し訳ございませんでした…」

イスカの着地と同時にパースの首は落ちた。血飛沫を浴びた刃の先端が地面に突き刺さった。

イスカの背後にドラゴンが着地する。

「溶岩流を止めるぞ。シャルクが危ない」

『オ任セヲ』

ドラゴンは飛び上がると、火山の周りの土を消した。溶岩流は谷底へと流れ落ちていった。

ドラゴンは超低空飛行のまま、ジャンプしたイスカを背に乗せた。

「クランクルム兵を追え。ボルカニアを出る前に始末する」

『承知』

ドラゴンは速度を上げた。

――――――――――――――――――――

一夜が明け、ギネル率いるクランクルム兵一行は、ノトスガルブス近辺で西部駐屯地にいたボルカニア兵に遭遇した。

「道を開けよボルカニア兵ども。この際邪魔をせぬ者は殺さぬ。命が惜しくば武器を捨てておとなしく従え」

「誰がテメェらなんぞを通すものか」

「お前らが還る場所は土の中よ」

槍を向けるボルカニア兵に退く気配はない。

「イーロピアは陥落した。そこで大勢のボルカニア人が死んだ。これ以上死人を増やしてもいいのか」

集団の先頭にいるギネルは一喝した。

「俺達の戦意を削ごうだなんてそうはさせねぇ。俺達はお前らを許さねぇ」

「徹底抗戦あるのみだ」

「どいつもこいつも愚か者共が…。総員抜剣ッ」

「待って下さい!」

ボルカニア兵とクランクルム兵。その間に一人の男が割って入った。

「貴様は?」

「ボルカニア軍事大臣クロリア・パースの息子、ニルマニ・パース。やめましょうよ、こんな時まで戦争なんて」

「聞いていなかったのか、貴様らが退けば済む話だ」

「それは話が良すぎる。ボルカニアの人々をたくさん殺しておいて、撤退するから退けはないでしょう?」

「何が言いたい」

「ひとつ条件がある」

「何?」

「ボルカニアの王位を返還しろ。王位継承権は王が承認した人間か、王を殺した人間かにある。イスカ・サンドラの訃報は知っている。今、ボルカニアの王位は貴方にある。それを譲って欲しい」

「断れば?」

「殺してでも取り返す」

「貴様、本当は王位を狙っていたな?」

「好きに言ってろ」

「…面白い男だ。いいだろう。条件を飲む」

「理解ある王で助かります。こちらの誓約書にサインを」

ギネルが騎上で用紙を受け取り、筆を取った瞬間であった。一瞬、日が陰って暗くなった。しかし次の瞬間には、血を被ったイスカ・サンドラの姿と、頭と体が泣き分かれになったギネルの姿があった。

「イスカ…」

「皆の者ご苦労であった。後は任せろ」

ドラゴンがクランクルム兵の上に着地した。そして火を吐いて兵士を焼き殺していく。ある者は体を掴まれて潰され、ある者は尻尾に跳ね飛ばされた。

ボルカニアの兵士達はその様子を、糾弾する訳でもなく手を叩いて称賛する訳でもなく、ただただ見つめていた。


やがて荒野に静寂が訪れた。

「僕は死んでいない。王は僕だ」

イスカは側にいるニルマニに聞こえるように呟いた。そして叫んだ。

「我がボルカニア兵よ、これより我らはクランクルムに侵攻し攻め落とす。装備を整えよ。出発は明日の早朝である」

「待って下さい、王よ」

ニルマニは制止した。

「いくらなんでも無茶苦茶です。準備にはもう少し時間が…」

「何をしていた」

イスカはニルマニの言葉を遮った。

「え?」

「僕が父親殺しの罪を着せられた時、クランクルムの連中がボルカニアに攻め入った時、僕がクランクルムに殺されそうになった時、僕らがクランクルム兵を殺した時。一体お前達は何をしていたんだ。僕は力を手に入れた。これは勇者の剣。このドラゴンは護り神。伝説の力だ。僕は王だ。逆らうなら殺す」

イスカは一気にまくし立てた。再び乾いた空気が走る。

「王よ。私はとうにボルカニアとその王にこの身を捧げた者。王と共に戦います」

一人の男が片膝を立て宣誓した。

「私も」

「私も」

「私も」

そうしてボルカニア全兵がイスカ・サンドラの前に屈した。

「お前はどうする。ニルマニ・パース」

ニルマニは腰を折った。

「私はこの身をボルカニアの恒久の平和の為に捧げます。そして平和を望む王と共に心中する覚悟をここに誓います」

イスカは静かにニルマニを睨みつけた。

「皆の決意は聞き入れた。共に平和な国を作ろうぞ」

イスカは剣を持つ右手を高々と突き上げた。

「「「……おおおおおおおおおおお」」」

剣先から血が滴った。

――――――――――――――――――――

日は沈み、再び輪郭の一部が顔を出した。

「総員、出発」

西部駐屯地からボルカニア兵、千三百五十三人が飛び出した。その先頭を行くのが、将軍イスカ・サンドラ。


夜明け前、作戦会議にて。

「僕はドラゴンに乗り城に攻め込んでクランクルム王デヘランの首を取る。お前たちはその間にクランクルムの首都を占領しろ。武装した人間は殺せ。住人は全て捕虜として捕らえ、逆らうものは躊躇なく殺せ」

意見する者は誰一人としていなかった。


「速度を上げろ」

『承知』

イスカとドラゴンが集団を飛び出した。

――――――――――――――――――――

クランクルム首都、ヴァゴダス。王の城を中心として周囲を壁で取り囲んだ難攻不落の街。そこに龍の影が落ちた。人々が空を見上げたときには、城から煙が上がっていた。

城壁を破壊し内部へと侵入したイスカは王の寝室に向かった。そこに王はいなかった。イスカは城中を探したが見つからなかった。代わりに妃と娘を捕まえた。

「そう遠くまでは行ってないはずだ。ヴァゴダスの壁を封鎖し外に出た者の中からしらみ潰しに探せ」

『承知』

ドラゴンは飛び立った。

「さてと」

イスカは女二人に向き直った。

「デヘランの行き先に心当たりは?」

椅子に拘束された二人は床を見つめたまま黙り込んでいた。

「俺の敵はボルカニアの平和を乱す奴らだ。あんたらに危害を加えるつもりはない。素直に吐け」

「…クランクルムは決して屈しない」

「ほう。面白い」

「将軍、只今到着いたしました」

扉が開き、第一部隊長カピテナが姿を現した。

「予定通りか。よくやった。カピテナ、デヘランを捕まえろ。ヴァゴダスから脱した者を全て取り調べるのだ」

「仰せのままに」

ピュッと、イスカは指笛を吹いた。壁をこじ開け、ドラゴンが現れた。

「デヘランはカピテナに任せた。お前はこの街を焼き尽くせ」

『承知』

「やめて!パリゴの丘よ!そこに隠れ家がある。そして近くの港から国外に…」

「だそうだ。カピテナ、行け」

「ハッ」

カピテナは部屋を後にした。

ドラゴンは上昇し、空中で一度旋回すると口から炎を吐いた。

「どうして!今言ったでしょ!嘘じゃ無いのよ!」

「吐こうが吐くまいが、僕は始めからこの街を火の海に変えるつもりでしたよ」

「そんな…どうしてそんな酷いことを…」

「それはあなたの夫にでも聞いて下さい。イーロピアの虐殺は元から計画されていたのでしょう?」

「虐殺…?あの人が…?」

「信じられないって?じゃあ何故嫁も娘も置いて自分は逃げているのですかね」

「な…」

「…して」

デヘランの娘が呟いた。

「今なんと?」

「殺して…。あのクソ親父を…」

「ラミレナ!?」

母は娘を見た。

「あいつの命も国の命運もどうでもいい!だから私を自由にして!」

イスカはラミレナを見た。

「自己保身に走るか」

「悪い?あんただって、自分の命が一番可愛いんじゃないの?」

「さぁ、どうだろうな。かく言うお前も、男がいる時点で根拠に欠けるけどな」

「なっ…」

「セルシアの上流貴族だっけか。それぐらいの詮索は当たり前だぞ。隙を見てセルシアに逃げようだなんてそうはさせない。ただ、危害を加えないと言った手前、このまま手を下すこともできない。だから…」

イスカはラミレナを椅子ごとドラゴンのこじ開けた壁の前に動かした。

「要求を飲もう。ほら、これでお前は自由だ」

「いや…」

恐らくどう着地しても死ぬ高さだ。ラミレナの声は震えている。

「安心しろ。デヘランは必ず殺すし、婚約者もすぐそっちへ送ってやるから」

「あ…あぁ…」

ラミレナは前へ体重をかけた。

「ラミレナ!」

妃が叫んだ。イスカは手を二度叩いた。

「こいつを連れて行け」

「「ハッ」」

ボルカニアの兵士がイスカの命令に従う。イスカはラミレナの落ちた淵に立ち、ドラゴンの吐く炎によって燃え盛るヴァゴダスを見下ろした。

「さてと」

ピュッと、再びイスカは指笛を吹いた。ドラゴンが目の前に現れた。

「パリゴの丘へ向かうぞ」

『承知』

イスカはドラゴンの背に飛び乗った。

――――――――――――――――――――

「あの家か。総員突入用意」

ボルカニア兵が扉に近づく。

「突入!」

カピテナの号令により扉が叩き破られ、ボルカニア兵が侵入する。クランクルム王デヘランはそこにいた。

「お前がデヘランだな?」

「いかにも」

「何故これ以上逃げなかった」

「セルシアの船に乗り逃亡する手筈だった。だが裏切られた。ここに着いた頃には、船なんぞ一隻も残ってはいなかった」

デヘランは首を垂らしたまま、簡素な椅子の上に座っていた。

「将軍の御成です」

「ご苦労、カピテナよ」

「ハッ」

カピテナは頭を下げた。

「想像よりも年寄りだな。デヘラン」

「お前がピュリスの出来損ないの一人息子か」

「その僕に殺されるんだから、そんな滑稽な話はないよな。クランクルムは頂くぞ」

「ニマ大陸全域を統治するなんぞ、小童のお前には無理だよ」

「ニマ大陸だけじゃない。僕はこの星の全てを治めるんだ」

「はははははははは、そりゃご立派な理想なこった。何故四つの国に分かれたのか覚えているのか、え?」

「ボルカニアのもとに全てを平定する。お務めご苦労であった。デヘラン・リナ・イデアム」

イスカはデヘランの首をはねた。

「これでクランクルムも僕のものだ」

「おめでとうございます。イスカ王」

「ありがとう。カピテナ」

イスカは外へ出た。そしてパリゴの丘の頂きへと登った。

「イスカ王というのもあれだ。締まりが無い」

イスカは勇者の剣を空高く掲げた。

「僕は勇者じゃない。統治者だ。これは王の剣、バロティア」

イスカの元へドラゴンが降り立った。イスカは剣先をドラゴンに向けた。

「僕はボルカニアの統治者(ザーノ)。お前はボルカニアの守護者(ケーノ)。僕の名前はボルザーノ。お前の名前はボルケーノだ」

ボルケーノはゆっくりと頷いた。

「よろしくな、ボルケーノ」

ボルケーノは天に向かって吠えた。

イスカも天を仰ぎ、それを掴んだ。

「やってやるよ。立ちふさがる敵全部倒して、僕が平和な国を作ってみせる」

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

「ドラゴプロクスが目覚めた。今こそ奪還の時」

十三人評議会の発足から数百年。彼らの地位は確固たるものになっていた。時の王、リベル・ロブ・ケイサルは十三人評議会に従うだけのこの体制に、密かに不満を募らせていた。そして王の真価を、森羅光封剣に求めたのであった。

この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。

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