EP55 父と子と
十二神将の指導のもと、各銀河団は続々と復興を遂げていった。
そしてこの日、原初の十二神将の末裔である十二の貴族の当主が先導者という存在によりレグーノ銀河団の辺境にある、とある惑星に集められた。
その十二貴族とは、クビラ銀河団代表、アウタス家。シンドゥーラ銀河団代表、バラディ家。メキーラ銀河団代表、リーズ家。アンディラ銀河団代表、デヌラル家。マジラ銀河団代表、ダス家。シャンディラ銀河団代表、フリマヌール家。インドラ銀河団代表、ケトラント家。ハイラ銀河団代表、オラビルド家。マハーラ銀河団代表、ラックチャネル家。バジュラ銀河団代表、オディオ家。チャトゥラ銀河団代表、ラッセライ家。ヴィカーラ銀河団代表、ロスシルターン家である。
『皆、よくぞ集まってくれた。まずは私のみこのような通信という形になってしまっていることを詫びたい』
「はっ、先導者様のご意向とあらば、我々は従うのみでございます」
『ありがとう。それでは君達に集まってもらった理由を話さなければいけないね。隠すことはない。私の目的は王を消し、私がこの宇宙の王になることだ。その為にはまず、王の力、権限を弱める他ない。そこで私は王に、各銀河団の代表である君達との十三人による合議制で政治を進めることを進言する。今の王は歴代に比べ政治的手腕が劣っている。必ずやこの誘いに乗るはずだ。十三人評議会。君達はそのメンバーになってもらい、何世代にも渡ってゆっくりと、しかし確実に王から政治的決定権を奪え。これは命令だ。今までの恩に報いてみせろ。役に立たないなら、その家を滅ぼし代わりを立てるだけだ。誰か意見のある者は?』
場は静まり返っている。
『伝えるべきことは伝えた。私はこれで失礼するよ。あとはそっちで親睦を深めるなり好きにやってくれ。何せ今日から君達は競争相手ではなく共に任務に携わる仲間なのだから。事が上手く運べば、一ヶ月後。そこで正式に十三人評議会は設立される』
再び場に静寂が訪れる。
先導者。その存在は十二の当主の前に人を介して突然現れ、彼らを導くことで莫大な富と権力を与えた。そして彼らは一銀河団の主にまで上り詰めた。彼らは自然と先導者を崇め、先導者の言う事は絶対であった。
「先導者の言う通り、今までの我々は市場の独占を狙う良き競争相手であった。だがこれからは手を取り合って…」
「手を取り合ってどうする。競争は資本主義経済の必須事項だ」
「貴様、先導者に背く気か」
「そんなつもりはさらさらない。だが散々歪み合ったアンタらと仲良くする気もない」
「面白い」
「確かにそれも一理あるな」
「とにかく一ヶ月後だ。先導者の指示を待とう」
一ヶ月後。王の発表した新たな増税により遂に反乱を起こした平民を宥めた各銀河団の代表達は、王と平民の合意の下に十三人評議会を設立した。
生活が安定すると平民は徐々に政治への関心を無くし、時と共に十三人評議会の存在は忘れ去られていった。
事は全て先導者の思惑通りに運んでいた。
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バジュラ銀河団天の川銀河にある惑星ウルカン。その星はかつての八億年の争乱時にドラゴメイドが逃げ隠れた場所であり、炎の使徒が土地を開拓し暮らしていた。
意見の違いから使徒達は四つの部族に分かれ、その部族は後にそれぞれの国を作った。その四つの国とは、セルシア、ギラルド、クランクルム、ボルカニアである。
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活火山であるボルテノン山の麓に位置する小国ボルカニア。時の王、ピュリスは酷く頭を抱えていた。ようやく産まれた一人息子のイスカに、武の才を見受けることができないからだ。
四大国最弱のボルカニアの軍事制度を立て直し、いよいよこれからだという時に後継が育たないことは彼にとってかなりの痛手だった。「お前のような奴にわしの夢は預けられない」が彼の口癖であった。
イスカは産まれて間もなく母親を亡くし、政務で忙しい父親にも構ってもらえず、親の愛を受けずに育った。幼きイスカはすぐに泣いた。困ったピュリスはイスカを国随一の天才と称されていたサピスという哲学者に預けた。イスカは弁論術、文学、科学、医学、哲学を学び、中でも哲学を好んだ。
サピスも、背丈も小さく弱気なイスカに武は不向きだと進言した。落胆したピュリスは側近から養子を取ることも考えていた。それを知った側近のパースは、張り切って自らの息子、ニルマニの優秀さを訴えた。
「先生」
イスカはサピスを先生と呼んでいた。
「どうしたんだい、イスカ君」
「先生は勇者の剣と護り神の伝説を信じますか?」
「まだ誰も見つけたことのないというあの?」
「そうです。僕、その剣を探したいと思います」
「馬鹿なことを言うのはよしなさい。あなたは次期国王ですよ」
「……。でも僕には父上のような力は無い。だから証明したいのです。僕の力を」
「武の才だけが王に必要な素質ではありません。王は民衆の上に立ち導く者です。皆をまとめる力がなければ」
「その時は先生を頼ります。だから僕には力が必要なんです」
イスカは走ってどこかへ行ってしまった。
「全く、人使いの粗い王子だ」
「何?勇者の剣だぁ?そんなお伽話をぬかしやがったのかアイツは!?」
「申し訳ありません、ピュリス様」
「もうよい。次の戦でアイツを第三騎馬隊の将に任ずる」
「今何と…?」
「戦果を上げて死んでもらうのだ」
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長く緊張状態にあったボルカニアとギラルドであったが、二方向に陣を展開したボルカニアの先制攻撃によりその火蓋は切って落とされた。
右翼前方にピュリス率いる本陣があった。その脇に控える第三騎馬隊将軍こそが、イスカ・サンドラであった。
ピュリスは会敵後すぐに後退した。
ギラルド軍は吉兆と見て一気に軍を推し進めた。
ボルカニア軍軍事作戦会議にて。
「何、後退だと?」
「そうです。恐らく僥倖と勘違いした敵は突っ込んでくるでしょう。それを待ち構えていた一万の兵で討ちます。敵陣には少数が残されることとなり、それを私が討ちます」
「お前が?」
「はい」
「出来るのか?」
「やってみせます」
「ほう。わしはお前を信じる。聞いたか皆の者よ。わしの下に騎馬に優れた者を集めよ。必ずや騙し抜こうぞ」
イスカ率いる第三騎馬隊――結果の残せない捨て駒の集まる最底辺の隊――はギラルド本陣に向かって走っていた。
「流石イスカ様でありますな。このような素晴らしい作戦を思いつくなど。まさに天才であります」
「…まぁな」
イスカはサピスの独り言を思い出した。
「兵を二つに分けると聞いた。それならば一度退いて迎え討とう。兵のいない本陣を左右から討つといい」
「なるほど」
「おっと、声が大きかったかな。すまないね」
僕に期待してくれている人たちがいるんだ。勝利で報いなきゃいけないんだ。
「速度、上げるぞ」
「「「おおおおおお」」」
数刻後。
「見えた。ギラルド本陣。このまま突っ込むぞ。全騎前進」
「「「おおおおおお」」」
途端に戦場に風が吹いた。荒野の土を巻き上げ、兵士の視界を遮る。轟く馬の足音。立ち上がる砂埃。その中にイスカら第三騎馬隊はいた。
槍の先を敵に向け、騎馬隊は本陣へと突撃する。
「敵襲だ!矢を放て!」
ギラルド側も駐在する兵士で応戦する。長槍を前列に配置していた。
イスカは考えた。
まずい。砂埃で相手に正確な位置を悟られていないのはいいが、それはこちらも同じ。どこから矢が飛んでくるか分からない。どうする…どうする…。
「矢が突き刺さっても止まるな!俺たちゃァ所詮使い捨てよ!ならこの命、イスカ様に献上しようぜェ!」
「「「おおおおおお」」」
背後を走る兵士が先頭に出てイスカの肉壁となる。
「イスカ様、絶対に敵の将を討ち取ってください」
風が止んだ。視界が開ける。敵との距離、歩幅数歩分。
「突き刺せェェ!」
ボルカニアの槍がギラルドの喉を突いていく。
地平線の向こうから、新たな騎馬隊が向かってきた。
勝った。イスカはそう思った。
この戦場にボルカニア左翼部隊が合流した。
「ガリマ!」
一瞬目を話した隙に、敵の投げ槍がガリマの胸を貫いた。
「進めェ!ボルカニアに勝利をォォォ!」
すまない…ガリマ。
「ああああああああああああッッッ!」
イスカは速度を上げる。敵の真横を突っ切っていく。矢、投げ槍、カタパルトによる投石。それら全てがイスカには当たらなかった。
見えた!ギラルド王カレス!その首貰い受ける!
「ギラルド王カレスッ!覚悟ッ!」
イスカは腰の剣を抜き、背後からカレスの首を落とした。そして方向転換し、剣の先に首を突き刺して高々と掲げた。
「取ったぞォォォォォォ!」
「「「おおおおおおおお!!」」」
ボルカニア兵から歓声が沸く。
「一時後退。後方の支援に回るぞ」
イスカ一行はすぐさま、決戦の続いているボルカニア本陣へと向かった。
「ピュリス・サンドラの息子イスカが、ギラルド王カレスの首を取ったぞッッッ!」
イスカは再び剣を突き上げて叫んだ。戦場にいる全兵の耳にイスカの声が響いた。
そして硬直したギラルド兵に次々とトドメを刺していく。
ボルカニアはギラルドに勝利した。
その後にボルカニアはギラルドに軍隊を派遣し、ギラルド全土を占領。ボルカニア王ピュリス・サンドラはギラルドの統治権を正式に得、ここを併合した。かつての四大勢力に激震の走った戦争であった。
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ギラルド併合後、ピュリスはかつての首都であったアテネにて祝勝会を行なった。勝利した兵士達の為にありったけの酒が集められ、豪勢な料理が振舞われた。
酔ったピュリスはイスカを呼び付け、盛大に彼を持ち上げた。
「よく聞けお前ら!我が愛しのイスカが憎きカレスを討ち取ったのだ!かつては哲学ばかりやりおって武の才は無いと嘆いておったが、決してそんな事はなかったのだ。そもそも、一時後退し敵を油断させるという天才的な作戦であったことが我々が勝利した大きな理由と言える。そしてこの作戦を考案したのは誰だ!?そう、イスカである。さぁお前ら杯を上げろ!我らが英雄イスカ・サンドラに乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「ちょ、父上、飲み過ぎですよ…!」
「ほらほらイスカ様、あなたもお飲みになられて下さいよ」
「そうですよ、我らの英雄様」
「えぇっと…」
昼に始まった宴は深夜まで続いた。
お開きとなった後、寝床に着こうとしていたイスカの部屋に使用人がやって来た。
「イスカ様、ピュリス様がお呼びでございます」
「父上が?」
イスカはピュリスの部屋に向かった。
「父上?」
戸を二回ノックする。
「おうイスカか。入れ」
「失礼します」
イスカは部屋の中へと入った。ベッドに横になっていたピュリスが上半身を起こし、壁に寄りかかった。窓から入る月明かりがピュリスを照らしていた。
「愛しの息子よ、お前に話をしておこうと思ってな」
「何ですか、急に改まって」
「へへへ、話がしたくなったのじゃ」
どうやら相当酔っているようだな。イスカはそう感じた。何せこんなに丸い父親を初めて見たのだ。
「ほれ、そこに座れ」
「はい」
イスカは言われた通りにベッドの近くにあるテーブルの椅子を動かして父親と向き合って座った。
ピュリスは窓の外を見つめていた。
「思えば、少し前までは養子を取って跡を継がせようかと考えていた」
「…はい」
「知っておったか」
「まぁ…風の噂でというか…」
「ははは、口外するなと言っておいたのに。秘密は簡単に漏れるものだな」
「そう…ですね…」
「でもなぁ、今は違うぞ。次の王はイスカ、お前だ。金も、軍も、国も、わしの全てをお前にくれてやる」
「……」
「どうした、嬉しくはないのか?」
「僕に出来るでしょうか。まだたった一度しか吉報を上げていないこの僕が」
「大きな一度だ。自分を誇れ」
イスカは自分の手を見ていた。ピュリスがその様子を見て微笑んでいることには気づかなかった。
「今日は星がよく見える」
再び窓の外を見て、ピュリスが口を開いた。
「そうですね」
イスカも窓の外を見た。
「空は繋がっているというのに、何故土地は分かれたのだろうな」
「四つの部族の話でしょうか?」
「わしはこの天下を統一しようと思っている」
「どうして…ですか…?」
「決まっておるだろう。平和の為だよ。もう誰も戦争なんてしない世の中を作るんだ」
「父上は、その為に戦うのですか?」
「そうだ。私と、お前の母親の願いの為にな」
「母上の?」
「そういえば、エヴリの話はあまりしてこなかったな。エヴリは戦争孤児だった。わしの父が創設した孤児院の視察に行った時が初めての出会いだ。気の強い人で身寄りのない孤児達の面倒をよく見ていたよ」
「そうだったのですね」
戦争孤児など、イスカには初耳だった。
「話が逸れたな。イスカ、わしの夢はお前が引き継げ」
「…父上、酔い過ぎです。今日はもう寝ましょう」
「はは、そうだな。わしもまだくたばる訳にはいかんからな」
「そうですよ。どうか長生きして下さい。父上。私はまだまだ未熟者ですから。それでは失礼します。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
イスカは部屋を後にした。ピュリスは夜風に当たろうと思いベランダへと出た。
ピュリスは右手で星を握りしめた。
「エヴリ。わしはやるぞ。この手で、天下を…」
翌日、ピュリスは遺体で発見された。
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




