EP48 回帰
「タケル」
タケルはオーバーワールドの中で声を聞いた。
「ボルケーノ?」
「ソウダ。久シブリダナ」
「どうしてここに…」
「オ前ヲ導ク為ダ」
「僕を?」
「少シ歩コウ」
「分かったよ」
オーバーワールド内の様子が変わった。二人は宇宙空間の中を進んでいた。遠くには星々が輝いていた。
「あれって」
「アア。地球ダナ」
「すごいや。そっくりだ」
「ドウヤラココハ、タケルノ記憶ガ反映サレテイル様ダナ」
「ボルケーノはさ、俺がドミナードに操られかけた時、真っ先に助けてくれようとしたんだね」
「タケルノ魂ニ接触出来タノハ、俺ダケダッタカラナ。ダガ奴ノ力ハ強大ダッタ。スマナカッタナ。助ケラレナクテ。タケルニ辛イ思イヲ沢山サセテシマッタ」
「ボルケーノが気にすることじゃないよ。それにもう覚悟は出来ているんだ。僕は僕のやるべきことをやるよ」
「大人ニナッタナ。タケル」
「ボルケーノ程じゃないけどね」
「ハハハハハ、言ウヨウニモナッタナ」
「それに辛かったのはボルケーノもでしょう?」
「昔ノ話ダ。モウ覚エトランヨ」
「嘘つけ」
タケルはボルケーノの長い首元に身を寄せた。硬い皮膚は確かな熱を帯びていた。
「会えてよかった」
「アア。俺モダ」
次の瞬間、ボルケーノは消えてしまった。しかしボルケーノの体温は、しっかりと体に染みついていた。
タケルは再び進んだ。道の先は、龍牙城遺跡へと続いていた。そしてそこにお母さんがいた。
「エスペーロ。大きくなったわね」
「お母さん…」
「行きましょう」
「うん」
タケルの右手が母親の逆手と重なった。
「私はあなたに、あまり母親らしいことをしてあげられなかった。ずっと後悔していたわ」
「うん。分かってるよ」
「こうしてまた触れることが出来て、すごく嬉しい」
「お母さんも、ずっと一人だったんだね。今まで、大変だったんだね」
「エスペーロ…」
お母さんの声は震えていた。
「全部見たよ。もう僕は何も知らない無力な子供じゃない」
タケルは母親を抱きしめた。
「お母さんが与えてくれた愛情を、今度は僕が返す番だ」
タケルの背中に回った手が優しく動いた。
「ありがとう。エスペーロ」
そう言い残して母親は消えた。
タケルは歩き出した。
「君は…」
道の先はかつてビオロと歩いた森へと続いた。
「礼を言いに来たんだ。クロウリー・オーガストを殺してくれて、ありがとう。タケル」
「ジン…」
「そうか。君も」
「ああ。僕もだ」
二人は互いに微笑んだ。
「礼を言うのは僕の方さ。あの時ジンに叱られていなかったら、この結果には行き着いていなかった」
「これが運命ってやつだな」
「そうだね。こうなる定めだったんだ」
一瞬の沈黙。二人は黙って歩いていた。
「僕も大勢人を殺したよ。それもこの手で直接。あんなに気持ち悪いんだね」
「後悔に苛まれたろう。俺は復讐の為って自分を正当化して耐えたんだ。タケルは?」
「僕は、それこそこれが運命だって気づいたんだ。だから僕は決着をつけなくちゃいけない」
「そうだな。人は皆違うんだ」
「うん。その通りだよ」
二人は固く手を握り締めた。
「会えてよかった。ジン」
「あと少しだ。頑張れ」
タケルは力強く頷いた。ジンは消えた。
タケルは歩き出した。
「え…」
突然、雨が降り出した。遠くに一人の姿が見える。
その姿は段々と近づく。タケルは全てを見た。
「あなたが、ビオロのお母さんですね」
「ええ。初めまして。ご主人様」
「やめて下さいよ。違いますから」
「いいえ、私はドラゴメイドです。ドラゴプロクス様に仕えるのは当然のことですわ」
「僕にはビオロがいます。それにあなたには、ドラゴイードルを育てる過程で奇跡が起きたんだ。あなたは、ドラゴイードルのドラゴメイドなんですよ」
「…薄々、そんな予感はありました」
「それをあなたは申し訳なく感じていた。そんなことないですよ」
ビオロの母親は目を見開いた。
「あなたはドラゴイードルを我が子の様に想っていた。愛していた。母が子を愛するのはなんら不思議なことじゃない。あなたは間違っていない。自分を責める必要はない。そして、ビオロを産んでくれて、ありがとうございます」
ビオロの母親は深々と頭を下げた。
「そ、そんな。顔を上げて下さいよ」
ビオロの母親は背筋を伸ばした。その顔は微笑みを浮かべていた。
「ありがとうございました。ドラゴプロクス様」
「へへへ、もう違うんですけどね」
タケルは頭を掻いた。
「失礼しました。ありがとうございました、タケル様。ビオロのことをどうか、よろしくお願いします」
タケルは目を見開いた。そしてすぐに笑顔になった。
「任せて下さい」
ビオロの母親の隣にもう一人のタケルがいた。
「あの時は、助けてくれてありがとう」
「お前の勝ちだ。タケル」
「そうか。君の名前も、タケルだったんだね」
「うん。お母さんにつけてもらった名前なんだ」
「いい名前だよ。すごく」
「そろそろお別れだな」
「握手の一つでも交わしたいけど、もう傷つけ合いたくないからね」
「ああ。じゃあな」
もう一人のタケルも笑った。
固く手を繋いだ二人は消えた。
タケルは歩き出した。
道の先は、長い廊下へと繋がった。
「時間やばいぞ!早く!」
「何言ってんだよ!お前が教室間違えるからだろ!?」
「こんな時まで何やってんのよ」
「そうよ、とにかく今は急がないと」
四人の少年少女達はタケルを追い越し、先へと駆け抜けていった。
道は地球防衛軍本部の廊下に変わっていた。
「タケル、ちょっといいかしら?」
廊下を進んでいると、背後から声をかけられた。
「はい、なんですか」
タケルは振り返った。そこにはサイトウがいた。
「久しぶりね」
「ええ。それにこの廊下、あの日を思い出します」
「そうね。私もよ」
向かい合って沈黙が続いた。
「じゃあ、僕は行きますね」
タケルは背を向けて歩き出した。
突然、背中に温もりを感じた。タケルの腹に両腕が回った。
「ちょっと、サイトウさん!もう行かないと」
「分かってるわよ」
そう言いながらも腕の力を強める。
「ずっと…こうしていたかった。地球防衛軍なんて、いらなかった。クロウリーに従った、従わさせられた私が馬鹿だった。私はあなたと、二人きりの世界にいたかった」
「サイトウさんは、ずっと一人だったんですね」
「そうよ。あなたは私の初めての家族」
「僕もそうですよ。素敵な名前を付けてくれて、大切に育ててくれてありがとうございます。お母さん」
背中で、サイトウが震えているのがわかった。
「今僕はすごく安心しています。こうやって抱きしめられるのが好きだったから。僕もずっと、あの真っ白な部屋にいたかった。でも僕の世界はもっと広かったんです。だったら僕が守らないと。その力が、僕にあるから」
タケルは見つめていた右手を握りしめた。
サイトウが自らの手を重ねた。
「心配しないで下さい。絶対に生きて帰りますから」
「ええ。待っているわ。頑張ってね」
「はい!」
サイトウは消えた。
道の先が光り輝いていた。
「みんな、ありがとう」
タケルはそこで空間を切り裂いた。
――――――――――――――――――――
ドミナードは銀河をまた一つ滅ぼした。その背後に、時空の裂け目が出現した。オーバーワールドに繋がり、中からタケルが現れた。
「ソンナ…ハズハ…。オ前ハ、タケルカ?」
「ああ。無の力、ドラゴニヒロスを継承した」
「ソンナノ聞イテナイゾ!」
「当然だ。歴史上に登場することは二度とはない」
「小癪ナ。宇宙ノ塵ト化セ!」
ドミナードの拳の先から、炎と水を纏った闇の龍が後光を放ちながらタケルに迫った。
タケルは右手を前に突き出して広げた。タケルの手に触れた瞬間、龍は跡形もなく消滅した。
「ナン…ダト…」
「お前に僕は倒せない」
「嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ!俺ハ最強ダ!宇宙ヲ掌握スル力ヲ手ニシタンダ!」
あらゆる方向から飛び出した龍だったが、タケルに触れるものは一つとしてなかった。
「ドラゴニヒロスの前では無駄だ。僕はあらゆるものを無に変える力を持っている」
「黙レッッッ!」
ドミナードは一瞬にしてタケルに接近し、燃え盛る剣を創造してタケルを切り付けた。
タケルはその攻撃を右腕で受け止めた。刃は腕に入ることなく消滅した。
突如、無数の剣がタケルを貫いた。タケルは動きもしなかった。状況は何一つ変わらなかった。
その不意をつき、ドミナードが殴りかかった。タケルの左頬に当たったはずだった。しかし拳は頬をすり抜け、さらに貫通し、タケルにめり込んだ肘までが無くなっていた。
「僕の体もまた、無でできている。それに触れる物も無になる」
ドミナードの右腕は瞬時に再生した。握り締めた右拳をタケルの腹に叩き込んだ。手がタケルに触れる瞬間、ドミナードは掌で太陽を創った。しかし太陽の熱でも光でも、ドラゴニヒロスの前では無意味だった。ドミナードの腕は再び消滅した。
「コレナラドウダ!」
ドミナードが分身した。数多のドミナードから、数百、数千の龍が放たれる。しかしそれらも、タケルに傷をつけることはなかった。
ドミナードはタケルに向かって手を伸ばした。
「今ノ私ニ不可能ハ無イッ!」
ドミナードはゆっくりと、しかし着実に完璧なビオロを創造した。
刹那、タケルは互いの掌を合わせた。ブラックホール同士が重ね合わさった。互いの引力が斥力となり大爆発が起きた。その衝撃波は、ドミナードの肉体を素粒子単位にまで還元させるのに充分であった。余波により、隣接する八つの銀河が消滅した。
ドミナードが再生した瞬間、タケルは彼をオーバーワールド内へと押し込んだ。
――――――――――――――――――――
「ドコダ…ココハ…」
ドミナードは辺りを見渡した。
「ここはオーバーワールドだ」
ドミナードが振り返るとそこにはタケルがいた。
ドミナードが構える。
「無駄だよ。ここにはドラゴゲネシスでも扱える原子はないからね」
「ソレデモ俺ハ死ナヌゾ。何ヲスルツモリダ」
「危害を加える気はないよ。僕は君を救いに来たんだ」
「俺ヲ救ウダ?ハハハ、馬鹿馬鹿シイ。俺ハドラゴギゥイルトシテ生マレタンダ。俺ハ常ニ悪役ダッタンダ。俺ヲ救ウ奴ナンテイナカッタ!」
「だから、僕がなるんだ。君はずっと一人だったんだろう?」
オーバーワールド内が変化した。二人は牢の前にいた。
「ココハ…」
「そう、スラーヴォの拠点の地下牢だ。僕と君が、初めて出会った場所だよ」
「ソウ…ダナ…」
「あの時も、ビオロが、ドラゴメイドがいたなんて思っていなかったんでしょ?」
「アア。ダガ奴ニハ俺ノ声ハ届カナイサ。一度覚醒シタドラゴニュートデモナイ限リハ」
「自分の理想を叶える為に、僕を利用したんだね」
「ソウダ。後少シデ到達スルハズダッタンダ。闇ダケノ世界、理想郷へ」
「そんな世界で、君は何をするつもりだったのさ」
「…ハ?」
「全て破壊して、何も残らなくて、ただ死ぬことのない自分だけが残る。結局一人のままじゃないか」
「違ウ!ドラゴフォースノ世界ナノガイケナインダ。俺ガ世界ヲ創リ直セバ変ワルハズナンダ!」
「違うよ。だって、変わらなかったじゃないか」
地下牢はかつてのドラゴフォースの体内へと様相を変えた。
「君がドラゴフォースから逃れたことにより全てが始まったんだ。きっと結果は変わらなかった」
「ジャア俺ハ…ドウスレバイインダ。コノママ、ズット一人キリデイロッテノカ?」
「少しの間だけど、君と一緒に過ごして気づいたんだ」
「何ニダ…」
「君は一人が怖かったんだ。狂って暴れ出すほどに」
「……」
ドミナードはタケルに背を向けた。
「一人でいると、いじめられるもんね。君は安心が欲しかったんだ」
「ミンナ…俺ヲ閉ジ込メテ、孤立サセルンダ。俺ダッテ辛インダ。死ネナイノニ、存在ヲ否定サレ続ケルノハ…。生キテイタッテ辛イダケナンダ。デモ死ヌコトハ出来ナインダ。モウ誰カニ、終ワラセテホシイノニ…」
「君は一人じゃない」
タケルは背後からドミナードを優しく抱きしめた。
ドミナードは目を見開いた。
「デ…デモ俺ハ…今マデ沢山殺シテキタンダ。許サレルハズナインダ。オ前ニダッテソウダロ、タケル。俺ハオ前ヲ利用シテキタンダ。オ前ヲ使ッテ人ヲ殺シモシタンダゾ。…コンナ…コンナ事サレル義理ハナイ。俺ハ優シクサレル理由ナンテ無インダ…」
「そんなことないよ。僕だって自分の意思でスラーヴォを、モナードヴェンを殺したんだ。たとえ世界が君を見放しても、僕はしない。ドミナード、君には僕がいるよ」
「ソ…ソンな…オレは…俺は…お…おお…おおおおおお…」
ドミナードは小刻みに震えていた。
「うん、うん。今まで一人で大変だったね。何度でも言うよ。君は一人じゃない」
「ああ……そうか……俺は……」
「落ち着いた?」
「ああ。ありがとう。タケル」
二人はまだ身を寄せ合ったままだった。
「牢の中は辛かった。でもセンセイといれるなら、それでよかったよ。…いや、そしたらタケルと会えなかったから、飛び出して正解だったのかもな」
「そうだね。こうして君と友達になれた」
「とも…だち…?」
ドミナードはタケルを見た。
「そうだよ。僕達はもう友達だ。僕らの罪は決して消えない。だから分かり合える唯一の僕らは、友達以外の何者でもないよ」
「ありがとう…。ありがとう…タケル…」
二人は笑い合った。
「後は任せて、ドミナード。僕が決着をつけるから」
「うん。最後に、友達ができてよかったよ。ありがとう、さようなら。タケル」
ドミナードは魂と化した。タケルは目の前に浮かぶそれを口に含んだ。
「いただきます」
パキッ
ドラゴプロクス、ドラゴイードル、ドラゴゲネシス、ドラゴフォース、ドラゴギゥイル。五大龍王全ての魂が、タケルの中に流れ込んだ。
「ほら、本当の闇はこんなにも暖かい。闇は必ずしも悪じゃないんだ。そして悪は、全ての魂に存在する」
タケルは両手を伸ばした。周囲の様子がまた変わった。炎をあげるパシフィスの塔を背後にして、そこにデトルートがいた。
タケルはデトルートの首を絞めた。
その瞬間、地面の草花が一斉に燃えた。
デトルートの足が浮いた。タケルの首も指の形に沿って歪んだ。
「お前は…僕は…楽しいと感じたんだ。…人を殺すのが楽しいと…!自分の力が証明されるようで…嬉しかったんだ!」
タケルはさらに力を強めた。その分、タケルの首も締め付けられた。
「お前が悪だ。僕の心の悪なんだ!」
デトルートは笑みを浮かべた。
「でも悪を否定することは、僕を、心を否定することと同じなんだ」
タケルとデトルートの上半身が縦に裂け、透明と、五色が混ざり合ったそれぞれの魂が露呈した。
デトルートはタケルの背中に手を回した。
二人の距離は近づき、そして魂は重なり合った。
タケルとデトルートは一つになった。
タケルの体が、白色と黒色で染まった。
タケルは空間を割き、オーバーワールドを抜けた。
――――――――――――――――――――
タケルはレグーノの太陽を見つめていた。
「アカシックレコードに繋がって、僕は全てを見た。僕の記憶、ジン・オーガストの記憶、アマテルツキノミヤノタケルの記憶、タツの記憶、アブド・デ・へルートの記憶、カホールの記憶、ボルケーノの記憶…この宇宙で生きとし生けるもの全ての記憶を見た。そして気づいた。この世界の歴史は戦いの歴史だ。争いの歴史だ」
タケルは左右の指先を合わせた。掌の空間の中にブラックホールが形成される。
「争いは違いから生まれる。違いは他者から生まれる。他者という概念は自分から生まれる。もう全て、終わりにしよう。二度と争うことのないように」
合わせた指先を離した。ブラックホールが広がった。
「僕の世界は、僕が終わらせる」
ブラックホールが急激に膨張した。次々と連なる銀河を取り込んでいく。そして遂に、無の境界線に達した。ドラゴニヒロスの創造したブラックホールは、無の境界をも取り込んだ。こうして宇宙の全てがブラックホールに飲み込まれた。
宇宙は臨界質量密度に到達した。その瞬間、宇宙は急速に収束を始めた。宇宙の終焉、ビッグクランチの始まりだった。
全てが一点、体積の無く無限のエネルギーを持つ特異点――タケルの中心――へと集まっていく。
やがてタケルの肉体も中心へと回帰した。
ドラゴニヒロスの魂の亀裂がゆっくりと閉じていった。
そして何もなくなった。世界は、無に帰した。
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「縺薙l縺ァ邨ゅo繧峨↑縺??らオゅo繧峨○繧峨l縺ェ縺??ゅ□縺」縺ヲ縺セ縺?縲∝?騾「縺医※縺ェ縺?°繧峨?」
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第陸章 森羅回帰篇 完
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




