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【完結】アカシックレコード  作者: 白黒羊
第陸章 森羅回帰篇

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EP47 我が為の戦い

タケルは目を覚ました。

目の前にいる、黒く染まった自分の姿を見つめていた。

「コロスッ!コロスッ!ウオオオッッッ!!」

デトルートは叫びながら大男の顔を握りつぶした。

青い血が辺りに飛び散った。

そんな…。

「グァァアアッ!ガアアアッッ!」

デトルートは男の四肢をもいだ。女の腹を裂いた。子供を踏み潰した。

やめろ…やめろよ…!

「オレガ…一番強イッッ!!」

デトルートが女の首を潰した。

やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!

タケルの声が届くことはなかった。

く…くぅ…クソぉ…。

タケルの体がデトルートに触れることはできず、視界は一切動かなかった。タケルは現実から目を背けることができなかった。

僕は…人殺しだ…。

タケルの記憶はさらに過去へと遡る。

惑星カアス。そこでタケルは、モナードヴェンを惨殺した。

タケルは頭を抱えた。掌が熱く煮えたぎるのを感じた。悪寒がして、タケルは掌を見た。

掌は青や白の血で染まっていた。

はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…

ボタボタと、血が垂れた。


「つまらないな」


うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

ドミナードが動き出した。

「グアアッッ!」

拳を突き出しただけでその衝撃波は星を一つ破壊した。

ドミナードは息をするようにして星系を破壊していった。

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

タケルは暗黒の中で蹲りながら泣いていた。

いつからそうしていたのか分からないが、ある時、声が響いた。

「いつまでそうしているつもりだ。タケル」

タケルにとってその声に聞き馴染みはなかった。

「お前もどうせ戦えって言うんだろ!」

「いや、言わない。僕は誰よりも君を理解している」

「…誰だよ、あんた」

「いずれ分かる」

「………」

「君はいつも、何かに縛られて戦ってきた。地球防衛軍の時は、地球を守る為。ティラーノ、ルーノ、トクォーノら月からの使者スラーヴォと戦った時もそうかな。誘拐されて、君を利用する為にサイトウさんを殺されて、でもビオロに出会った。ドラゴイードルとも。その時も君は、残念ながらビオロに利用されていたんだ。復讐の道具として。でも君にとってそれは本望だった。ビオロの為ならなんでもできた。そうだろう?」

「当然だ」

「ドラゴイードルは地球人の生き残りを殺した。いや…ドラゴイードルというより、クロウリーが、か。それらも君が全て殺した。カアス中のモナードヴェンを皆殺しにした。死んだ彼女の為に。それからブラックホールに接触し、天の川銀河を消滅させた。ドミナードの支配下で、君は戦い続けた。沢山の星を破壊した。多くの人を殺した」

「その通りだ。だから僕は戦わない。ビオロもアブドもみんな消えた。僕は戦わなくていいんだ」

「二人の前で啖呵切っといて、それかよ」

「だってあの時は!知らなかったんだ。僕が殺人鬼だなんて。あんな記憶…見たくなかった。この手に、この足に、感覚が甦ってきたんだ。肉や骨を潰す感覚が。今はもう…力を出せない」

「仕方ないじゃないか。これは必要な過程なんだ」

「…!まさかお前が!」

「大正解」

タケルは立ち上がり、声のする方に殴りかかった。しかし、そこには誰もいなかった。

「どこだ!一発殴らせろ!」

「僕を殴って何になるんだ。それに僕の血を見たら、君が立ち上がることもできなくなる」

タケルはその時になって自分の状態を理解した。

「君はまだ動ける。いや、動かなくてはならない」

「何の為に」

「ドミナードを止める為。彼を解き放たったのはタケル、紛れもなく君なんだよ」

「だってそれは…ビオロを…」

「騙される方にも責任はあるということだね」

「それは…。こんな話をしたいんじゃないんだろ」

「その通り。僕は君を動かしにきた。僕はドラゴニヒロス。無を操る龍王だ」

「無を…?」

「そうだ。そしてこの力を使い、ドミナードを止めろ。全てに決着をつけるんだ」

「でも龍王は死なないんじゃ…」

「その為の無の力だ」

「ドミナードを消し去るのか?」

「そうじゃない。まずはドミナードの心を救う必要がある」

「奴の心を」

「彼の心と繋がっていて、何か感じなかったか?」

「そういえば眠っている間、ずっと冷たかった。なんというか、寂しげだった」

「そうだ。彼の心は固く閉ざされている。その心を救い出すんだ」

「どうやって?」

「まぁ待て。まずは敵のことを知らないとな」


パチン


指を弾く音がした。タケルを包む空間が歪み、新たな形を形成した。タケルの目の前には、牢があった。

『ここは?』

『ドラゴフォース』

『あの牢の中に入っているのは?』

『あれが光と共に生まれ、光に封印された闇の龍王、ドラゴギヴィル』

『誰か来たぞ』

『ああ。光の使徒だろうな』

光の使徒と呼ばれた二人は牢の前で立ち止まった。手には槍が握られていた。

「なんで俺たちはこんな奴の見張りなんざしなくちゃなんねーんだよ」

「しょうがねぇだろ。コイツは何やっても死ななかったんだ。こうして見張っとくしかねぇんだよ」

「おいお前!」

使徒の一人が格子を蹴った。

「なんで死なねぇんだ。さっさと死ねよ!」

「あ…あああ…ぁぁ…」

「見てないでお前も加われ」

使徒はもう一人の使徒を駆り立てた。

「そ、そうだよな。悪いのは闇だ。闇があるのがいけないんだ」

もう一人の使徒も、格子を蹴った。

「お前のせいで皆迷惑してるんだ!」

「ご…ごえん…ああ…」

「いいぞもっと言ってやれ!この畜生が!」

使徒は警備用の槍をドラゴギヴィルに突き刺した。

「ひぎぃっ」

「ちょ、それは流石に。汚れたら言い訳つかねぇぞ」

「拭き取りゃ大丈夫だよ。お前もやっちまえ。こんな奴に情なんて要らねぇよ!」

「…お、おう。そうだな。…このクソが!」

結局、交代の時間までドラゴギヴィルは二人の使徒に虐げられ続けた。

『また誰か来たぞ。あれは女か?』

『使徒に性別なんてないよ。光の使徒はドラゴフォースの細胞…いや、当時は細胞なんて概念も存在していなかったか。いわばドラゴフォースの一部なんだから』

「可哀想に。これは度が過ぎているわ」

『ドラゴギヴィルを封印したことで休眠状態に入ったドラゴフォースは、無意識のうちにドラゴギヴィルの監視者である光の使徒を生み出した。幸か不幸か、光の使徒には感情のようなものが芽生えてしまった。これが後に大惨事を招くことになる。見ろ。あの使徒はドラゴギヴィルに言葉を教えているんだ。あの使徒だけは、唯一ドラゴギヴィルを敵視しなかった』

『ドラゴギヴィルの味方なのか?』

『よく聞こえるように言えばそう。悪く言えば、システムに紛れたバグだな』

「ごえんああい」

「違うわ。ごめんなさい」

「ごめんああい」

「な、さ、い。言ってごらん」

「ごめん、な、さ、い」

「そうよ。できるじゃない。でもやっぱり、私の前以外じゃ上手く喋れないのね」

「せんせい、しゃべれれば、いたくならない?」

「そうね。だから頑張りましょう」

「うん。がんばる」

『小さい時の僕みたいって思ったか?』

『………』

『本当に面白いよ。運命というものは。多少なりともお互いに、惹かれ合うところがあったのかもしれないね。それとも、最初から…』

「いつもありがとう、せんせい」

「いいのよ。痛いだけじゃ生きていることも耐えられないでしょう。ただでさえ死なない体なのだから」

『状況説明はこのくらいで十分かな。“その時”まで飛ばすよ』


パチン


再び指を弾く音がした。

風景は変わらなかった。また光の使徒達がドラゴギヴィルの前に現れた。今度は大勢いた。

「おいテメェ。どういうことだ。俺たちの仲間を誑かしているそうじゃねぇか」

「たぶらかすなんて、そんなことしてない。ただはなしているだけだ」

「口では何とでも言える。引き入れて利用するつもりだったんだろう。この卑怯者」

格子の隙間から、何本もの槍が次々とドラゴギヴィルを突き刺した。

「ぎゃああああああ!」

「やめてあげて!」

ドラゴギヴィルにせんせいと呼ばれている使徒が、牢の前に突き出された。

「見ていろドラゴギヴィル。お前に関わるとこうなるんだ。やれ」

ドラゴギヴィルの目の前で、せんせいは槍で胸を貫かれた。

「ああ…あああああ…ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「使徒とは二度と関わるな。お前はそこで縮こまっているだけでいいんだよ」

「あああ、ああああ、ああああああ!!」

ドラゴギヴィルが激しく痙攣する。

「うるせえぞ!少し黙っとけ!」

そう言ってドラゴギヴィルに槍を突き刺した瞬間だった。

「ころしてやる」


バーーーーン!!


ドラゴギヴィルは爆発した。

『こうして、ドラゴギヴィルが再び放たれた』

ドラゴフォースの一部が内側から伸び、限界で破裂した。中から漆黒のうねりが飛び出した。

『宇宙が誕生する以前の話だ』

「ドラゴギヴィルが逃げ出した!早く追いかけろ!」

『光の使徒達も早急に動き出した』

「かいほうされた!おれはじゆうだ!あははは!」

『ドラゴギヴィルは空間を切り開いて進んだ』

「逃さんぞ。諸悪の根源め!」

『使徒達は、ドラゴギヴィルを討つべく、光の弓矢となった。放たれた矢は、ドラゴギヴィルを貫いた。この瞬間、宇宙が始まった』


再びタケルは暗黒の中にいた。

「この後、復活したドラゴギヴィルが宇宙を破壊しかけたこともあったが、それは別の話だ。とにかく、ドラゴギヴィル、ドミナードの心は今も変わっていない。彼は孤独で、蔑まれ、存在が罪だった。だから彼は光主体の世界を憎んだ。ドミナードの心を救わない限り、この戦いに決着がつくことはない」

「だったらあんたがやればいい」

「今の僕はそのものが無だ。肉体はない。そして君以外、適任もいない」

「どうして僕なんだ」

「ドラゴニヒロスの力は言わば、この世の理に反する力だ。宇宙より先に存在する力だ。一種の概念とも言える。それはタケル、君も同じだ。君の心は解放されても、君の肉体はアブド・デ・へルートの肉体と融合し、ドミナードに取り込まれている。今の君は、肉体(うつわ)を持たない魂だけの存在なんだ。しかしここはカルディアではない。紛れもなく現実だ。タケル、今の君の存在は、この世の理を超越していると言って差し支えない程だ。君でなければいけない理由が分かるだろう?」

「あんたの言ったように、また僕は戦わされるんだな」

「違う。これは君の為だよタケル」

「…あんたまさか」

ふっ、と、笑みが溢れる音がした。

「最後は君の為の戦いだ。タケル。自分の為にドミナードを倒せ。自分の為に決着をつけるんだ」

「僕の…為に…。僕は、僕の世界を…!」

「それでいいんだよ。タケル。しばらくお別れだ。また会えるよ」

タケルの目の前に、透明の球体があった。タケルはそれを口に含み、噛み砕いた。


パキッ


タケルの中に無が取り込まれ、タケルも無となった。

――――――――――――――――――――

ポイント・ミデン、天の川銀河の無が凝縮し、タケルの肉体を構築した。タケルはそこにいた。

「アブド、ビオロ、ありがとう。ドミナードは僕が止める。この力を使って」

タケルは手で空を切った。無が切り開かれ、オーバーワールドと繋がった。

タケルはオーバーワールドの中へと消えた。

この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。

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