EP46 解放
ポイント・ミデンにおける銀河の消滅から7年が経過した。そこから発生した無の境界は進行を続け、宇宙の三分の一を飲み込み、無へと回帰させていた。
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ドラゴギヴィルの一撃で、惑星カニーツは破壊された。その跡で、ドラゴゲネシスとドラゴギヴィルは対敵していた。
「感動の再会だったな。アロン・デルート・ケイサル。まぁその骸も今や塵芥と成り果てたがな」
「全て、お前が仕組んでいたんだな」
「そうだ。名だたる十三の家に力を与え、長い年月をかけて王権を手中に収めた。そして中でも優秀な傀儡であったキプルス・タルタニッドに社会のゴミ共を集めさせ、暴力革命集団シュリンターを創設させた。そして最重要監視対象にすり替えられた元ケイサル王家跡継ぎである君を誘拐し、混乱の兆しとして用意した。君は順調にシュリンター兼ガルディオ訓練生として矛盾を抱えたまま育ち、あの日、あの場所で、遂に革命の狼煙は上がったのだ!シュリンターはメレッドに名を変え、宇宙大戦が始まった。シェニー・アグリアを起こさせ、シュリンターが疲弊したところで内部分裂を起こし、メレッド、ガルディオ、オルディネイト、その全てに決着をつけさせた。こうして時は満ちた。俺の敵は全ていなくなった」
「お前は一つ間違っている」
「何?」
「俺はお前の敵だ、ドラゴギヴィル。俺は何度でもお前の前に立ちはだかるぞ」
「世間知らずの坊ちゃんに羽が生えた程度の分際で何が出来る!お前は俺を止められない。何故だか分かるか?それはお前が弱いからだ。ドラゴゲネシス。お前に俺は倒せない。そういう歴史なのだ。俺の知るドラゴゲネシスは、今のお前よりも何倍も強かった」
「お前はまた間違えた。俺はアロン・デルート・ケイサルでも、ドラゴゲネシスでもない。俺はアブド・デ・へルートだ。随分と長く生きていたようだが、頭脳は子供のままのようだな」
「なんだと!」
龍がアブドに向かって一直線に進む。龍はアブドに衝突する直前、その首が落ちた。
「そういうところだぞ、ドラゴギヴィル」
「うるさい!!」
ドラゴギヴィルが大の字に体を広げる。背中から、あらゆる方向へ龍が伸びる。
「殺れッッ!!!」
龍達がアブドを狙い動き出す。アブドも体を広げる。アブドの周りを無数の剣が一周する。
剣が龍の頭を貫いていった。
「クソがぁぁぁぁぁ!」
ドラゴギヴィルの拳を握りしめる。そして高速で接近し、アブドへと押し付ける。アブドはそれを腕で押さえ込んだ。すると突然アブドの腕が炎上した。だがその炎もアブドの腕に吸い込まれるように消えた。
「ドラゴゲネシス。力の正体はなんだ」
瞬時に巨大化した左フックが決まる。ドラゴギヴィルが吹っ飛ばされる。
「教えてやるよ。ドラゴゲネシスは、何かを生み出すだけの力じゃない。原子を操る力だ。こうして、材料さえあればなんでも作れる」
アブドは体内から剣を抜き取った。
「お前が全てを破壊すると言うのなら、俺が全て創り直してやるよ」
「くっくっくっくっ。だが俺はお前の弱点を知っているぞ」
ドラゴギヴィルが逃げ出した。アブドはすぐさま後を追う。
目の前に小惑星帯が迫った。突如、小惑星が破裂し、星のかけらがアブドを襲う。
「この前の戦いの時、お前は一度しか光速に達していない。何故だか分かるか?それが、貴様の体力の限界だからだ!」
かけらの隙間から、龍が飛び出す。
アブドは散らばる岩石を集めて巨大な盾を創った。
しかし、所詮は岩石の急造品であった。龍の勢いを殺しきれずに盾は砕け散った。
龍に囲まれた。逃げ場はなかった。
その瞬間、アブドは動いた。周りの全てがゆっくりと進む。
アブドはドラゴギヴィルの背後に回った。瞬時に生成した剣を振り上げる。
「甘い」
剣先は左手の人差し指と中指の間にはまった。
「龍の情報は、全て俺の脳内とリンクしている。龍それぞれの目や耳が俺のそれであり、また俺の命令を龍は忠実にこなす。こんな風に」
アブドの背中に龍が突き刺さった。
「ガアッ!」
傷口が凍り始める。背中に激痛が走った。
「アガァァァアア!」
アブドは左手でドラゴギヴィルの首を絞めた。ドラゴギヴィルは易々とその腕を切断した。しかし、アブドはすぐさま再生させ、力を加えた。
「こ…小癪なァ…!」
ドラゴギヴィルの右手がアブドの左手を押さえた。
「オラアアアアッッ!」
龍を勢いよく動かし、アブドを吹っ飛ばした。アブドは小惑星に激突した。
「カハッ…」
「見ろよアブド。無の境界線だ」
ドラゴギヴィルは指差した。
「あれに飲み込まれれば、何もかも無くなるんだ。なら同じことじゃないか。俺が全てを破壊しようが。そこにあるのは消滅までの時間の差だけだ。それも微々たるものにすぎない。なぁ、アブド。いいだろ?」
「いい訳あるか。命を奪うことを正当化する理由なんか無い。それにお前は、何が不満なんだ。俺は分からないよ。俺はあの日見た輝く宇宙を今でも覚えている。あの景色が、お前の目にはどう映るんだ」
「光が創った世界なんて、それだけで破壊する理由には十分だろう。アブド、俺はずっと辛かったんだ。誰からも必要とされず、存在しているだけで憎まれ、恨まれ、全ての罪は俺のものとなった。いらないよ、こんな世界」
「宇宙はお前のものじゃない。お前が決めていいことじゃない!」
アブドが小惑星を蹴った。高速でドラゴギヴィルに接近する。
「アアアアアアアアッッッ!!」
「だから全て壊して、俺のものにしようとしているんだろうが!」
ドラゴギヴィルも、負けじと背中から龍を出現させる。
進むアブドと伸びる龍が描く線が宇宙を裂くように走った。
再び、アブドは龍に囲まれた。
「終わりだアブド。もう光速は使えない。お前の負けだ」
「ウオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!」
刹那、龍の首が全て落ちた。
そしてドラゴギヴィルの胸を何度も強打した。
「ガア!ガア!ガア!ガアッ!」
ドラゴギヴィルの左肩を掴み、右拳を握りしめる。
「アアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!」
腕がスーツを見に纏い、肘についた噴射口が火を吹いた。
アブドは限界まで溜め込んだエネルギーを一気に解放し、右拳をドラゴギヴィルの顔面に打ちつけた。
ブチブチブチブチ
頭頂から股まで、ドラゴギヴィルの体が左右に裂けた。
そして中から、真っ黒な腕が2本飛び出した。
腕はアブドの背中に回り、アブドをドラゴギヴィルの体へ抱き寄せた。
アブドはそのまま、ドラゴギヴィルの体内へ吸収された。
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ビオロは言った。
「方法は一つ。私の魂を飲み込み、あなたがドラゴギヴィルに喰われるの」
ドラゴゲネシスとドラゴフォースの力が無意識のうちに働かないように、体力を限界まで消費する必要があった。
そうか。俺はこの時の為に、アロン・デルート・ケイサルとして、アブド・デ・へルートとして生きてきたのか。
アブドは瞼を開いた。
目の前に、両手足を先の見えない長い鎖で繋がれた少年がいた。
「起きろ。タケル。迎えに来たぞ」
『タケ…ル…?誰だそれは。僕はデトルートだ』
アカシックレコードで見た記憶と、同じ声が脳内に響いた。
「いいや違う。君はタケルだ。君はドラゴギヴィルに、ドミナードに操られている。俺はそれを止めに来た」
『駄目だよ。ここにいろと言われているんだ』
「そうか」
アブドは自分の胸に手をめり込ませた。そして中から赤い球を取り出した。
「ここからは君の出番だ。ビオロ」
アブドが赤い球から手を離すと、魂を起点としてビオロの体が出現した。
「ここまでありがとう。アブド」
「ああ」
ビオロはタケルの顔に両手で触れた。
「タケル。起きて」
「無理だよ」
また別の声が響いた。
「ドミナードッ!」
「デトルートは俺のものだ」
「そうはさせない。絶対に助ける。ビオロ、頼んだぞ」
「任せて」
「ティナと約束したんだ。全て終わらせて、必ず帰るって」
アブドはドラゴギヴィル近づき、殴りかかった。
「タケル。起きて!アブドが戦っているのよ。あなたも!」
『僕はタケルじゃない。君は一体誰だい?何故僕に固執するんだ』
ビオロはタケルの体を抱きしめた。
「天の川のブラックホールで、私を蘇らせる方法を探していたのよね。全部見たわ。あなたはずっと、私の為に戦っていたのよね。ありがとう。ありがとうタケル。お願い。帰ってきて」
「グハァッ」
二人の足元にアブドが転がった。
「アブド!」
「お前じゃ俺に勝てないんだよ。アブド」
「気にするな…続けてくれ、ビオロ」
「タケル…あの日の…続きを。私に、幸せをくれてありがとう」
「まとめて消し炭にしてやる。消えろ!」
ドミナードが黒炎を吐いた。
アブドが立ち上がり、炎を受け止めた。
ビオロはタケルの唇にキスをした。
バキバキバキバキバキバキ
鎖に亀裂が走る。そして粉々に砕け散った。
タケルは目を覚ました。
「ビオ…ロ…?」
「タケル!」
「ここは…どこ?」
「ここは君の心の中だ。初めましてだな。タケル」
「君は?」
「俺はアブド・デ・へルート。ビオロと一緒に、君を助けに来た」
「そんな…そんな…!」
「お前の負けだ。ドミナード」
「いいや違う。アブド・デ・へルート!貴様の体は俺が吸収した。龍王の力は全て俺の下にある。ここでお前ら全員殺せば、何も問題はない!」
「させるか!」
アブドは再びドミナードに襲いかかる。
「タケル。あなたも戦うの。アブドを助けるの」
「うん」
タケルは真っ白な地面を蹴った。
ドミナードの蹴りがアブドの腹に入った。
後方に飛ばされるアブドの背中に触れ、勢いを殺した。
そしてドミナードの鼻先に右拳を叩きつけた。
ドミナードが吹き飛んだ。
「ありがとう。タケル」
「こっちのセリフだよ。アブド」
「いこう」
「うん」
二人は地面を蹴った。
「「ウオオオオオオオオッッッ!!!!」」
タケルの左拳が、アブドの右拳が、立ち上がったドミナードにめり込む。
二人の拳が、ドミナードを打ち破った。
ドミナードは消滅した。
二人は向かい合った。
「アブド、体が」
アブドの肉体も、消滅しかけていた。
「一つの肉体に魂は何個も入らないからな。俺は待ち人のところへ帰るよ」
「そっか。アブド、僕のいない間、世界を守ってくれてありがとう。僕を助けてくれてありがとう」
「これが俺の運命だったんだ。それに俺は礼を言われるほどの善人じゃないんだ」
「それでも君は僕の恩人だ」
二人は固く手を結んだ。
アブドは消えた。
「タケル」
ビオロが後ろから抱きついた。
「ずっとこうしたかった。寂しかったよ」
「僕もまたビオロに会えてすごく嬉しい」
「ずっとこうしていたいな」
「でも…」
「分かってる。私がすべき事も」
「ドラゴプロクスとドラゴメイドは二人で一つだもんね」
「ええ。あなたとずっと一緒にいられるなら、これ以上の幸せはないわ」
タケルはビオロの手に自らの手を重ねた。
「じゃあ、始めましょうか」
ビオロの温もりが消えた。タケルは振り返った。
「ビオロ」
タケルは目の前に浮かぶ魂を口の中に入れた。
「いただきます」
パキッ
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アブドは目を覚ました。
アブドの魂は、カルディアに還った。
「アブド…」
目の前に、ティナがいた。
「ティナ、ただいま」
ティナはアブドを抱きしめた。
アブドは瞬きをした。
目の先にシオンとリデルがいた。二人は笑っていた。
「「アブド、おかえり」」
光り輝く雫が溢れた。
アブドは笑った。
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「ガァァァアアアアアアアアアアッッッ!!」
バーーーーン!!
ドラゴプロクス、ドラゴイードル、ドラゴゲネシス、ドラゴフォース、ドラゴギヴィル。その全ての力を手にしたドミナードが目覚めた時、宇宙の半分が崩壊した。
「今コソ、コノ宇宙ヲ俺ノモノニ」
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ポイント・ミデン、天の川銀河の無が凝縮し、タケルの身体を構築した。
「アブド、ビオロ、ありがとう。ドミナードは僕が止める。この力を使って」
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




